『初めての空』
空を撮るのが好きだ。
吸い込まれるように広がる空。
何もかもを解放してくれる優しい存在だ。
" クールで何を考えてるかよくわからない優等生 "
って、よく言われる。
レッテル貼られて、正直めんどくさい。
だから、片瀬利旺ってキャラが吸い込まれ、溶けて無くなっていく感覚が好きなんだ。
空は折々に顔を変えて、いくら見ても飽きない。
朝焼けの空、薄い月が一つ浮かんだ空。
夕暮れのグラデーション。
それをカメラで切り取るんだ。
「なぁなぁ、お前名前なんてーの?」
でかい声だな。
まぁ、確かにホームルームの自己紹介は出身中学くらいしか言ってないからお互い覚えないよな。
「俺、勇崎!勇崎翔太!!みんな勇崎か翔太って呼ぶから好きな方で呼んで?新しいニックネームも歓迎!募集中!」
「おーい!ゆう〜!」
「はーい♡早速新作!俺のこと呼んだ?」
「ちげーよ!祐太郎のこと呼んだの!」
「なんだよ、勇崎のゆうじゃないのかよ。
さびしいわ、今度はご指名くださいね♡」
目の前の机にどっかり腰掛けて喋り続ける。
「で、名前は?
俺、クラスメイトを友達コンプリートしたいんよ!」
お前はポケモン図鑑作ってんのか!と心の中で突っ込む。
「…片瀬利旺」
「かたせ…ごめん?もっかい」
「り・お・う。利益の利。日偏(ひへん)に王様のおうって書いて、それでリオウって読む。」
「ヒヘン…?に王様?」
「食欲旺盛の旺で、旺!」
「利益の利に食欲旺盛のオウ!
なんか、難しいけど、響きもいいしカッコいいな!じゃ、リオウって呼ぶな!今日からトモダチな。分かんないことあったら俺に聞けよ!」
こいつ、絶対漢字変換できてねぇな。
「じゃあ、体育の授業、いつから?体操着いつまでに揃えればいいのかな。」
「オッケー!おーい!誰かさ!体操着もう買った?」
「あー、授業いつからだっけ?」
「プリントもらってた?」
「入学前に揃えるんじゃないの?」
ちょっと待て!
なんでも聞けって言うのはただ聞くだけになってるわ、何も解決してねぇ。
まぁ、面白いし、実際知りたいから聞いとこうかな。
「うちの学校、本気のカメラって持ち込んでいいかは知ってる?」
「本気のカメラ?!」
こいつ、犬コロが尻尾を振っているみたいになってる。
「おーい写真部!
本気のカメラって自分のやつ持ってきていいの?」
「写真部いねーよ!っていうか仮入部まだだよ!」
「いいんじゃね?」
「とりあえず隠せば?スマホみたいなもんだろ。」
うん、やっぱりわかんないんだね♡
頼りない…そして陽キャすぎる…
そんでこいつ
笑顔が、眩しすぎる。
こんなやつ、初めて会った。
クラス全員と一瞬で仲良くなるやつ。
目で追わずにいられない。
「おーい!翔太〜!昼休みにサッカーやろうぜ!」
「おぅ、何人集まんの?」
隣の組の奴ららしい,
自分のクラスだけじゃないんかい、心の中でずっこける。
翌日、本気のカメラを持ち込んだ。
新しい空を撮りたかった。
放課後、良いポイントを探す。
高校に入って初めての空だ。
校舎と空、グラウンドと空。
グラウンドでサッカーしていた勇崎が近づいてくる。
勝手にレンズの前に入り込んでくる。
俺の視界は勇崎でいっぱいになった。
カメラを下ろすと勇崎がピースしている。
撮られる気しかないらしい。
弾けるような笑顔。
顔も制服も土埃まみれ。
どう見ても砂遊びしてた幼稚園児だ。
後ろにはサッカーゴールとグラウンド、イチョウの木が校庭をぐるっと囲む。
そして広がる空。
ああ
空と人。
初めて撮るならこいつがいいかもな。
俺はシャッターを切ったんだ。
『ミスっただけだから』
こんなに人のこと心配する奴っているんだな。
こっちが驚くわ。
ガシャ!!
派手な音がしてハードルが倒れ、転んだ。
淡々とでハードルを立て直し、土埃を払う。
他の部員が心配して集まってきた。
「片瀬、大丈夫か?!派手に転んだな、怪我は?!」
「血はちょっとだけだし、大して痛くない。足首の着地が悪かっただけだから、少し冷やせば大丈夫だ。でも、ちょっと休むな。」
部員たちは安心して散っていく。
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
体重をかけると鋭い痛みが走る。
眉間にシワが寄る。息が荒くなるのを堪える。
患部に濡らしたスポーツタオルかけて地べたに座り込んだ。
そこに同じクラスの勇崎が走ってきた。
サッカーの練習試合が、同じグラウンドで行われるのだ。
俺に向かって全力疾走してくる。
「大丈夫かよ、お前?!」
「あぁ?ミスっただけだから…。
お前…そろそろ試合だろ?」
「今、アップしてただけだから時間ある。
気にすんな。」
「てか、おい!利旺、ひねったんだろ?!
見りゃ分かる!
捻挫、舐めんなよ!一生足引きずんぞ?!
捻挫隠すとかお前、バカだろ?!」
離れてたのによく分かったな。
正直結構痛い。
勇崎は勝手に俺に肩を貸す。
細いのに、力強い。
俺を保健室に無理矢理連れて行った。
ひどい捻挫だと判断され、応急手当てされた。
「どうだったよ?」
勇崎は保健室の入り口で律儀に待っていた。
「かかった負荷が強そうだし、とにかく整形外科に行って来いって。」
「ほらな、お前バカ決定だろ?
親来る?来ないなら俺送ってやるよ!」
「来ないけど、いい。自分で帰れる。」
「なんだよ遠慮とかかわいくないやつだな!
俺になんでも任せろって!」
肩にまた捕まらせようとする。
俺は拒否する。
「くっそー!気をつけろよ!
俺こういう時もヒーローだけど、部活でもヒーローだから試合戻っちゃうからな!」
嵐のように去っていく勇崎。
俺はそろりそろりと歩いて着替えに行く。
なんだあいつ、口が悪くて、ド親切。
…おかげで助かったけど。
着替え終わって部室のドアを開ける。
勇崎が走り回る姿をしばらく目で追っていた。
センターフォワードか、あいつらしいな。
初めて会った時のことを思い出した。
初めて空と一緒に撮った奴だ。
笑顔が眩しくて…
目が離せなくて…
トクン
胸が鳴る
ズキン
足首が痛む
勇崎の力強い肩の感触が浮かぶ。
礼も言わなかった。
明日謝ろう。
試合は白熱しているらしい。部員のきっちり揃った声援合戦が聞こえてくる。
部長と顧問に報告して家路についた。
親の運転で整形外科に行った。
靭帯部分損傷があり、全治二週間の捻挫とのことだ。
松葉杖も渡された。
邪魔なので使うつもりはない。大げさだろ。
夜になっても今日の出来事が気になってしょうがなかった。
春に初めて空を背景に人を撮った。
その時の勇崎の写真、データどこに入れたっけ?
時系列で探してみる。あった。
画面越しじゃなんだか物足りなくなって、手にとって見てみたくなった。
プリンターで紙焼きする。
ベッドに寝転んで写真を眺める。
屈託のない笑顔。
一点の曇りもないってこんな時に使うのかな…
俺はそのまま寝落ちしていた。
翌日、教室で勇崎を見つける。
俺は足元に気をつけつつ、近づいていった。
クラスメイトとワイワイだべっている。
いつもギリギリに来るのに珍しいな。
「勇崎。昨日は助かった。
ありがとう。送ってくれようとしたのにごめ…」
「おう、利旺!!」
ごめんを言わせないスピード感だ。
「昨日の試合結果聞きたい?!
なーんとストライカーが2点も取って、2-1でウチの勝ち〜!!」
「みんな〜?ストライカーは!誰だ〜〜?!」
勇崎が椅子に乗って呼びかける。
コールアンドレスポンス始めやがった。
「勇崎〜!!!」
周りのクラスメイトが楽しそうに拳を挙げる。
やっぱり笑顔が眩しい。
眩しすぎて目を逸らしたいくらいだ。
「利旺、簡易ギプスしてんの?松葉杖使わなくていいのか?大事にしろよ!次こそ送ってやるからな!」
チャイムが鳴って、肩をポンと叩きながら自分の席へと向かっていく。
また怪我する前提で喋ってることに気づいてない。こいつ…アホなのかな…。
ほんと、こんなやつ見たことない。
こいつ、空みたいだ。
雨上がりに輝く晴れた空。
なんなら、虹まで出てそうだ。
勇崎翔太
こいつを、撮りたい。
『心配させるな!』
「なぁ、利旺。俺、最近見られてる気がしてしょうがないんだけどさ〜。誰か俺に片想いして見つめてると思う?」
勇崎が座った椅子をグラグラと後ろに傾けながら俺に聞いてくる。
「さぁ?気のせいだろ。」
危ない。隠し撮りは気をつけないとな。
俺は勇崎を撮りたい。
やりたいことは極めたいほうだ。
カメラは少し腕前がある方だから、撮るのをよく頼まれる。
クラス写真もしょっちゅうだ。
そんな時、勇崎のアップも撮っておくのは絶対忘れない。
持ち帰ったデータの編集は、まず周囲の奴らを削除するところから始まる。
それから背景を自然な感じに加工する。
一番あいつの笑顔を活かせるよう作業を着々と行う。
集合写真で困るのは、俺だけが写らないことではない。だから、カメラの固定はしない。
勇崎を綺麗に撮るのは俺の義務だから、固定なんてしてられない。
困っているのは、あいつのポジションとポーズだ。
陽キャなだけにいつもど真ん中にいて、周りにはクラスメイト。消すのが大変だ。
ポーズも普通に立っててくれればいいのに。
体育祭のクラス写真なんか、地べたに寝っ転がってピースを出していたりする。
涅槃像かよ。
このレアポーズをどう自然に見せればいいんだ…
ある日、勇崎が窓辺に腰掛けていた。
教室の隅の窓を全開にしている。
両腕をついて、足をぶらぶらさせている。
風を感じて気持ちよさそうだ。
俺はその脇でカメラのレンズを手入れしていた。隙あらば、撮る態勢。
バランスが少し崩れた…!!?
勇崎の背中が窓の外に傾いた。
ここ、3階だぞ!!!
俺はすかさず背中を抱き留めた。
カメラを投げ出す。
窓から校庭に落ちていく俺のカメラ。
木っ端微塵になる音が聞こえる。
全てがスローモーションに感じた。
勇崎は……
無事だった。
荒々しい言葉が俺の口をついて出た。
「バカやろう!!」
「何してんだ!!心配させんな!!」
「お前いつもそうだ!!
危なっかしいことばっかりで!!」
「ふざけんなよ!! いつか死ぬぞ!!」
「バカだ!!バカの極みだ!!」
スラスラと出てくる大声。
俺が声を荒げるのは珍しい。
みんなが振り返る。
勇崎がうつむく。
「心配かけてごめん。
……ありがとな。ちょっとだけバランス崩しただけだったんだけど…」
「カメラ、壊れちまった…ごめん。
愛用品だもんな…替えが効くとは思わない…だけどせめてお金だけでも返したい。あ…データ…」
「…そんなのどうでもいい。」
聞こえるか聞こえないかの呟き。
カメラもデータもそんなのはどうでもいいんだ。
「……よかった……
お前が…いなくなるかと思った…」
…お前が俺の目の前にいてくれさえいればいい…
思わず勇崎を抱きしめていた。
両腕を回し、目をきつく閉じて。
戸惑いながら勇崎が言う。
「あ…ごめ…
分かった分かったよ。
降りるから離せ、な?落ち着け。」
はっと我に返る。
えっ?!
近い!顔が近い!っていうか密着してる!
勇崎の足の間に俺の身体が収まって…てか抱きしめてたのか?!
なんだよ、この体勢!
どれくらいの間こうしていたんだ?!
カッと顔が赤くなる。
この体勢をどうしたら良いか分からず、固まる。
勇崎が俺の肩に手をかけてきた。
ポンポンと。
「もう絶対しないから、な?」
そう言うと、勇崎は俺の腕をスルリとくぐり抜けた。
「ごめんな。ありがとう。」
俺の心臓はなかなか静まらなかった。
肩が上がったまま、まばたきもせず、まっすぐ前を向いていた。
本当は崩れ落ちそうだった。
あくる日、勇崎は友達とふざけ合っている。
教室と廊下の間の窓に跨っている。
確かに校舎の壁側の窓ではない…。
勇崎は急所をぶつけたらしい。
窓から落ちた。
教室の机に頭を打って、頭を抱えている。
…懲りてねぇ。
バカな奴ほど、かわいいってこれか…
空を撮るのが好きだ。
吸い込まれるように広がる空。
何もかもを解放してくれる優しい存在だ。
" クールで何を考えてるかよくわからない優等生 "
って、よく言われる。
レッテル貼られて、正直めんどくさい。
だから、片瀬利旺ってキャラが吸い込まれ、溶けて無くなっていく感覚が好きなんだ。
空は折々に顔を変えて、いくら見ても飽きない。
朝焼けの空、薄い月が一つ浮かんだ空。
夕暮れのグラデーション。
それをカメラで切り取るんだ。
「なぁなぁ、お前名前なんてーの?」
でかい声だな。
まぁ、確かにホームルームの自己紹介は出身中学くらいしか言ってないからお互い覚えないよな。
「俺、勇崎!勇崎翔太!!みんな勇崎か翔太って呼ぶから好きな方で呼んで?新しいニックネームも歓迎!募集中!」
「おーい!ゆう〜!」
「はーい♡早速新作!俺のこと呼んだ?」
「ちげーよ!祐太郎のこと呼んだの!」
「なんだよ、勇崎のゆうじゃないのかよ。
さびしいわ、今度はご指名くださいね♡」
目の前の机にどっかり腰掛けて喋り続ける。
「で、名前は?
俺、クラスメイトを友達コンプリートしたいんよ!」
お前はポケモン図鑑作ってんのか!と心の中で突っ込む。
「…片瀬利旺」
「かたせ…ごめん?もっかい」
「り・お・う。利益の利。日偏(ひへん)に王様のおうって書いて、それでリオウって読む。」
「ヒヘン…?に王様?」
「食欲旺盛の旺で、旺!」
「利益の利に食欲旺盛のオウ!
なんか、難しいけど、響きもいいしカッコいいな!じゃ、リオウって呼ぶな!今日からトモダチな。分かんないことあったら俺に聞けよ!」
こいつ、絶対漢字変換できてねぇな。
「じゃあ、体育の授業、いつから?体操着いつまでに揃えればいいのかな。」
「オッケー!おーい!誰かさ!体操着もう買った?」
「あー、授業いつからだっけ?」
「プリントもらってた?」
「入学前に揃えるんじゃないの?」
ちょっと待て!
なんでも聞けって言うのはただ聞くだけになってるわ、何も解決してねぇ。
まぁ、面白いし、実際知りたいから聞いとこうかな。
「うちの学校、本気のカメラって持ち込んでいいかは知ってる?」
「本気のカメラ?!」
こいつ、犬コロが尻尾を振っているみたいになってる。
「おーい写真部!
本気のカメラって自分のやつ持ってきていいの?」
「写真部いねーよ!っていうか仮入部まだだよ!」
「いいんじゃね?」
「とりあえず隠せば?スマホみたいなもんだろ。」
うん、やっぱりわかんないんだね♡
頼りない…そして陽キャすぎる…
そんでこいつ
笑顔が、眩しすぎる。
こんなやつ、初めて会った。
クラス全員と一瞬で仲良くなるやつ。
目で追わずにいられない。
「おーい!翔太〜!昼休みにサッカーやろうぜ!」
「おぅ、何人集まんの?」
隣の組の奴ららしい,
自分のクラスだけじゃないんかい、心の中でずっこける。
翌日、本気のカメラを持ち込んだ。
新しい空を撮りたかった。
放課後、良いポイントを探す。
高校に入って初めての空だ。
校舎と空、グラウンドと空。
グラウンドでサッカーしていた勇崎が近づいてくる。
勝手にレンズの前に入り込んでくる。
俺の視界は勇崎でいっぱいになった。
カメラを下ろすと勇崎がピースしている。
撮られる気しかないらしい。
弾けるような笑顔。
顔も制服も土埃まみれ。
どう見ても砂遊びしてた幼稚園児だ。
後ろにはサッカーゴールとグラウンド、イチョウの木が校庭をぐるっと囲む。
そして広がる空。
ああ
空と人。
初めて撮るならこいつがいいかもな。
俺はシャッターを切ったんだ。
『ミスっただけだから』
こんなに人のこと心配する奴っているんだな。
こっちが驚くわ。
ガシャ!!
派手な音がしてハードルが倒れ、転んだ。
淡々とでハードルを立て直し、土埃を払う。
他の部員が心配して集まってきた。
「片瀬、大丈夫か?!派手に転んだな、怪我は?!」
「血はちょっとだけだし、大して痛くない。足首の着地が悪かっただけだから、少し冷やせば大丈夫だ。でも、ちょっと休むな。」
部員たちは安心して散っていく。
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
体重をかけると鋭い痛みが走る。
眉間にシワが寄る。息が荒くなるのを堪える。
患部に濡らしたスポーツタオルかけて地べたに座り込んだ。
そこに同じクラスの勇崎が走ってきた。
サッカーの練習試合が、同じグラウンドで行われるのだ。
俺に向かって全力疾走してくる。
「大丈夫かよ、お前?!」
「あぁ?ミスっただけだから…。
お前…そろそろ試合だろ?」
「今、アップしてただけだから時間ある。
気にすんな。」
「てか、おい!利旺、ひねったんだろ?!
見りゃ分かる!
捻挫、舐めんなよ!一生足引きずんぞ?!
捻挫隠すとかお前、バカだろ?!」
離れてたのによく分かったな。
正直結構痛い。
勇崎は勝手に俺に肩を貸す。
細いのに、力強い。
俺を保健室に無理矢理連れて行った。
ひどい捻挫だと判断され、応急手当てされた。
「どうだったよ?」
勇崎は保健室の入り口で律儀に待っていた。
「かかった負荷が強そうだし、とにかく整形外科に行って来いって。」
「ほらな、お前バカ決定だろ?
親来る?来ないなら俺送ってやるよ!」
「来ないけど、いい。自分で帰れる。」
「なんだよ遠慮とかかわいくないやつだな!
俺になんでも任せろって!」
肩にまた捕まらせようとする。
俺は拒否する。
「くっそー!気をつけろよ!
俺こういう時もヒーローだけど、部活でもヒーローだから試合戻っちゃうからな!」
嵐のように去っていく勇崎。
俺はそろりそろりと歩いて着替えに行く。
なんだあいつ、口が悪くて、ド親切。
…おかげで助かったけど。
着替え終わって部室のドアを開ける。
勇崎が走り回る姿をしばらく目で追っていた。
センターフォワードか、あいつらしいな。
初めて会った時のことを思い出した。
初めて空と一緒に撮った奴だ。
笑顔が眩しくて…
目が離せなくて…
トクン
胸が鳴る
ズキン
足首が痛む
勇崎の力強い肩の感触が浮かぶ。
礼も言わなかった。
明日謝ろう。
試合は白熱しているらしい。部員のきっちり揃った声援合戦が聞こえてくる。
部長と顧問に報告して家路についた。
親の運転で整形外科に行った。
靭帯部分損傷があり、全治二週間の捻挫とのことだ。
松葉杖も渡された。
邪魔なので使うつもりはない。大げさだろ。
夜になっても今日の出来事が気になってしょうがなかった。
春に初めて空を背景に人を撮った。
その時の勇崎の写真、データどこに入れたっけ?
時系列で探してみる。あった。
画面越しじゃなんだか物足りなくなって、手にとって見てみたくなった。
プリンターで紙焼きする。
ベッドに寝転んで写真を眺める。
屈託のない笑顔。
一点の曇りもないってこんな時に使うのかな…
俺はそのまま寝落ちしていた。
翌日、教室で勇崎を見つける。
俺は足元に気をつけつつ、近づいていった。
クラスメイトとワイワイだべっている。
いつもギリギリに来るのに珍しいな。
「勇崎。昨日は助かった。
ありがとう。送ってくれようとしたのにごめ…」
「おう、利旺!!」
ごめんを言わせないスピード感だ。
「昨日の試合結果聞きたい?!
なーんとストライカーが2点も取って、2-1でウチの勝ち〜!!」
「みんな〜?ストライカーは!誰だ〜〜?!」
勇崎が椅子に乗って呼びかける。
コールアンドレスポンス始めやがった。
「勇崎〜!!!」
周りのクラスメイトが楽しそうに拳を挙げる。
やっぱり笑顔が眩しい。
眩しすぎて目を逸らしたいくらいだ。
「利旺、簡易ギプスしてんの?松葉杖使わなくていいのか?大事にしろよ!次こそ送ってやるからな!」
チャイムが鳴って、肩をポンと叩きながら自分の席へと向かっていく。
また怪我する前提で喋ってることに気づいてない。こいつ…アホなのかな…。
ほんと、こんなやつ見たことない。
こいつ、空みたいだ。
雨上がりに輝く晴れた空。
なんなら、虹まで出てそうだ。
勇崎翔太
こいつを、撮りたい。
『心配させるな!』
「なぁ、利旺。俺、最近見られてる気がしてしょうがないんだけどさ〜。誰か俺に片想いして見つめてると思う?」
勇崎が座った椅子をグラグラと後ろに傾けながら俺に聞いてくる。
「さぁ?気のせいだろ。」
危ない。隠し撮りは気をつけないとな。
俺は勇崎を撮りたい。
やりたいことは極めたいほうだ。
カメラは少し腕前がある方だから、撮るのをよく頼まれる。
クラス写真もしょっちゅうだ。
そんな時、勇崎のアップも撮っておくのは絶対忘れない。
持ち帰ったデータの編集は、まず周囲の奴らを削除するところから始まる。
それから背景を自然な感じに加工する。
一番あいつの笑顔を活かせるよう作業を着々と行う。
集合写真で困るのは、俺だけが写らないことではない。だから、カメラの固定はしない。
勇崎を綺麗に撮るのは俺の義務だから、固定なんてしてられない。
困っているのは、あいつのポジションとポーズだ。
陽キャなだけにいつもど真ん中にいて、周りにはクラスメイト。消すのが大変だ。
ポーズも普通に立っててくれればいいのに。
体育祭のクラス写真なんか、地べたに寝っ転がってピースを出していたりする。
涅槃像かよ。
このレアポーズをどう自然に見せればいいんだ…
ある日、勇崎が窓辺に腰掛けていた。
教室の隅の窓を全開にしている。
両腕をついて、足をぶらぶらさせている。
風を感じて気持ちよさそうだ。
俺はその脇でカメラのレンズを手入れしていた。隙あらば、撮る態勢。
バランスが少し崩れた…!!?
勇崎の背中が窓の外に傾いた。
ここ、3階だぞ!!!
俺はすかさず背中を抱き留めた。
カメラを投げ出す。
窓から校庭に落ちていく俺のカメラ。
木っ端微塵になる音が聞こえる。
全てがスローモーションに感じた。
勇崎は……
無事だった。
荒々しい言葉が俺の口をついて出た。
「バカやろう!!」
「何してんだ!!心配させんな!!」
「お前いつもそうだ!!
危なっかしいことばっかりで!!」
「ふざけんなよ!! いつか死ぬぞ!!」
「バカだ!!バカの極みだ!!」
スラスラと出てくる大声。
俺が声を荒げるのは珍しい。
みんなが振り返る。
勇崎がうつむく。
「心配かけてごめん。
……ありがとな。ちょっとだけバランス崩しただけだったんだけど…」
「カメラ、壊れちまった…ごめん。
愛用品だもんな…替えが効くとは思わない…だけどせめてお金だけでも返したい。あ…データ…」
「…そんなのどうでもいい。」
聞こえるか聞こえないかの呟き。
カメラもデータもそんなのはどうでもいいんだ。
「……よかった……
お前が…いなくなるかと思った…」
…お前が俺の目の前にいてくれさえいればいい…
思わず勇崎を抱きしめていた。
両腕を回し、目をきつく閉じて。
戸惑いながら勇崎が言う。
「あ…ごめ…
分かった分かったよ。
降りるから離せ、な?落ち着け。」
はっと我に返る。
えっ?!
近い!顔が近い!っていうか密着してる!
勇崎の足の間に俺の身体が収まって…てか抱きしめてたのか?!
なんだよ、この体勢!
どれくらいの間こうしていたんだ?!
カッと顔が赤くなる。
この体勢をどうしたら良いか分からず、固まる。
勇崎が俺の肩に手をかけてきた。
ポンポンと。
「もう絶対しないから、な?」
そう言うと、勇崎は俺の腕をスルリとくぐり抜けた。
「ごめんな。ありがとう。」
俺の心臓はなかなか静まらなかった。
肩が上がったまま、まばたきもせず、まっすぐ前を向いていた。
本当は崩れ落ちそうだった。
あくる日、勇崎は友達とふざけ合っている。
教室と廊下の間の窓に跨っている。
確かに校舎の壁側の窓ではない…。
勇崎は急所をぶつけたらしい。
窓から落ちた。
教室の机に頭を打って、頭を抱えている。
…懲りてねぇ。
バカな奴ほど、かわいいってこれか…

