「無理」
「なんでよ」
「本当に無理」
「まだ乗ってないじゃん」
「見れば分かるだろう」
「何が?」
「落ちる」
「ジェットコースターだから当たり前じゃん」
「そういう意味じゃない」
「落ちるのが最高に楽しいのに」
海斗は、俺が思っていた以上に絶叫系が苦手だった。
ドラマのキャスト決定から一週間。撮影が本格的に始まれば、今よりも会う機会が減ってしまうと考えた俺たちは遊園地にデートをすることに決めた。正確に言うと、俺がただ海斗と遊園地に行きたかっただけでもあるが。
「意外。海斗って、こういうの余裕そうなのに」
「望はちょくちょく俺によくわからない偏見持ってるよね」
「だって、イケメンはジェットコースターも爽やかに乗ってそうじゃん」
「意味わからない」
「大丈夫だって。死にはしないから」
「その説明が一番怖いんだけど」
「まあまあまあ、大丈夫ですよ海斗さんや」
列はどんどんと前に進んでいく。進むにつれ海斗の顔は露骨に嫌そうな表情になっていく。普段は大抵のことを涼しい顔でこなしている海斗が、こんな顔をするのが面白くて、そして可愛くて仕方ない。
「写真撮ってもいい?」
「なんで?」
「記念写真」
「やめて」
「未来の人気俳優・朝倉海斗、ジェットコースター前でビビり散らかす」
「絶対SNSに載せるだろう」
「載せないって」
「信用できない」
「ひどい。情報系大学生のネットリテラシーなめんな。てか、恋人を信じなさい」
そんな問答をしたが、結局俺は海斗の写真を一枚だけ取った。海斗は本当に嫌そうな顔をしていて、それがどうしようもなく面白く、愛おしかった。
そして十分後。
「…」
「海斗」
「…何」
「大丈夫」
「だいじょばない。もう二度と乗らない」
「顔死んでるよ」
「望は、よくあれで笑えるな」
「え?だってめちゃくちゃ楽しかったじゃん!」
「途中で手離してなかった?」
「バンザイして、風を感じてたわ。気持ちはもう風の王だったね」
「意味わからない」
「海斗、ずっとバー握ってたよね。子供みたいで可愛かった」
「うるさい」
俺は笑いながら、海斗の腕を取った。
「じゃあ次は、平和なのに乗ろう」
「本当に?」
「メリーゴーランド」
「二十二と二十三の男二人で?」
「何か問題ある?」
「…別にないけど」
結局。
「せっかくだし乗ろう」
という俺の一言でメリーゴーランドに乗ることが決定した。
「海斗、顔死んでるけど」
「怖くないけど、恥ずかしさが勝って死にたい」
「俺は楽しいよ」
「望、こういうの好きだよね」
「うん」
「子どもみたい」
「おけ。降りたら一発殴るね」
そのあとも。ポップコーンを半分こした。海斗の飲んでいたジュースを勝手に一口飲んだ。
「それ俺のなんですけど」
「恋人なんだからいいでしょ」
「そういうルールあるの?」
「今作った」
写真もたくさん撮った。二人で撮る時は、海斗の背が高すぎて俺が映らないから俺が少し前に出る。
「海斗、もっと屈んで」
「これ以上?」
「顔の位置が合わない」
「望が背伸びすれば?」
「ん?喧嘩売られてる?」
「売ってない」
「ならよし。ただ何回も背伸びすると足つる」
「何歳だよ」
「ぴちぴちの二十二だが、なにか?」
ゲームコーナーでは。海斗が何度か挑戦して、小さな猫のぬいぐるみを取っていた。
「はい」
「え、くれんの?」
「望、こういうの好きそうだと思って」
「俺のこと何歳だと思ってる?」
「二十二歳のお子様」
「お子様ではないけども」
「俺からしたらお子様」
「一歳しか変わらないけどね。でも、ありがとう。部屋に飾るね」
「やっぱり好きなんじゃん」
「海斗が取ってくれたからね」
少し。海斗が黙る。
「…なに?」
「いや」
「嬉しかった?」
「まあ」
「本当に海斗って俺のこと好きだよね」
「返して」
「お断りします」
俺はぬいぐるみを胸に抱えた。
「この子はもううちの子です」
夕方。観覧車に乗った。
高いところから見る街は、普段よりもずっと小さく、そして綺麗に見えた。向かい側に座る海斗は、ジェットコースターと違って余裕そうだった。
「こういう高さは平気なんだ」
「落ちないから」
「ジェットコースターも基本落ちないけどね」
「基本ってつけるなよ」
俺は窓の外を見る。少しずつ夕日が落ちていた。少し沈黙が続いた。
「ねえ海斗」
「どうした?」
「有名になったらさ」
「うん」
「こういうところ、来れなくなるかもだよね」
口にしてから。少しだけ、変なことを言った気がした。海斗はすぐには答えずにいた。俺はいたたまれなくなって笑った。
「まあ、変装すればいいか。帽子とかマスクとかして」
「そうだね」
「海斗、背が高いからすぐにバレそうだけど」
「望が小さいから余計に目立つんじゃない?」
「今度こそ喧嘩売ってるよね」
「事実」
「もう帰るわ」
「観覧車の途中だけど」
「じゃあ降りたら帰る」
「ごめんて」
全然悪いと思ってなさそうだった。
海斗が俺の隣へ移動してきた。狭い観覧車の中で肩が触れる。
「でも」
「でも?」
「仕事が増えても、会う時間は作るよ」
「…」
「そこは変えたくない。俺は望と一緒にいたい」
海斗は俺の目をまっすぐ見つめながら言った。相変わらず綺麗な目をしているなと思った。
こういうことを、最近の海斗は言うようになった。俺はまだ慣れない。多分俺の顔は夕焼けで誤魔化されているけど真っ赤になっているだろう。
「何急にかっこいい事言ってんの」
「望が変なこと言うから」
「不安になった?」
「別に」
今度は俺が逃げた。顔をわざとらしく逸らしてしまった。
海斗は苦笑しながら。
「望」
「なに」
「こっち向いて」
何となく。この台詞を聞くと、初めてキスした日を思い出す。俺は海斗を見る。
「キスしていい?」
「また聞くの?」
「最近は聞いてない」
「今聞いたじゃん」
「観覧車の中だから」
「どういう理屈?」
「防犯カメラとか、隣の人から見えるかもしれない」
「急に現実的」
二人で笑った。
「いいよ」
海斗が少しかがむ。唇が触れた。
付き合う前は。こんなこと一つするのにも、何かが壊れてしまうんじゃないかとグルグルと考えていた。でも今はもう。目を閉じれば、海斗がそこにいることを知っている。
それがたまらなく嬉しかった。
唇が離れれる。
「もう一回」
俺が言う。
「望から言うんだ」
「悪い?」
「別に。可愛い」
二度目は、少し長かった。
「…海斗」
「なに?」
「今日、楽しい?」
「楽しいよ」
「ジェットコースターも?」
「ジェットコースター以外」
「また来ようね」
「乗らないから」
「まだ何も言ってないじゃん」
「絶対言うと思った」
「バレた?流石恋人様」
観覧車が一番高いところすぎる。少しずつ地上へ戻っていく。
そのときの俺は。海斗の言った「会う時間は作る」を言う言葉を、疑う理由なんて、一つもなかった。
「なんでよ」
「本当に無理」
「まだ乗ってないじゃん」
「見れば分かるだろう」
「何が?」
「落ちる」
「ジェットコースターだから当たり前じゃん」
「そういう意味じゃない」
「落ちるのが最高に楽しいのに」
海斗は、俺が思っていた以上に絶叫系が苦手だった。
ドラマのキャスト決定から一週間。撮影が本格的に始まれば、今よりも会う機会が減ってしまうと考えた俺たちは遊園地にデートをすることに決めた。正確に言うと、俺がただ海斗と遊園地に行きたかっただけでもあるが。
「意外。海斗って、こういうの余裕そうなのに」
「望はちょくちょく俺によくわからない偏見持ってるよね」
「だって、イケメンはジェットコースターも爽やかに乗ってそうじゃん」
「意味わからない」
「大丈夫だって。死にはしないから」
「その説明が一番怖いんだけど」
「まあまあまあ、大丈夫ですよ海斗さんや」
列はどんどんと前に進んでいく。進むにつれ海斗の顔は露骨に嫌そうな表情になっていく。普段は大抵のことを涼しい顔でこなしている海斗が、こんな顔をするのが面白くて、そして可愛くて仕方ない。
「写真撮ってもいい?」
「なんで?」
「記念写真」
「やめて」
「未来の人気俳優・朝倉海斗、ジェットコースター前でビビり散らかす」
「絶対SNSに載せるだろう」
「載せないって」
「信用できない」
「ひどい。情報系大学生のネットリテラシーなめんな。てか、恋人を信じなさい」
そんな問答をしたが、結局俺は海斗の写真を一枚だけ取った。海斗は本当に嫌そうな顔をしていて、それがどうしようもなく面白く、愛おしかった。
そして十分後。
「…」
「海斗」
「…何」
「大丈夫」
「だいじょばない。もう二度と乗らない」
「顔死んでるよ」
「望は、よくあれで笑えるな」
「え?だってめちゃくちゃ楽しかったじゃん!」
「途中で手離してなかった?」
「バンザイして、風を感じてたわ。気持ちはもう風の王だったね」
「意味わからない」
「海斗、ずっとバー握ってたよね。子供みたいで可愛かった」
「うるさい」
俺は笑いながら、海斗の腕を取った。
「じゃあ次は、平和なのに乗ろう」
「本当に?」
「メリーゴーランド」
「二十二と二十三の男二人で?」
「何か問題ある?」
「…別にないけど」
結局。
「せっかくだし乗ろう」
という俺の一言でメリーゴーランドに乗ることが決定した。
「海斗、顔死んでるけど」
「怖くないけど、恥ずかしさが勝って死にたい」
「俺は楽しいよ」
「望、こういうの好きだよね」
「うん」
「子どもみたい」
「おけ。降りたら一発殴るね」
そのあとも。ポップコーンを半分こした。海斗の飲んでいたジュースを勝手に一口飲んだ。
「それ俺のなんですけど」
「恋人なんだからいいでしょ」
「そういうルールあるの?」
「今作った」
写真もたくさん撮った。二人で撮る時は、海斗の背が高すぎて俺が映らないから俺が少し前に出る。
「海斗、もっと屈んで」
「これ以上?」
「顔の位置が合わない」
「望が背伸びすれば?」
「ん?喧嘩売られてる?」
「売ってない」
「ならよし。ただ何回も背伸びすると足つる」
「何歳だよ」
「ぴちぴちの二十二だが、なにか?」
ゲームコーナーでは。海斗が何度か挑戦して、小さな猫のぬいぐるみを取っていた。
「はい」
「え、くれんの?」
「望、こういうの好きそうだと思って」
「俺のこと何歳だと思ってる?」
「二十二歳のお子様」
「お子様ではないけども」
「俺からしたらお子様」
「一歳しか変わらないけどね。でも、ありがとう。部屋に飾るね」
「やっぱり好きなんじゃん」
「海斗が取ってくれたからね」
少し。海斗が黙る。
「…なに?」
「いや」
「嬉しかった?」
「まあ」
「本当に海斗って俺のこと好きだよね」
「返して」
「お断りします」
俺はぬいぐるみを胸に抱えた。
「この子はもううちの子です」
夕方。観覧車に乗った。
高いところから見る街は、普段よりもずっと小さく、そして綺麗に見えた。向かい側に座る海斗は、ジェットコースターと違って余裕そうだった。
「こういう高さは平気なんだ」
「落ちないから」
「ジェットコースターも基本落ちないけどね」
「基本ってつけるなよ」
俺は窓の外を見る。少しずつ夕日が落ちていた。少し沈黙が続いた。
「ねえ海斗」
「どうした?」
「有名になったらさ」
「うん」
「こういうところ、来れなくなるかもだよね」
口にしてから。少しだけ、変なことを言った気がした。海斗はすぐには答えずにいた。俺はいたたまれなくなって笑った。
「まあ、変装すればいいか。帽子とかマスクとかして」
「そうだね」
「海斗、背が高いからすぐにバレそうだけど」
「望が小さいから余計に目立つんじゃない?」
「今度こそ喧嘩売ってるよね」
「事実」
「もう帰るわ」
「観覧車の途中だけど」
「じゃあ降りたら帰る」
「ごめんて」
全然悪いと思ってなさそうだった。
海斗が俺の隣へ移動してきた。狭い観覧車の中で肩が触れる。
「でも」
「でも?」
「仕事が増えても、会う時間は作るよ」
「…」
「そこは変えたくない。俺は望と一緒にいたい」
海斗は俺の目をまっすぐ見つめながら言った。相変わらず綺麗な目をしているなと思った。
こういうことを、最近の海斗は言うようになった。俺はまだ慣れない。多分俺の顔は夕焼けで誤魔化されているけど真っ赤になっているだろう。
「何急にかっこいい事言ってんの」
「望が変なこと言うから」
「不安になった?」
「別に」
今度は俺が逃げた。顔をわざとらしく逸らしてしまった。
海斗は苦笑しながら。
「望」
「なに」
「こっち向いて」
何となく。この台詞を聞くと、初めてキスした日を思い出す。俺は海斗を見る。
「キスしていい?」
「また聞くの?」
「最近は聞いてない」
「今聞いたじゃん」
「観覧車の中だから」
「どういう理屈?」
「防犯カメラとか、隣の人から見えるかもしれない」
「急に現実的」
二人で笑った。
「いいよ」
海斗が少しかがむ。唇が触れた。
付き合う前は。こんなこと一つするのにも、何かが壊れてしまうんじゃないかとグルグルと考えていた。でも今はもう。目を閉じれば、海斗がそこにいることを知っている。
それがたまらなく嬉しかった。
唇が離れれる。
「もう一回」
俺が言う。
「望から言うんだ」
「悪い?」
「別に。可愛い」
二度目は、少し長かった。
「…海斗」
「なに?」
「今日、楽しい?」
「楽しいよ」
「ジェットコースターも?」
「ジェットコースター以外」
「また来ようね」
「乗らないから」
「まだ何も言ってないじゃん」
「絶対言うと思った」
「バレた?流石恋人様」
観覧車が一番高いところすぎる。少しずつ地上へ戻っていく。
そのときの俺は。海斗の言った「会う時間は作る」を言う言葉を、疑う理由なんて、一つもなかった。
