週末、私は話し合おうとした。でも、夫が言った。
「ごめん。無責任だった。ちゃんと娘たちが自立するまで一緒にいるよ」と。
「え? どうしたの?」
「よく考えたら、まだ沙耶も生まれたばかりだし……」
――は? そんなの初めから分かってたことじゃないの? 私の時間返せよ。
私はなんだか腹が立った。でも今はそこじゃない。
「……分かった。私もその方がいいと思う。つまり、その人ともちゃんとするってことだよね?」
夫は黙った。
「ちゃんとする気ないのなら、私も自由にしていいってことよね?」
夫がゆっくりと頷いた。
「分かってる? 私が再婚でもしたら、娘たちと会えなくなるかもしれないのよ」
夫の口元が引き攣ったように微かに動いた。私はそれを見逃さなかった。
「ねぇ、ちゃんと考えてよ。その相手と別れて、私たちと一緒に今まで通り家族でいましょうよ。あなた、お義父さんとお義母さんにも親孝行できたって喜んでたじゃない。それなのに、こんなこと知ったら、悲しむと思わない?」
夫は俯いたままだった。
「あなたがちゃんとしてくれるなら、私も誰にも言わない。ねぇ、考えてもみて、私がそれを学校に言ったらどうなると思う?」
言った先から、胸が痛む。でもなりふりなんて構っていられない。私には娘たちを守る責任がある。それは夫だって同じはずだ。
夫がふっと笑った。
「……そうだよな」
「そうよ。だから、今まで通り私たちといた方が、拓実にとっても幸せだと思う」
「そうだよな。すまない。変なこと言って。……反省してるよ」
そう言うと夫は静かな笑顔を私に向けた。でもその瞳は虚ろだった。それでもいいと私は思った。私だって、娘たち二人を抱えて、シングルマザーになるなんて無理だ。それなら、たとえ偽りだったとしても、今の生活を壊したくなかった。
それに――。
私が他に誰か見つけたらいいのだ。夫だって文句は言えないだろう。沙耶を保育園に入れて、職場復帰したら、誰か探してやる!
――でも、誰が子供二人もいるバツイチ女なんかと結婚したがるんだろう?
私は夫に笑顔を向けた。
夫も私に笑顔を返した。
それから、私たちは、実家に娘たちを迎えに行った。
夫はその日から、何もなかったかのように、普通に過ごすようになった。私はほっとした。夫もやっぱり大人なのだ。きっと考え直したのだろう。
娘たちの面倒も相変わらず見てくれる。ただ最近、沙耶は夫が世話をしようとすると泣くようになった。私はその度に駆け寄って、世話を代わった。
「ごめん。俺、嫌われてんのかな?」
夫が悲しそうに笑った。
「そういう時期なんだよ」
私はその都度、夫を励ました。ここでダメになりたくなかった。
そんな日々が当たり前のようになって、そのうち夫は沙耶に近づかなくなっていた。
それでも葵のことは、公園へ連れて行ってくれたり、絵本を読んであげたり、相変わらず面倒を見てくれていた。そうやって秋が過ぎ、冬になった。今年も残すところあと一ヶ月になっていた。



