オレンジ



学校が終わって、いつもはJRの駅までバスに乗る道を歩いた。
家に帰ったら、何かを考えてしまう前に眠りにつきたかったから。
とにかく疲れてしまいたかったから。

途中、なんとなくコンビニに寄った。

コンビニの自動ドアが開くと、サラリーマン風の男性がアイスコーヒーのカップにフタをしながら出てくるところだった。

突然、その男性の後ろに小学生くらいの男の子がぶつかった。
その拍子に、男性の持っていたカップの中身が全部わたしにかかってしまう。

男の子を母親が怒った。

「お店の中で走っちゃダメって言ったでしょ!」

母親のきつい物言いに、男の子が泣きだしてしまった。
前に赤ちゃんを抱いていた母親は、その状態で男性に何度も何度も頭を下げて謝っていた。

それを見て、そっとコンビニを出た。


コンビニの入り口から少し離れたところの壁にすがって、着ている服を誰にも見られないようにしゃがんだ。
白いブラウスとスカートはコーヒーのせいで茶色くなってしまっている。

服、すぐ乾くかな……
でも、乾いてもひどい有様に違いないけど。

何もかもうまくいかないな……

ひどく、落ち込んでるのは、こぼれたコーヒーのせいじゃない。



「どうぞ」

突然目の前にペットボトルを差し出された。
見上げると見知らぬ男が目の前に立っている。

「君が一番の被害者だって、どうして言わなかったの?」
「見てたんですか?」
「ちょうどレジのとこにいたから」

そう言いながら、その男はわたしの隣にしゃがんだ。

「あのお母さん、赤ちゃん抱いてたし、男の子はもうめちゃくちゃ怒られてたから。わたしのことでまたお母さんを困らせたくなかったのと、男の子が泣くのも見たくなかったから」

男は優しい顔でわたしを見ていた。

「さっき買ったばかりだから、ちゃんとキャップも閉まってるよ」
「ありがとうございます」

お礼を言ってペットボトルを受け取った。

ペットボトルについた水滴は、キラキラ光って、とてもきれいだった。

自分のペットボトルを口にする男の隣で、わたしもキャップを開けた。

「家近いの?」
「JRで30分くらいです」
「じゃあ、その服だとちょっと困るね。うち、ここから5分もかからないけど、うちじゃあ来にくいだろうから、職場の方に来ない? ここから近いから。助けてあげられるかも」

ナンパ?
でも、そんな風には見えない。

黙っていると、男は立ち上がって、わたしの真正面に来ると手を差し出した。

「東奈消防署の眞白修一です。職場というのは消防署だから。これで少しは信用できそう?」

消防士さんなんだ。
眞白さんが差し出した手を掴んで立ち上がった。

「日向未来(みく)です。お言葉に甘えさせてください」

眞白さんに頭を下げた。

「じゃあ、これ、こう、前に抱えるように持って。そうしたら少しは恥ずかしくないでしょ?」

眞白さんが自分のリュックを渡してきた。

「でも……」
「オレのはほら、黒いし、コーヒーくらい拭いたらとれる」

そう言って、わたしの白いトートバックを代わりに持ってくれた。