オレンジ



東奈消防署に着くと、中にいた少し年上の男性がこちらに気がついて声をかけてきた。

「非番の日も仕事に来た?」
「違いますよ。坂下います?」
「坂下ならさっきロッカーのとこにいたけど……え? 何? 彼女を自慢しに来たの?」
「それも違いますよ」

眞白さんは笑いながら、

「こっち」

と言って、わたしを中に連れて行ってくれた。


ロッカーのある場所に行くと、女性の消防隊員がいた。

「坂下、ごめん、この子なんとか取り繕えないかな? JR乗らなきゃいけないんだ」
「何?」

坂下と呼ばれた女性は、わたしのブラウスとスカートを見て、

「あぁ……これは困ったね。何か探してくるけど、あんまり期待しないでよ。手を洗いたかったら、そこね」

と言うと、ロッカールームの端にある手洗い場を指し示し、どこかに行ってしまった。

「あっちで待ってるよ」

そう言うと、眞白さんもわたしを一人置いて行ってしまった。

手を洗っていると、戻って来た坂下さんが、わたしをじーっと見ながら言った。

「医療関係者?」
「違います。まだ学生です。看護の……」
「看護か。やっぱりね、普通の子はそういう洗い方しないから。これ、服どうぞ。わたしのを貸してあげられたら良かったんだけど、ここにはランニングウェアしか置いてないから。それじゃ恥ずかしくてJR乗れないでしょ? これ、ちゃんと洗ってあるらしいから。レギンスはわたしのだから安心して」
「ありがとうございます」
「ここで着替えられる? 誰も入って来ないように見てるから」
「大丈夫です」

わたしはさっさと上のブラウスをぬいだ。
下着姿になったわたしを一瞬見た坂下さんが、目を細めた。

「この傷ですよね?」

右肩から脇に沿ってウエストのあたりまで続く大きな傷跡。

「ごめん」
「子供の頃、木から落っこちて、その時ついた傷なんです」
「そうなんだ。それだけ大きいと、痛かったよね……」
「それが、全然記憶にないんです。わたし、木から落ちて気を失ったらしくて、ドクターヘリで、そこの東奈大学病院に救急搬送されたんですけど、気がついたら全部済んでて、ベッドの上でした」

貸してもらった服は、普通にパーカーとレギンスだったけれど、背の低いわたしが着ると、パーカーのワンピにレギンスという、よく見かける格好になった。

「どう? 大丈夫そう?」
「はい、ありがとうございます」

一緒にもらったビニールに着ていた服を入れていると、坂下さんが真面目な顔で聞いてきた。

「眞白の彼女……じゃあないよね?」
「違います!」
「あいつは……やめといた方がいい」
「本当に、そういうんじゃないです」
「ならいいけどさ」


「やめといた方がいい」なんて言い方をされたら逆に気になってしまう。

「どうして……」

そう聞こうとしたした時、署内に放送が流れた。


「東奈署管内 火災入電中」


「ごめん、行くね!」

坂下さんが慌ただしく出て行った。


「東奈署管内 建物火災 一般建物」


次の放送のすぐ後で、大きなサイレンとともに、消防車と救急車が署を出て行った。