俳優の卵と理系大学生

 三軒茶屋のデート(?)のあと、俺から望に連絡を送ることも増えた。
 シフト表が変更になったと佐伯さんから聞いた日。
 望が来るかどうかが気になった。

【来週の木曜って、望はシフトに入る?】

 少しだけ緊張しつつも送ったら、すぐに返信が来た。

【入らないけど、俺に会いたいの?笑】

 本当にこの人はずるい。

 会いたいに決まっているじゃないか。

 そう言えれば、どんなに気持ちが楽な事か。でも、そうは言えない。「笑」が付いている。きっとこれも冗談なのだろう。

【佐伯さんが、シフト表を変更したって言ってたから確認しただけ】

 結局、俺は勇気が出ず、いつものように逃げの言葉を送ってしまった。

【そこは会いたいって言ってよ】

 文字だけなら、言えるかもしれない。何かあっても、冗談で押し通せるはずだ。

【じゃあ、会いたい】

 送ってしまった。少しだけ勇気を出したつもりだった。もしかしたら望も、嬉しいと、俺も会いたいと言ってくれるかもしれない。
 
 でも返ってきたのは、

【絶対に思ってないじゃん】

 だった。

 思ってないわけないだろ。
 俺がどんなに望に会いたいかなんてほんの少しも本人は気が付いてくれない。望のその返信に俺は、少し笑って、そして少し傷ついた。

【笑】

 また逃げた。

 それからしばらくして。
 ホテルの近くでワークショップがあった帰り。ワークショップの知り合いとホテルの近くを一緒に歩いていた時。

 望を見つけた。見間違えるはずがなかった。いつも、その人を、その人の名前を自分でも気が付ないほどに探して求めているのだから。

 向こうも俺に気が付いていたと思う。
 でも、声をかけてこなかった。

 いつもの望なら、絶対に話しかけてくるのに。やはり俺が望に期待しすぎているのだろうか。

 夜になって、連絡をした。

【望、今日もしかしてホテルの近くにいた?】
【いたよ】
【声かけてくれれば良かったのに】
【邪魔しちゃ悪いかなって】

 何が邪魔なのかが最初は分からなかった。俺はこんなに望に会いたいのに。
 でも、少し考えてから

【ワークショップの知り合い】

 と送った。

 聞かれてないのに説明した。もしかしたら、遠慮されたのかもしれないと。勘違いされたのかもしれないと。

 どうしても、望には彼女ではないと分かってほしかった。

【てっきり彼女かと思った】
【違う】

 少し嬉しかった。
 気にしてくれたのかと思った。

【海斗、ああいう綺麗な人がタイプそう】

 その言葉を見た瞬間。
 また分からなくなった。

 望は、俺が誰かと付き合っても笑っていられる程度の気持ちなのだと、俺と同じ気持ちではないのだと痛感させられた。

 だから、少し意地悪なことを送ってしまった。

【望は、俺が誰といても気にしないと思ってた】
【なんで?】
【誰にでも好きって言ってそうだから】

 本当は。
 俺にだけだと言ってほしい。そう思いながら、少し試すような言い方をしてしまった。

【誰にでもは言わないよ】

 心臓が跳ねた。

 続く言葉をじっと待った。

 海斗にだけ。
 そう来るのを。

【海斗くらいイケメンな人にしか、言わないって笑】

 やっぱり逃げた。

 そして俺も逃げた。

【そっか】

 俺は多分、この時点ではもう、なんとなく望の気持ちに気が付いていた。
 少なくとも、俺を特別に思ってくれていることくらい分かっていた。

 でも。
 分からないふりをした。
 望がはっきり言わないことをいいことに。

 望には未来があって、俺には未来があるかが分からない。
 そんな俺が望から直接求められていないのに、俺から望を求めることができるわけがなかった。

 俺が望の気持ちに気付かないふりをしていれば。
 俺も、自分の気持ちを認めなくて済む。

(俺なんかが望を求めちゃいけない)