「風鈴」に着いてお店の人に聞くと、奥の座敷に案内された。
「こんばんは」
「あ、未来ちゃん!」
一番に坂下さんが声をかけてきてくれた。
「どうぞどうぞ」
一番若そうな人に坂下さんの隣の席を薦められる。
「未来ちゃん、レギンスわざわざ新しいの買ってくれたんだね。ごめんね」
坂下さんに申し訳なさそうに言われた。
「坂下さんのおかげでとっても助かったので」
「土曜日に署に来てた子だよね?」
左隣りの人は、土曜日に署の前でわたしに声をかけてきてくれた人だった。
「あの時は、ありがとうございました」
「僕は何もしてないよ」
七海と香奈は初対面だからどうかな、と気になって見ると、楽しそうに話をしているのが見えてほっとした。
「名前、未来ちゃんって言うの?」
「はい、日向未来です。」
「僕は大原大地です。未来ちゃんは坂下さんの……友達?」
「友達、かな?」
大原さんが笑ったのでつられて笑ってしまう。
「何飲む?」
「お酒は苦手なんで、ウーロン茶を」
もう一度七海と香奈を見たら、もうすっかり溶け込んでいて、何かの話で盛り上がっていた。
「眞白さんとも知り合いなんだよね? あれ? 未来ちゃん何歳?」
「21歳です」
「社会人じゃないよね?」
「学生です」
「え? 走りませんよ。今飲んでるから」
その声が大きかったので、声のした方を向いてしまった。
最初に席を薦めてくれた、一番若そうな人が誰かとスマホで話しているところだった。
「非番のみんなと……坂下さんが女の子呼んでくれたから……未来ちゃんと七海ちゃんと香奈ちゃん……いつものとこです。切りますよ?」
わたしの名前が出たので電話の内容が気になってしまった。
「何?」
誰かが聞いた。
「先輩が今から走ろうって言うから断ったんですよ」
「あいつらしいな」
「絶対走りませんよ。あの人と走ったら距離が半端ないから」
「いえてる」
単に名前が出ただけで意味はなさそうだった。
「友達、結構飲んでるみたいだけど大丈夫?」
大原さんに言われて、七海と香奈を見ると、ジョッキでビールを飲んでいた。
「大丈夫だと思います。飲みに行ってもあの2人が酔ってるとこ見たことないから」
「それなら良かった」
大原さんは優しそうな人だった。それにずっとにこにこしている。
「坂下さんがLevi好きなの知ってる?」
「知ってます。みなさんファンクラブに入ってるんですよね?」
「そう。入らされてる。この前コンサートの抽選があった時、僕のIDで申し込んだのが全滅だったからって、怒られたんだよね。『努力が足んない!』って。何の努力したらいいと思う?」
思わず笑ってしまった。
「それで、『眞白を見習え。』って」
「そうだよ、見習えよ」
頭の上から声がして、見上げると眞白さんが立っていた。
「どけよ」
眞白さんが言うと、
「はい」
と、大原さんはそれに従った。
わたしがじっと見ていると
「縦社会だから。オレの方が先輩なの」
と悪気もなく言ってのけると、さっきまで大原さんが座っていたところに座った。
「眞白さんは来ないって聞いてましたけど?」
「オレがいないから来てたの? だったら……」
そう言って席を立とうとしたので、思わずシャツの端を引っ張ってしまった。
それでまた、眞白さんはそのまま座った。
「何? あんたいつも来ないじゃん」
眞白さんに気がついた坂下さんが話かけてきた。
「千田に走りに行こうって誘ったら、未来ちゃんたちと飲んでるからってフラれたんだよ。それで暇になったから顔出した」
「どうせ飲まないくせに」
「未来ちゃんだって飲んでないじゃん。これウーロン茶だよね?」
「はい」
「ほら、ウーロン茶同士仲良くやっとくから。坂下は浴びるよう飲め」
「言われなくても飲むよ」
どうやら坂下さんはだいぶお酒が好きみたいだった。
「おい、眞白、お前が未来ちゃんとるから、大原が泣いて助けを求めに来たぞ!」
テーブルの端から年長と思われる人が声をあげた。
「そんなこと言われても、未来ちゃんはオレのだから」
「大原、先輩の言うことは絶対だから、諦めろ」
そのやりとりを聞いていて戸惑っていると、眞白さんはにこやかな顔でわたしを見て言った。
「ごめんね。酔っ払いのノリだから。本気にしないで」
こういう冗談には慣れてない。
だから、隣で笑っている眞白さんが気になってしまった。



