本当はただの自己満足なのかもしれない。
眞白さんのことを心配しているふりをして、自分のためなのかもしれない。
ただ、自分が会いたいだけなのかもしれない。
迷っていたら眞白さんのマンションに着いたのは6時をまわってしまっていた。
いつものようにドアホンを押す。
返事がないので、ドアノブを回した。
やっぱり鍵はかかっていなかった。
「刑法第130条住居侵入罪」
後ろから声をかけられた。
振り向くと眞白さんが立っていた。
「まだ中には入っていません。ドア、開けたまま出てたんですか?」
「ゴミ捨てに行ってた。盗られる物何もないし」
そう言うと、ドアを大きく開けたままにして部屋に入って行った。
わたしがドアのところに立っていると
「入らないの?」
と聞かれた。黙っていると
「どうせ断っても入るんでしょ?」
と言われてしまう。
「お邪魔します」
そう言うと、今度は笑われた。
「何で笑うんですか?」
「今までそんなこと言われなかったから」
部屋の中は、昨日と違って片付けられていて、また何もないがらんとした部屋に戻っていた。
「買ってきました」
コンビニのプリンを差し出した。
「何か作ってあげようとかはないの?」
「どうやって作るんですか? ここお鍋とかないし。包丁やまな板すらないじゃないですか」
「そうだった」
様子が変だった。
やけに明るい。
「今日は、どうしてたんですか?」
少し間があった。
「志保理の……葬式に行ってた。おじさんとおばさんには、顔を見たくないって言われてたんだけど、志保理の弟が消防署の方に連絡をくれて。そこからこっちに連絡があった」
わたしは、ただ黙って眞白さんを見ていた。
「もう、こうなることがわかってたから全部準備してたって……葬式の準備を先にして……志保理の死を待ってたんだ……」
それは、死を待ってたんじゃない……
心をなんとか現実に向き合わせようともがいてたんじゃないか、って思ったけど……
きっと、今言っても伝わらないだろうから、黙っていた。
「『来てくれてありがとう。』って言ってもらえたけど、全部終わったんだと思ったら……何もなくなってしまった」
眞白さんは笑っていた。
違う。
笑うとこじゃない。
「病室で眠っている志保理と、葬式の会場で眠っている志保理は、同じ顔だったんだ。なのに、何が違うんだろう?」
人は……あまりにも悲しすぎると、泣けなくなる。
わたしは、母の死でそれを知った。
「何で……そっちが泣くわけ?」
「眞白さんの代わりに泣いてるんです」
「オレは別に泣きたいわけじゃない」
「わたしは泣きたいです。大切な人ともう2度と会えないんだから」
「……違う。オレはどこかでほっとしているんだ」
「そんなふうに思わないで」
「オレは卑怯だよ……志保理のことしか考えられないのに、未来ちゃんに甘えている。そんなやつほっといた方がいい」
なんでだろう……
それが「いなくならないで」って聞こえてしまうのは、わたしの思い上がりなのかな……
「約束します。わたしは眞白さんをひとりにはしません」
背の高い眞白さんに、わたしは精一杯背伸びをして、ふれたのかもわからないようなキスをした。
眞白さんは、わたしの肩に顔を埋めた。
そして、ようやく、泣いた。
声は出さなかったし、何も言わなかったけれど、確かに泣いていた。
「いなくなったりしませんから。だから、安心してください」
わたしはあなたが好きだから。
志保理さんを好きな眞白さんを好きになったんだから。



