「なーなー拓也、昨日のレイジの動画見たか?」
「あっ、見た見た!激辛ハバネロラーメン食うやつな!辛いもの苦手だって言ってんのに、リアクションが面白くてどんどん『キギョーアンケン』が飛んでくるの!ウケるよな!」
「あ、それぼくも見たよ!面白かったよねー!」
「あんなに赤くなるならよしときゃ良いのにね。でもそうやって身体張ってるのが、ついつい見ちゃうんだよねー」
太田 健介が口を開けば、クラスの男子はみんな集まってくる。恵まれた体格で威張り散らすお山の大将。どこの小学校にでもあるような光景だ。
(は、話の内容がわからない…)
しかしその男子の輪に入れない男子が、教室に1人だけいた。
石田 秀人、小学4年生。年齢の割には、どこか冷めた少年である。
趣味は読書、というより図鑑を見ること。それももっぱら生物図鑑。猛獣も魚も、虫も、動物ならみな好物だ。
隙あらばいつでも図鑑を開いている。本を読んでは生物の新しい一面を知ることを、秀人は日々の楽しみとしていた。
動物に関しては、既に小学生離れした豊富な知識を持っている。好きなことならとことんのめり込める、勉強熱心な少年であった。
しかし秀人は、大きな問題を抱えている。
(レイジって誰?動画って何?僕それ、全然知らないんだけど)
クラスで流行りの話題が一切理解できないのだ。
レイジとは、とある動画投稿サイトで注目を集めているクリエイターだ。「とにかく皆と騒がしく!」がモットーで、個人とは思えないほど非常に大掛かりな企画を常に取り上げている。「100人サッカー」や「アイスピラミッド8段建設チャレンジ」などがバズった動画の例だ。
そのド派手なコンテンツと明るいノリから主に小学生男子達の心を掴み、チャンネル登録者数は200万人を超える。秀人の学校でも、彼の話題で持ち切りだ。
ただしこのクラス、いや学年の男子で唯一秀人だけ、レイジの動画を見ていない。秀人も現代の子らしく、スマホやパソコンなどの機器は自分のものを与えられている。
しかしスマホは連絡用、パソコンは調べものをするためだけに使っている。見ようと思えばいくらでも見られるのだが、動画を探して見に行くほどの興味が秀人には湧かないのだ。これが、秀人がクラスの雰囲気に付いて行けない理由のひとつとなっている。
そして、周りと馴染めない理由は他にもある。
「おい秀人!前空いてるぞ、シュートだシュート!」
「えっ!?そんな急に言われても!」
「へへっ、させるかよ!」
「あっ!?」
「何ボール取られてんだよ!秀人って名前なんだから、カッコよくボール蹴れよな!」
「そうだぞシュート!いつまでも後ろでボサっとしてねえで、ちゃんと攻撃に参加しろよなー」
「う…」
秀人のクラスには、やけに血の気が多い男子達が集められた。そのため空気が常にピリつく。
当然秀人はこのノリが苦手だ。誰とも話さず図鑑を読んでいたい秀人。そこに健介達がしつこく絡んできては巻き込んでくる。図鑑を取り上げられたことだって、一度や二度ではない。
「秀人!お前サッカーの練習もちゃんとしろよ!じゃねえと授業の時に足手まといになんじゃねえか」
「え、イヤだよ健介君。僕は時間があるなら本読んでたいの」
「だからこんなモヤシになんだろうが!昼休みくらい外に出て、玉蹴るくらいしろってんだ!」
「う、うん…?」
「うわー、また健介がいばってるよ」
「アイツって身体デカくて、力強いだけなのにね」
「あんならんぼう者が同じ教室にずっといたら、イヤになっちゃうよね。ねえ美樹ちゃん」
「え?あ、うん、そうだね」
男子に威張り散らす健介だが、一方で女性陣からの評判は悪い。ケンカっ早く癇癪も激しい普段の姿を見ていれば、まあ無理もないが。
健介を中心に取り巻く男子。数人ごとの決まったグループで固まって行動する女子。両者の溝は深い。これが、このクラスの構造だ。
(秀人くん、大丈夫かな…)
あれだけの暴言を吐かれた秀人。授業が終わると、固まる男子達の邪魔にならないように距離を作ってとぼとぼ教室に戻っていく。
「健介、今日も大活躍だったなー!」
「おう!今日はボールうばいまくったぜ!お前らスキだらけだから、あれじゃボール取ってくださいって言ってるようなもんだぞー」
(みんな、気に入らないことがあるとすぐに暴れるお前が怖いからだよ)
「次も頼むよ健介ー!うちのチーム足手まといが1人いたから、思うように動けなくってさあ」
「ほっとけよあんな奴。その分お前が倍動けば良いだろ?」
「ハッハッハ!おれはアイツが一緒のチームでも別に良いんだ。その分おれの活躍の場が増えるってもんだろ?」
「さすが健介!」
クラスメイトからは散々な言われようである。
(…みんな僕より、頭悪いくせに)
秀人にも悔しさはある。しかし反撃できる武器も言い返す度胸もないので、表に出さず押し殺しているのだ。
◆ ◇ ◆
「「先生さよーなら!」」
「おい拓也!お前んちでゲームやらせろよ!」
「えっ、今日も来るの!?」
「…なんか文句あんのかコラ?」
「いや、別に…。でもたまには健介も、自分でお菓子持って来てな…」
「美樹ちゃん、一緒に帰ろー!」
「ねー今日は何にする?」
「今日もレイジ、動画出すって言ってたよな!何やるんだろー?いつもぶっ飛んだことやるから楽しみだぜ!」
「今日の夜ご飯カレーだって!私お母さんのカレー大好きだから、待ちきれないんだよねー!」
放課後になった。クラスメイトはみんな、いつもの面々で固まって教室を出て行く。並んで談笑しながら歩くので、毎日賑やかだ。
(今日も塾に急がないと…)
秀人は学校が終わると塾に直行する。彼に声をかける者はいない。これが日常なので、今更寂しいと思うこともない。
◆ ◇ ◆
「10m×10mの面積を1aと呼びます。同様に、100m×100mの面積を1haって言うんですよー」
塾で集団授業を受ける。ここで先取りをするおかげで、学校の授業もつまずくことなく吸収できるのだ。
「それじゃあ、問題を解いてみましょう。ここに20m×40mの四角形があります…」
(ふわあ…。タイクツだ。算数なんて、聞いたらすぐにわかっちゃうよ)
彼の得意分野は生物に留まらない。理数系はすべて守備範囲だ。授業を聞いていれば、一発で理解できるほどの飲み込みの早さ。あまりのひねりのなさに、あくびさえ出てしまう。
(理科の授業が良いな。生き物の話も、いっぱいしてくれるし)
だが授業科目は、カリキュラムで決まっている。好きな内容だけ聞くなんてことは出来るはずがない。
やる気も出ないまま、レベルの低い授業を淡々と流していく。
「はい、これで今日の授業はおしまいです。お疲れ様でした」
塾の授業も終わり、ようやく秀人は家に帰れる。
外はもう真っ暗だ。
(今日はお母さん、普通に帰ってくるって言ってたよね。本屋とか寄らずに、まっすぐ帰ろ)
賑やかになってきた街の景色には脇目もふらずに駅へと向かう。電車で3駅、これを平日は毎日続けている。
学校に通い、その足で塾に行き、そして夜遅くに家に帰る。これが秀人の日常であった。
◆ ◇ ◆
「ただいま」
「おかえり秀人。今日はお母さんの方が早かったね」
「うん、晩ご飯も出来てるよ。荷物片づけたら、すぐにおいでね」
秀人の母、雪絵。製薬会社で開発担当をしている。
「珍しい。お母さんが夜ご飯を作るなんて」
「私だって料理くらいするよ!そんなびっくりしなくても…」
「えー?お母さんっていつも、『研究が長くなって…』って帰るの遅くなるじゃん」
「うっ。ご、ごめんね?つい夢中になっちゃって」
「良いんだ。僕はお母さんのそういうところ好きだから」
秀人の本心である。彼は好きなことをひたすら突き詰める両親を見て育った。2人は彼にとって、憧れである。
「もう…。あでもごめんね、明日は間違いなく帰りが遅くなる。だから1人で夜ご飯済ませてね」
「いつもの感じだね、わかった」
母からおこづかいに1,000円札を渡された。これで秀人はコンビニ弁当を買って食べている。
父は研究で長く家を空ける大学教授だ。母よりも家にいない時間はずっと多い。
「…ねえ秀人、学校はどう?どんなお話をしてるの?」
雪絵が切り出す。
「うーん。今日は誰とも話せなかったよ。体育の授業でサッカーやった時、『シュートって名前らしくカッコよくシュートしろ!』とか怒られたりしたけど。あとは…特にないや。授業もつまらなかったし」
「そう…」
秀人がクラスになじめていないのを、雪絵も薄々理解していた。
「最近、クラスの流行りがわからないんだ。動画とか、アニメとか。僕そういうの見ないから。…っていうか、お母さんがあんまり見るなって言うからだけど」
「教育によろしくない気がしてね…。他に流行ってることとかないの?」
「ないかも。男子はみんなそれで持ち切りだよ。ねえ母さん、どうしてみんなはそんなつまんない話をするんだろう?」
雪絵は秀人の疑問に笑って答えた。
「きっとその子達にとっては、それが楽しいことだから。秀人が生き物大好きなのと同じでね」
「うーん…。イマイチピンと来ないけど」
「一度見てみたら?そしたら面白いって思うかもしれないよ?」
「どうかな。話聞く限りじゃやっぱりつまんなそうって思うけど…」
「中身を見ずに否定するのは良くないよ秀人」
母にここまで諭されると、反発するのも悪い気がしてきた。雪絵も彼女なりに、申し訳なさを感じているのだ。
「…じゃあ、ちょっとだけ見てみる」
「うん。でも、お勉強もあるからほどほどにね?」
「言われなくてもわかってるよ。やることやってから、だよね」
「えらい」
夕食を食べ終えた秀人が自室に籠もりがちになるのも、またこの一家の日常である。
「あっ、見た見た!激辛ハバネロラーメン食うやつな!辛いもの苦手だって言ってんのに、リアクションが面白くてどんどん『キギョーアンケン』が飛んでくるの!ウケるよな!」
「あ、それぼくも見たよ!面白かったよねー!」
「あんなに赤くなるならよしときゃ良いのにね。でもそうやって身体張ってるのが、ついつい見ちゃうんだよねー」
太田 健介が口を開けば、クラスの男子はみんな集まってくる。恵まれた体格で威張り散らすお山の大将。どこの小学校にでもあるような光景だ。
(は、話の内容がわからない…)
しかしその男子の輪に入れない男子が、教室に1人だけいた。
石田 秀人、小学4年生。年齢の割には、どこか冷めた少年である。
趣味は読書、というより図鑑を見ること。それももっぱら生物図鑑。猛獣も魚も、虫も、動物ならみな好物だ。
隙あらばいつでも図鑑を開いている。本を読んでは生物の新しい一面を知ることを、秀人は日々の楽しみとしていた。
動物に関しては、既に小学生離れした豊富な知識を持っている。好きなことならとことんのめり込める、勉強熱心な少年であった。
しかし秀人は、大きな問題を抱えている。
(レイジって誰?動画って何?僕それ、全然知らないんだけど)
クラスで流行りの話題が一切理解できないのだ。
レイジとは、とある動画投稿サイトで注目を集めているクリエイターだ。「とにかく皆と騒がしく!」がモットーで、個人とは思えないほど非常に大掛かりな企画を常に取り上げている。「100人サッカー」や「アイスピラミッド8段建設チャレンジ」などがバズった動画の例だ。
そのド派手なコンテンツと明るいノリから主に小学生男子達の心を掴み、チャンネル登録者数は200万人を超える。秀人の学校でも、彼の話題で持ち切りだ。
ただしこのクラス、いや学年の男子で唯一秀人だけ、レイジの動画を見ていない。秀人も現代の子らしく、スマホやパソコンなどの機器は自分のものを与えられている。
しかしスマホは連絡用、パソコンは調べものをするためだけに使っている。見ようと思えばいくらでも見られるのだが、動画を探して見に行くほどの興味が秀人には湧かないのだ。これが、秀人がクラスの雰囲気に付いて行けない理由のひとつとなっている。
そして、周りと馴染めない理由は他にもある。
「おい秀人!前空いてるぞ、シュートだシュート!」
「えっ!?そんな急に言われても!」
「へへっ、させるかよ!」
「あっ!?」
「何ボール取られてんだよ!秀人って名前なんだから、カッコよくボール蹴れよな!」
「そうだぞシュート!いつまでも後ろでボサっとしてねえで、ちゃんと攻撃に参加しろよなー」
「う…」
秀人のクラスには、やけに血の気が多い男子達が集められた。そのため空気が常にピリつく。
当然秀人はこのノリが苦手だ。誰とも話さず図鑑を読んでいたい秀人。そこに健介達がしつこく絡んできては巻き込んでくる。図鑑を取り上げられたことだって、一度や二度ではない。
「秀人!お前サッカーの練習もちゃんとしろよ!じゃねえと授業の時に足手まといになんじゃねえか」
「え、イヤだよ健介君。僕は時間があるなら本読んでたいの」
「だからこんなモヤシになんだろうが!昼休みくらい外に出て、玉蹴るくらいしろってんだ!」
「う、うん…?」
「うわー、また健介がいばってるよ」
「アイツって身体デカくて、力強いだけなのにね」
「あんならんぼう者が同じ教室にずっといたら、イヤになっちゃうよね。ねえ美樹ちゃん」
「え?あ、うん、そうだね」
男子に威張り散らす健介だが、一方で女性陣からの評判は悪い。ケンカっ早く癇癪も激しい普段の姿を見ていれば、まあ無理もないが。
健介を中心に取り巻く男子。数人ごとの決まったグループで固まって行動する女子。両者の溝は深い。これが、このクラスの構造だ。
(秀人くん、大丈夫かな…)
あれだけの暴言を吐かれた秀人。授業が終わると、固まる男子達の邪魔にならないように距離を作ってとぼとぼ教室に戻っていく。
「健介、今日も大活躍だったなー!」
「おう!今日はボールうばいまくったぜ!お前らスキだらけだから、あれじゃボール取ってくださいって言ってるようなもんだぞー」
(みんな、気に入らないことがあるとすぐに暴れるお前が怖いからだよ)
「次も頼むよ健介ー!うちのチーム足手まといが1人いたから、思うように動けなくってさあ」
「ほっとけよあんな奴。その分お前が倍動けば良いだろ?」
「ハッハッハ!おれはアイツが一緒のチームでも別に良いんだ。その分おれの活躍の場が増えるってもんだろ?」
「さすが健介!」
クラスメイトからは散々な言われようである。
(…みんな僕より、頭悪いくせに)
秀人にも悔しさはある。しかし反撃できる武器も言い返す度胸もないので、表に出さず押し殺しているのだ。
◆ ◇ ◆
「「先生さよーなら!」」
「おい拓也!お前んちでゲームやらせろよ!」
「えっ、今日も来るの!?」
「…なんか文句あんのかコラ?」
「いや、別に…。でもたまには健介も、自分でお菓子持って来てな…」
「美樹ちゃん、一緒に帰ろー!」
「ねー今日は何にする?」
「今日もレイジ、動画出すって言ってたよな!何やるんだろー?いつもぶっ飛んだことやるから楽しみだぜ!」
「今日の夜ご飯カレーだって!私お母さんのカレー大好きだから、待ちきれないんだよねー!」
放課後になった。クラスメイトはみんな、いつもの面々で固まって教室を出て行く。並んで談笑しながら歩くので、毎日賑やかだ。
(今日も塾に急がないと…)
秀人は学校が終わると塾に直行する。彼に声をかける者はいない。これが日常なので、今更寂しいと思うこともない。
◆ ◇ ◆
「10m×10mの面積を1aと呼びます。同様に、100m×100mの面積を1haって言うんですよー」
塾で集団授業を受ける。ここで先取りをするおかげで、学校の授業もつまずくことなく吸収できるのだ。
「それじゃあ、問題を解いてみましょう。ここに20m×40mの四角形があります…」
(ふわあ…。タイクツだ。算数なんて、聞いたらすぐにわかっちゃうよ)
彼の得意分野は生物に留まらない。理数系はすべて守備範囲だ。授業を聞いていれば、一発で理解できるほどの飲み込みの早さ。あまりのひねりのなさに、あくびさえ出てしまう。
(理科の授業が良いな。生き物の話も、いっぱいしてくれるし)
だが授業科目は、カリキュラムで決まっている。好きな内容だけ聞くなんてことは出来るはずがない。
やる気も出ないまま、レベルの低い授業を淡々と流していく。
「はい、これで今日の授業はおしまいです。お疲れ様でした」
塾の授業も終わり、ようやく秀人は家に帰れる。
外はもう真っ暗だ。
(今日はお母さん、普通に帰ってくるって言ってたよね。本屋とか寄らずに、まっすぐ帰ろ)
賑やかになってきた街の景色には脇目もふらずに駅へと向かう。電車で3駅、これを平日は毎日続けている。
学校に通い、その足で塾に行き、そして夜遅くに家に帰る。これが秀人の日常であった。
◆ ◇ ◆
「ただいま」
「おかえり秀人。今日はお母さんの方が早かったね」
「うん、晩ご飯も出来てるよ。荷物片づけたら、すぐにおいでね」
秀人の母、雪絵。製薬会社で開発担当をしている。
「珍しい。お母さんが夜ご飯を作るなんて」
「私だって料理くらいするよ!そんなびっくりしなくても…」
「えー?お母さんっていつも、『研究が長くなって…』って帰るの遅くなるじゃん」
「うっ。ご、ごめんね?つい夢中になっちゃって」
「良いんだ。僕はお母さんのそういうところ好きだから」
秀人の本心である。彼は好きなことをひたすら突き詰める両親を見て育った。2人は彼にとって、憧れである。
「もう…。あでもごめんね、明日は間違いなく帰りが遅くなる。だから1人で夜ご飯済ませてね」
「いつもの感じだね、わかった」
母からおこづかいに1,000円札を渡された。これで秀人はコンビニ弁当を買って食べている。
父は研究で長く家を空ける大学教授だ。母よりも家にいない時間はずっと多い。
「…ねえ秀人、学校はどう?どんなお話をしてるの?」
雪絵が切り出す。
「うーん。今日は誰とも話せなかったよ。体育の授業でサッカーやった時、『シュートって名前らしくカッコよくシュートしろ!』とか怒られたりしたけど。あとは…特にないや。授業もつまらなかったし」
「そう…」
秀人がクラスになじめていないのを、雪絵も薄々理解していた。
「最近、クラスの流行りがわからないんだ。動画とか、アニメとか。僕そういうの見ないから。…っていうか、お母さんがあんまり見るなって言うからだけど」
「教育によろしくない気がしてね…。他に流行ってることとかないの?」
「ないかも。男子はみんなそれで持ち切りだよ。ねえ母さん、どうしてみんなはそんなつまんない話をするんだろう?」
雪絵は秀人の疑問に笑って答えた。
「きっとその子達にとっては、それが楽しいことだから。秀人が生き物大好きなのと同じでね」
「うーん…。イマイチピンと来ないけど」
「一度見てみたら?そしたら面白いって思うかもしれないよ?」
「どうかな。話聞く限りじゃやっぱりつまんなそうって思うけど…」
「中身を見ずに否定するのは良くないよ秀人」
母にここまで諭されると、反発するのも悪い気がしてきた。雪絵も彼女なりに、申し訳なさを感じているのだ。
「…じゃあ、ちょっとだけ見てみる」
「うん。でも、お勉強もあるからほどほどにね?」
「言われなくてもわかってるよ。やることやってから、だよね」
「えらい」
夕食を食べ終えた秀人が自室に籠もりがちになるのも、またこの一家の日常である。
