「ごちそうさまでした」
「お粗末様。満足したようで何よりだ」
今の秀人に、店長を疑う心はない。丼ぶりひとつで、彼は胃袋も心も掴まれた。
「まあ店長さんの謎のうんちくがなければ、もっと良かったんですけど」
「ハハハ。お客さんとの交流を深めるためってことで勘弁してくれや」
「またまた。店長、いつもは絶対あんなことしないクセにー」
「たまにはこういう気分のこともあるのさ。なあ少年…」
「何ですか?」
店長はひとつ咳払いして、秀人にある疑問をぶつける。
「俺の話、つまんなかったろ」
「はい」
即答だった。
「まあそうだよな。ああいう話題、俺の同業者なら喜んで聞いてくれるんだが」
「知らないよ。ぼく、料理興味ないし」
「それだ」
「え?」
ふと秀人がした冷たい一言に、店長はすかさず反応する。
「普通の人間はな、自分が興味ある話しか聞かないんだよ。君は料理に興味がないから、俺の料理の話題には耳も貸さなかった」
「…確かに」
「だから興味ない話はつまんないんだよ。他の少年達もきっと同じだ。君は生き物の話をするのが大好きだとしても、相手に興味が全くなければそんな話をされてもちんぷんかんぷんだぞ」
「面白いのに。もったいないですね」
「それこそ人の感性だな。何に興味を持つかだって個人の自由で、他人がとやかく言う権利もない」
それはそうだ。秀人が生物の話題が好きだということに、文句を言われる筋合いはない。相手が健介達でも。
だが逆に、健介達がアニメの話で盛り上がっていても、秀人が不満を言って良い訳ではないということにもなる。
当たり前のことだが、秀人は失念していた。そっち側が付いて来いなどと考えていた自分を恥じる。
「でも生き物好きな子って、周りにいないし。自分がしたい話が出来ないのはつまらないですよ」
「まあな。人ってのはみんな、自分の話だけ出来たらそれで満足だからな」
店長も店長でバッサリ言う。しかしそれもまた人間の真理である。
「自分と同じ趣味を持つ人間を見つけられたら良いのだが…小学生の狭い行動範囲じゃ、なかなか難しい」
「そうですよ。だからみんなにもっと興味を持って欲しいって…」
「だが君は…周りをどこか見下してないか?『自分が興味のない話はすべてつまらない』と」
「あ…」
「『そんなアニメのどこが面白いんだ』とかな。好きなものをいきなり否定されたら、そりゃ誰だって怒るさ。君だってそうだろ?」
「そっか…」
秀人にはどれも心当たりがあった。
「だけどそれじゃ、好きなものが同じ人としか話せないよ」
「でも、聞くことは出来る」
店長は言う。
「相手の話を聞くことなら、ホントは誰だって出来るんだ。話題をさらに引き出して、話し続けさせることもな」
「話題をさらに引き出す?」
「先ほど怜音が実践してみせただろう。随分と賑わっていたな」
店長は怜音を指差した。先ほどのやり取りを、調理中もバッチリ耳に入れていたのだ。
「ごめんね秀人君。私が『アニマルズ』でちゃんと見たの、実はブラックマンバの回だけ」
「そうなんですか。あれだけ楽しそうに話すから、てっきり…」
「でも、話してて楽しかったよ。君も楽しそうだった」
「…はい、楽しかったです」
家族以外の人間とあれだけ話が弾んだのもめったになかった。自分がしたい話を存分に出来て、とても気分が良くなったことを思い出す。
「けど、知らない話題でもこんなに盛り上がれるものなんですね」
「怜音はその辺のテクニックがあるからな。要するに『聞き上手』なんだ。優れた聞き役はどこでも重宝されるぞー」
「な、なるほど…」
言われてようやく気付く。秀人は「話の引き出し方」のテクニックを、身をもって体感させられたのだ。
「少年には既に『自分の世界』がある。もちろんそれは良いことだ。けどたまには、周りの話も聞いてみないか?そうすればみんなが、新しい世界を見せてくれる」
「…はい」
「それに一見つまらなそうなものにこそ、のめり込むものがあったりするからな。だから何でもダメだと否定する前に、一度耳を傾けてみるといい」
『中身を見ずに否定するのは良くないよ秀人』
店長の言葉が、母とも重なる。
父も母も、店長も怜音も。大人はみんな豊かな世界を持っていた。彼らはもしかしたらこうして身近な人と触れ合って、自分の世界を広げていったのだろう。
「まあ自分のしたい話が出来なくて、モヤモヤすることはあるだろうけど。知らない世界を教えてもらって、相手の事を少しずつ知っていくうちに…いつか自分の好きな話が出来る相手を、見つけられると良いな」
「…そうですね」
◆ ◇ ◆
翌朝。教室ではまたしても、『霊斬』の話題が取り上げられていた。
「そういや一昨日の回さ、アニメの演出がマンガと違うオリジナルのものだったらしいぜ。考察動画を見て、気付いたんだけど」
「マジか拓也!?おれ、全然気付かなかった」
「マンガだと炎の中に女性の影が出るんだけど。アニメだとさらに、蓮の花の演出が追加されてたんだ。なんかの伏線なんじゃねーかって、話題になってる」
「どうなんだろうなー。マンガで先を読んだら、その辺の意味もわかるんかね?」
どうやらアニメの細かい演出で議論が行われているらしい。秀人は付いて行けるか不安だったので、ひとまず外から眺めていた。が。
「お、秀人来たな!お前も来い!」
「え、ちょっとまだ朝の準備が!」
「そんなん後で良いだろ!今日はお前に『霊斬』の面白さをフキョーしてやる」
「ええ…?」
健介に引っ張られ、強制的に会話に混ぜられてしまった。驚いたが昨日の手前、秀人にはチャンスである。
「ホレ、マンガの1巻と2巻を持って来たぜ!2巻の筑紫が敵を一掃するシーン、これカッコいいだろ!」
「お、おお。やっぱり幽は、戦いに出るパターンなんだね」
「この手のマンガはみんなそうだろ?…って、お前はあんまり読まないのか」
「幽が初めて調査に出る回で、いきなり大群に囲まれてピンチになっちゃうんだよ。けど同行していた筑紫が駆けつけて、ソッコーで返り討ちにするんだ」
「筑紫は『霊斬』屈指の人気キャラだからな。このシーンはアニメでもやってるけど、名場面だからぜひその目で見て欲しいぜ!」
「そうなんだ…」
不思議だ。それっぽく相槌を打っているだけで、健介と拓也が話を続けていく。
これは教えてもらったテクニックを試す絶好の機会。秀人はひとつ聞いてみた。
「あ、あのさ。筑紫のカッコいいところってどんなところ?ぼくアニメの1話しか見てないから、あんまり詳しくなくて」
2人は黙った。これは失敗したか、と一瞬戸惑ったがむしろ真逆らしい。
「ハッハッハ!」
「そうかそりゃもったいない!せっかくだから俺らが教えてやるよ!」
ノリノリだった。むしろ話してやりたくてしょうがない、と言わんばかりの満面の笑みを漏らしていた。
「う、うん。よろしく」
「まあやっぱり主人公の先輩ポジってとこだろ。最初助けてくれたのも筑紫だし、その後も何回も出てくるしな」
「うんうん。幽が封剣士になる特訓をする時も、アドバイスくれるし。一言言って、あとは放置だけど」
「あと、意外とネタキャラなんだよな筑紫って。彼女にマコモさんがいるけどあの人の前じゃタジタジだし。それと甘いものが苦手」
「けどやっぱさ、この前のアニメはすごかったよなー!新必殺技を出して、すんげーカッコよくて」
「新必殺技?」
「おう、『紫怨葬幽斬』って言ってさ。炎がバーッて出て、それに巻き込まれた敵がみんなやられるんだ」
「その演出がマンガと違うって、ネットじゃ盛り上がってるんだけど。禁忌の技らしいってことと、何か関係あるのかなって」
「な、なるほど…」
懸命に理解しようとする秀人だがイマイチわからない。しかし2人が楽しそうだから、とりあえずOK。
「あ、ぼくちょっとトイレ行ってくるね」
「おう、行ってら」
「後でまた来いよ!『霊斬』の良さをたっぷり教えてやるぜー」
健介達は笑顔で、秀人を送り出した。
「ふう…」
あの2人は勢いが強いので、相手をすると疲れる。それでもあんな風に会話が盛り上がって、悪い気はしなかった。
「秀人君、おはよ」
「あ、浜野さん」
話しかけてきたのは美樹だ。ちょうど登校してきたところらしい。
「どうしたの?ため息ついてたけど何かあった?」
「いや、健介と拓也とさっきまで『霊斬』の話題で盛り上がってね…」
「え、あの2人?大丈夫だった?また昨日みたいな…」
「ああ大丈夫、聞く側ずっとやってたら楽しそうに話してくれたよ。ちょっと疲れたけどね」
「そうなんだ。それなら良かった」
「まあ、マンガを学校に持ってくるのはどうなの?とは思うけど」
「あ、アハハ…。2人ともやんちゃだからね」
2人で苦笑いする。彼女とは時々、話が合うことがある。
「…あのさ秀人君、私からもちょっと良い?」
「?」
「この本、図書室で借りた本なんだけどね」
美樹は鞄から本を1冊取り出した。ぶ厚いが、図鑑ではない。
「2人のサケが主役の物語だけど、面白かったんだ」
「サケって、魚の鮭?」
「そうなの。最初は2人とも仲が良いのに、後の方にだんだん離れていくのが辛くて…。この後返しに行くから、ちょっと読んでみて欲しいな」
クラスメイトの女子から本をオススメされた。こんなことは珍しいばかりか、今までになかったことだ。
小学4年生、まだまだ経験の少ない秀人。これには嬉しい以上に戸惑いの方が勝ってしまう。
「…あのさ。なんでぼくに話しかけてくるの?ぼくと浜野さんって、そんなに何回も話してたっけ」
「え?うーん…」
捉え方によってはあまりに失礼な疑問だ。だが彼の戸惑いを感じ取った美樹は笑って返す。
「だって、うちのクラスの男子ってみんな乱暴だからさ。秀人君はそういうのなくて、ちょっと安心する」
「そ、そういうもの?」
「うん。で、この話どう?読んでみない?」
「…ちょっと興味あるかも」
これもまた、秀人の世界が広がるきっかけになるかもしれない。
「お粗末様。満足したようで何よりだ」
今の秀人に、店長を疑う心はない。丼ぶりひとつで、彼は胃袋も心も掴まれた。
「まあ店長さんの謎のうんちくがなければ、もっと良かったんですけど」
「ハハハ。お客さんとの交流を深めるためってことで勘弁してくれや」
「またまた。店長、いつもは絶対あんなことしないクセにー」
「たまにはこういう気分のこともあるのさ。なあ少年…」
「何ですか?」
店長はひとつ咳払いして、秀人にある疑問をぶつける。
「俺の話、つまんなかったろ」
「はい」
即答だった。
「まあそうだよな。ああいう話題、俺の同業者なら喜んで聞いてくれるんだが」
「知らないよ。ぼく、料理興味ないし」
「それだ」
「え?」
ふと秀人がした冷たい一言に、店長はすかさず反応する。
「普通の人間はな、自分が興味ある話しか聞かないんだよ。君は料理に興味がないから、俺の料理の話題には耳も貸さなかった」
「…確かに」
「だから興味ない話はつまんないんだよ。他の少年達もきっと同じだ。君は生き物の話をするのが大好きだとしても、相手に興味が全くなければそんな話をされてもちんぷんかんぷんだぞ」
「面白いのに。もったいないですね」
「それこそ人の感性だな。何に興味を持つかだって個人の自由で、他人がとやかく言う権利もない」
それはそうだ。秀人が生物の話題が好きだということに、文句を言われる筋合いはない。相手が健介達でも。
だが逆に、健介達がアニメの話で盛り上がっていても、秀人が不満を言って良い訳ではないということにもなる。
当たり前のことだが、秀人は失念していた。そっち側が付いて来いなどと考えていた自分を恥じる。
「でも生き物好きな子って、周りにいないし。自分がしたい話が出来ないのはつまらないですよ」
「まあな。人ってのはみんな、自分の話だけ出来たらそれで満足だからな」
店長も店長でバッサリ言う。しかしそれもまた人間の真理である。
「自分と同じ趣味を持つ人間を見つけられたら良いのだが…小学生の狭い行動範囲じゃ、なかなか難しい」
「そうですよ。だからみんなにもっと興味を持って欲しいって…」
「だが君は…周りをどこか見下してないか?『自分が興味のない話はすべてつまらない』と」
「あ…」
「『そんなアニメのどこが面白いんだ』とかな。好きなものをいきなり否定されたら、そりゃ誰だって怒るさ。君だってそうだろ?」
「そっか…」
秀人にはどれも心当たりがあった。
「だけどそれじゃ、好きなものが同じ人としか話せないよ」
「でも、聞くことは出来る」
店長は言う。
「相手の話を聞くことなら、ホントは誰だって出来るんだ。話題をさらに引き出して、話し続けさせることもな」
「話題をさらに引き出す?」
「先ほど怜音が実践してみせただろう。随分と賑わっていたな」
店長は怜音を指差した。先ほどのやり取りを、調理中もバッチリ耳に入れていたのだ。
「ごめんね秀人君。私が『アニマルズ』でちゃんと見たの、実はブラックマンバの回だけ」
「そうなんですか。あれだけ楽しそうに話すから、てっきり…」
「でも、話してて楽しかったよ。君も楽しそうだった」
「…はい、楽しかったです」
家族以外の人間とあれだけ話が弾んだのもめったになかった。自分がしたい話を存分に出来て、とても気分が良くなったことを思い出す。
「けど、知らない話題でもこんなに盛り上がれるものなんですね」
「怜音はその辺のテクニックがあるからな。要するに『聞き上手』なんだ。優れた聞き役はどこでも重宝されるぞー」
「な、なるほど…」
言われてようやく気付く。秀人は「話の引き出し方」のテクニックを、身をもって体感させられたのだ。
「少年には既に『自分の世界』がある。もちろんそれは良いことだ。けどたまには、周りの話も聞いてみないか?そうすればみんなが、新しい世界を見せてくれる」
「…はい」
「それに一見つまらなそうなものにこそ、のめり込むものがあったりするからな。だから何でもダメだと否定する前に、一度耳を傾けてみるといい」
『中身を見ずに否定するのは良くないよ秀人』
店長の言葉が、母とも重なる。
父も母も、店長も怜音も。大人はみんな豊かな世界を持っていた。彼らはもしかしたらこうして身近な人と触れ合って、自分の世界を広げていったのだろう。
「まあ自分のしたい話が出来なくて、モヤモヤすることはあるだろうけど。知らない世界を教えてもらって、相手の事を少しずつ知っていくうちに…いつか自分の好きな話が出来る相手を、見つけられると良いな」
「…そうですね」
◆ ◇ ◆
翌朝。教室ではまたしても、『霊斬』の話題が取り上げられていた。
「そういや一昨日の回さ、アニメの演出がマンガと違うオリジナルのものだったらしいぜ。考察動画を見て、気付いたんだけど」
「マジか拓也!?おれ、全然気付かなかった」
「マンガだと炎の中に女性の影が出るんだけど。アニメだとさらに、蓮の花の演出が追加されてたんだ。なんかの伏線なんじゃねーかって、話題になってる」
「どうなんだろうなー。マンガで先を読んだら、その辺の意味もわかるんかね?」
どうやらアニメの細かい演出で議論が行われているらしい。秀人は付いて行けるか不安だったので、ひとまず外から眺めていた。が。
「お、秀人来たな!お前も来い!」
「え、ちょっとまだ朝の準備が!」
「そんなん後で良いだろ!今日はお前に『霊斬』の面白さをフキョーしてやる」
「ええ…?」
健介に引っ張られ、強制的に会話に混ぜられてしまった。驚いたが昨日の手前、秀人にはチャンスである。
「ホレ、マンガの1巻と2巻を持って来たぜ!2巻の筑紫が敵を一掃するシーン、これカッコいいだろ!」
「お、おお。やっぱり幽は、戦いに出るパターンなんだね」
「この手のマンガはみんなそうだろ?…って、お前はあんまり読まないのか」
「幽が初めて調査に出る回で、いきなり大群に囲まれてピンチになっちゃうんだよ。けど同行していた筑紫が駆けつけて、ソッコーで返り討ちにするんだ」
「筑紫は『霊斬』屈指の人気キャラだからな。このシーンはアニメでもやってるけど、名場面だからぜひその目で見て欲しいぜ!」
「そうなんだ…」
不思議だ。それっぽく相槌を打っているだけで、健介と拓也が話を続けていく。
これは教えてもらったテクニックを試す絶好の機会。秀人はひとつ聞いてみた。
「あ、あのさ。筑紫のカッコいいところってどんなところ?ぼくアニメの1話しか見てないから、あんまり詳しくなくて」
2人は黙った。これは失敗したか、と一瞬戸惑ったがむしろ真逆らしい。
「ハッハッハ!」
「そうかそりゃもったいない!せっかくだから俺らが教えてやるよ!」
ノリノリだった。むしろ話してやりたくてしょうがない、と言わんばかりの満面の笑みを漏らしていた。
「う、うん。よろしく」
「まあやっぱり主人公の先輩ポジってとこだろ。最初助けてくれたのも筑紫だし、その後も何回も出てくるしな」
「うんうん。幽が封剣士になる特訓をする時も、アドバイスくれるし。一言言って、あとは放置だけど」
「あと、意外とネタキャラなんだよな筑紫って。彼女にマコモさんがいるけどあの人の前じゃタジタジだし。それと甘いものが苦手」
「けどやっぱさ、この前のアニメはすごかったよなー!新必殺技を出して、すんげーカッコよくて」
「新必殺技?」
「おう、『紫怨葬幽斬』って言ってさ。炎がバーッて出て、それに巻き込まれた敵がみんなやられるんだ」
「その演出がマンガと違うって、ネットじゃ盛り上がってるんだけど。禁忌の技らしいってことと、何か関係あるのかなって」
「な、なるほど…」
懸命に理解しようとする秀人だがイマイチわからない。しかし2人が楽しそうだから、とりあえずOK。
「あ、ぼくちょっとトイレ行ってくるね」
「おう、行ってら」
「後でまた来いよ!『霊斬』の良さをたっぷり教えてやるぜー」
健介達は笑顔で、秀人を送り出した。
「ふう…」
あの2人は勢いが強いので、相手をすると疲れる。それでもあんな風に会話が盛り上がって、悪い気はしなかった。
「秀人君、おはよ」
「あ、浜野さん」
話しかけてきたのは美樹だ。ちょうど登校してきたところらしい。
「どうしたの?ため息ついてたけど何かあった?」
「いや、健介と拓也とさっきまで『霊斬』の話題で盛り上がってね…」
「え、あの2人?大丈夫だった?また昨日みたいな…」
「ああ大丈夫、聞く側ずっとやってたら楽しそうに話してくれたよ。ちょっと疲れたけどね」
「そうなんだ。それなら良かった」
「まあ、マンガを学校に持ってくるのはどうなの?とは思うけど」
「あ、アハハ…。2人ともやんちゃだからね」
2人で苦笑いする。彼女とは時々、話が合うことがある。
「…あのさ秀人君、私からもちょっと良い?」
「?」
「この本、図書室で借りた本なんだけどね」
美樹は鞄から本を1冊取り出した。ぶ厚いが、図鑑ではない。
「2人のサケが主役の物語だけど、面白かったんだ」
「サケって、魚の鮭?」
「そうなの。最初は2人とも仲が良いのに、後の方にだんだん離れていくのが辛くて…。この後返しに行くから、ちょっと読んでみて欲しいな」
クラスメイトの女子から本をオススメされた。こんなことは珍しいばかりか、今までになかったことだ。
小学4年生、まだまだ経験の少ない秀人。これには嬉しい以上に戸惑いの方が勝ってしまう。
「…あのさ。なんでぼくに話しかけてくるの?ぼくと浜野さんって、そんなに何回も話してたっけ」
「え?うーん…」
捉え方によってはあまりに失礼な疑問だ。だが彼の戸惑いを感じ取った美樹は笑って返す。
「だって、うちのクラスの男子ってみんな乱暴だからさ。秀人君はそういうのなくて、ちょっと安心する」
「そ、そういうもの?」
「うん。で、この話どう?読んでみない?」
「…ちょっと興味あるかも」
これもまた、秀人の世界が広がるきっかけになるかもしれない。
