殺したはずの親友は、次の日笑顔で挨拶してきた。

 ◇ ◇ ◇

 鶫は大切な友達だ。
 そう意識し始めたのは、いつからだっただろう。
 意識しなければならないって思い始めたのは、いつからだっただろう。

「見つけた」
「……鶫」

 この町は小さな町だ。山間にある、こじんまりとした町。
 誰かが何かをすると、それがすぐに町中に広まってしまうような、田舎だった。

「探したよ。どうせここにいると思ったけれど」

 鶫は言いながら、地べたに体育座りで座っている私の横に腰を下ろす。
 ここは私のお気に入りの場所だった。
 山の途中にある開けた場所で、町が一望できる高台になっている。
 ここから何もない街を眺めるのが、なぜか好きだった。

「また喧嘩したの?」

 こちらの顔を覗き込むようにしながら言う鶫。
 私はその顔を見返すことができなかった。

「……うん」

 うちは家族仲があまりよくない。
 お母さんは都会に住みたいと言っていたのに、お父さんの都合でこんな田舎に住むことになっているからだ。

 お父さんにも都合があるのは分かっている。でも、いつも家にいるのは機嫌が悪いお母さん。
 私としてはお父さんの肩を持ってあげたい。
 そうなると、自然にいつも喧嘩になってしまうのだ。

「まあねー。私は眞矢のお母さんの気持ちも分かるよ。何もないもん、この町」

 鶫は足を思いっきり延ばす。
 土で汚れることも気にせずに。
 こういう思い切りがいいところが、鶫の良いところだと思う。

「でも、お父さんは悪くないから」
「眞矢は優しいよね」

 優しい、と鶫は言ってくれる。
 私は優しいのかな。優しかったら、もっとお母さんにも寄り添えて上げている気がする。

 ただ、そう、なんだろう。
 なんて形容したほうが良いのかわからないこの感情の向け先を、お母さんにしているだけに過ぎない気がする。
 反抗期ってやつ、なのかな。

「まあー? いいんじゃない? 眞矢の好きなようにすれば」
「鶫はいつもそういうよね」
「私がやりたいようにやってるからね」

 ちらりとみると、ニシシと笑う元気な笑顔を浮かべていた。
 鶫はいつもそうだ。
 元気が良くて、思い切りが良くて、要領の悪い私を引っ張って行ってくれる。
 鶫がいなければ、私はきっと何もできなかったと思う。

「私のやりたいことって何だろう」
「じっくり考えなよ? これだー! って思えるような奴を見つけよう!」

 これだ、って思えるようなもの。
 ……少しだけ考えて、一つだけ思いついた。

「ねぇ、鶫」
「ん? なあに、眞矢」
「私たち、ずっと一緒にいられるかな」

 ――私のやりたいこと。やりたいこととは少し違うかもしれないけれど。
 できることなら、ずっと鶫と一緒にいたい。

「んー、どうだろうね」
「わからない?」
「わからないねー」

 そっか。
 鶫も同じ気持ちならって、思ったけれど。
 ううん、それは高望みだよね。

「……いつかは、眞矢はこの町をでていくだろうし」
「え? 鶫は出ていかないの」

 この町に文句を言うことが多いのは、私よりも鶫の方だ。
 だから、何となく鶫はこの町が嫌いなんだと思ってた。

「どうだろうね。わかんないや」
「わかんないことばっかりだね」
「眞矢ほど将来の事を考えているわけじゃないからねー」

 確かに。鶫はその場その場で結構衝動的に行動するタイプだ。
 計画性がない、とまでは言わないけれど。
 その分、決断した時の行動力はすさまじい。
 私には真似できる気がしないなぁ。

「ただ、思ったよりもこの町の事嫌いじゃないんだよね」
「そうなの?」
「そうみたい」

 あれだけ悪口を言っているのに。
 噂話が広まるのが早いだの。
 ちょっとしたことで町ぐるみの騒ぎにし過ぎだの。
 鶫は色んな事をするから、それで騒がれるのが嫌みたいなのに。

「まっ、それも眞矢がいてくれるからなんだけどさ」
「もう、鶫ったら」
「えへへ。好きだよ~、眞矢」

 言いながら、鶫が抱き着いてくる。

「……私も、好きだよ」

 そっと、手を背中に回して抱き返す。
 温かくて、いい香り。安心できる、お日様のような香りがする。

「相思相愛だぁ」
「――そうだね」

 きっと、この好きはすれ違っている。
 私の好きと、鶫の好きは違う。
 私だけが知っている。私だけが分かっている。

 ねぇ、鶫。
 あなたの存在が、どれほど私にとって救いになっているか分かる?
 想像できる?

 この狭い町で、あなたがいるから私は息ができているの。あなたの隣でだけ、呼吸ができているの。
 私が私でいられることが、何よりも嬉しいの。
 好きだよ、鶫。
 ……あなたを、愛しているの。

 絶対に口にはできない、私の秘密。
 この秘密だけは、墓場まで持って行かないといけない。
 だって、鶫がいなくなるなんて考えるだけで、私は今すぐにでも首をくくりたくなるぐらい辛くなるんだから。

「ずっと一緒にいようね、鶫」
「眞矢がそう望むなら、きっとそうなるよ」

 そうかな。そうならいいな。
 この世界で、あなただけがいればいいの。あなただけが欲しいの。

 鶫。
 何をしても、あなたの隣にい続けるから。
 だから、今はこうして。
 ぎゅっと、抱きしめさせて。