籠の中の鳥

「では私もあがいてみましょうかね」

彼女の言葉が染み渡る。
僕の変な会話に必死についてくる彼女はすごいなって思う。
普通はすぐ諦めるか、逃げていってしまうものだ。
だけど、彼女はその難解な会話を嬉々として楽しんでいるように感じるのだ。
誤解のないように言っておくが、決していじわるをしているわけではない。
ないのだが、どうしても長年の社交場で培った「他人を翻弄する」会話が板についてしまっていて、
ついポロっと口から出てきてしまうのだ。
彼女との会話は楽しい。楽しいのだ。
だからこそ、彼女に嫌われないため、会話も普通にしたいのに…

そんな思いを知ってか知らずか、彼女は嫌な顔ひとつせず、僕の会話についてくる。
とても不思議だ。
何が彼女を突き動かすのだろう。
僕のことを知ろうとしてくれているということなのだろうか?
だったら嬉しいな。

今まで、僕の内面を知ろうとしてくれた人がいただろうか?
外面だけを見て、媚び諂う大人たちばかりで、「優」としての僕を見てくれる人なんていなかった。
顔色だけを窺って内面なんておざなり。
「綿貫家」と「異能の力」にしか興味がなく、僕個人への興味は一切なかった。
それが世間一般の僕に対しての接し方。
だからこそ、彼女は異質で他とは違う何かをもっているように感じた。
もしかしたら、ただ、会話をしているだけなのかもしれない。
彼女はメイドだ。
主である僕の機嫌を取るのは普通のことなので、そういうことなのかもしれない。
だけど、それでもいいと思っている。
少なくとも「家」のことしか考えていない人間たちよりはずっとマシだからだ。
彼女との会話は灰色だった僕の心に少しばかりの「彩」をくれた。
それでいて、彼女は変に取り繕おうとはしないところがまた、いい。
いつも表裏のない「素」なのだ。
だから彼女との会話はいつも「友達」のような感覚。
妙な気を遣わなくてもいいので、話していてとても楽なのだ。
他のメイドさんとはまずこうはならない。
どこか他人行儀な、それでいて常に僕が「王様」のような言葉遣いで接してくる。
名家に仕えるメイドなのだから当然の振る舞いなのだろうが、それが一層彼女らとの距離を離してしまっているようにも感じる。
そんな事情があるから余計、沙羅だけはなんだか「特別」に見えてしまう。


今日も空を見上げていると彼女が磁石のように引き寄せられるよう、僕に声をかけてきた。

「おぼっちゃまは本当に空がお好きですね」
「今日の空はどんな感じでしょうか?」

空の気持ち、か。
そこまで考えたことなかったなぁ…と思い、空の様子を眺めて自分なりの感想を伝えてみた。

「今日の空はそうだね、生き生きとしているような気がする」
「のびのびとして、休日を楽しむ人間のように優雅だ」

率直な意見を言ってみたが、言って後悔した。
我ながらにくさいことを言ってしまったと思った。
予想外の質問が飛んできたので脳内にそれに対する回答が用意されていなかったのだ。
だけど彼女はそんなことは気にすることもなく、

「ふふ、おぼっちゃまは相変わらず面白いですね」
「でも、そうですね」
「確かにどことなく、優雅には見えるかもしれませんね」
「あの雲なんて、空を駆け抜ける馬のように見えないですか?」

そう言葉を紡いできてくれた。