籠の中の鳥

僕は生まれながらに「捕らわれの身」だ。
何をするにも誰かの許可がいる。
どこに行くにも誰かが傍にいる。
人がついてこないのはトイレくらいだ。
ごめんうそ。
トイレの入り口にも立ってた。
そして最も嫌なのが、機嫌を損ねないよう、多くの人間が僕に対して媚び諂うことだ。
理由はわかっている。
「綿貫家」という呪われた家名のせいだ。
その名を聞くだけで財界からは一目置かれ、あるいは恐れられる。
だから僕は自分の苗字がとても嫌いだ。
出来ることなら名乗りたくはない。

英才教育でそれなりのことはできるし、恥ずかしいことはしない。
そう心得てはいるが、やはり息が詰まる。
だからふと、空を見上げてしまうことが多い。

「空って…いいなぁ」

ふと顔を上に向けると無限に広がる青空が広がっている。
どこまでも続く空が僕はたまらなく好きだ。
僕にとっての自由の象徴であり、なんだか生き生きとしているように見える。
それは晴れの日でも雨の日でも気持ちは変わらない。
人間だってずっと笑顔なわけじゃない。
悲しいときや悔しいとき、腹立たしいときや愛しいとき、色々な姿がある。
それと一緒で空にもいろんな姿がある。
晴れているとき、曇っているとき、雨が降っているとき、雪が降るとき……
だから人間と空ってどこか似ているなって思う。
僕だけかもしれないけど、そう思う。

空を眺めていると自然と勇気を分けてくれる気がする。
「お前も頑張れよ!」
と背中を押してくれるような感覚。
僕も頑張らなきゃってなる。
だから、空を眺めることが最近めっきり増えた。
そしたらふいに声をかけられた。

「お坊ちゃまはまたそんなところで雲を見つめてるだけの人生ですか?」

まずいっと思った。
僕がこんなところでただ空を見上げているだけの行為を父に告げ口でもされようものなら、
もれなく折檻されてしまう。
そう思って声の方に向き直るとそこに立っていたのは一年ほど前に入った新人メイドの…たしか沙羅という名前だったか。
今まで強張っていた肩の力が急に抜け、脱力した。
そしてふと呟いてしまった。

「なんだ、君か」
「僕はね、あの青空のようになりたいんだ」

彼女は何か変なものでも見たかのようにとても驚いた顔をしていた。
僕は畳みかけるように

「空っていいじゃん?自由で」

そう、本音をポロっと言った。
彼女はいつも少しトゲトゲしい。
だけど、それは決して薔薇のように痛いトゲではない。
刺すと先っぽが引っ込む玩具のナイフのようなトゲ。
だから、自然と会話していても痛々しいと感じたことはなかった。
彼女の母上はとても怖かったけど……!


「そうですね」
「おぼっちゃまが空なら私は鳥になりますので道しるべになってくださいね?」

何かを察してくれたのか、彼女はそう言った。
きっと深い意味はないのだろう。
だけど、こうして僕を「特別扱い」せずに気兼ねなく言葉のキャッチボールをしてくれる彼女が、
今の僕にとってはとても大事な存在なのだ。
だから、その感謝の気持ちを言葉にして紡いでみることにした。



「もちろん」
「そのときは君が降り立つまで青空のままで居続けるよ」

そう言って、笑顔を向けた。