彼の名は「綿貫 優」
ぱっと見は優男で特別イケメンというわけでもなければ、それほど悪い顔でもない。
いわゆる「フツー」が似合う男の子。
上下はかま姿で少しはだけた感じが少しだらしない。
いつも軒下で足を延ばしながらボーっと日がな一日、空を眺めてる。
とても暇そう。
いつも何を見ているんだろう?
そんな空を見つめる彼を横目に観察する私もきっと暇人なんだろうなとつくづく思う。
表向きには「綿貫財閥」という大きな企業を切り盛りする日本有数の大貴族の一団だ。
その実、綿貫家は代々怪しげな「術」を使う暗部でもある。
「財閥」を隠れ蓑に、はるか昔から裏から日本を支えてきた名門家。
目の前でボーっとしている優はその綿貫家の跡取り息子なのだ。
なんでそんな裏事情を知っているのかって?
私は決して怪しい者じゃないし、もちろん「綿貫家」でもない。
私の名前は「笹川 沙羅」
少し込み入った事情があって綿貫家で掃除や炊事、洗濯などを担当するいわゆる「メイド」をさせてもらっている。
綿貫家はこういった表裏の実態があることから、一般人はまず内部に入れないし、働くこともできない。
ならばどうして私がここで働けているのか?
答えは簡単。
私の母がここでメイドをしていたから。
しかもメイド長。
こういう事情があるから、母からは何も聞かされていなかったけれど、
メイドを束ねる存在だったということはここで働くことになった頃に言伝で聞いた。
その母は去年亡くなった。
あんなにピンピンとしていて、ナイフで刺されたって死ななそうだった母はある日突然病に倒れた。
お葬式をして、後片付けをして、バタバタとした毎日を終えたころ、綿貫家から一報が入り、
ウチで働かないか?と。
元々、母と二人暮らしだった私は他に行く宛てもなかったので、こちらでお世話になることにしたのだ。
最初の半年は目まぐるしく過ぎていった。
覚えることが多すぎたからだ。
礼儀作法から始まり、テーブルマナーや言葉遣い、それが終わるとメイドとしての仕事の手ほどき…と、大変だった。
慣れてしまえば楽だけれど、入りたての頃はそれこそ地獄のような日々だった。
母が築き上げた地位のおかげで一目置かれる存在になっていたのが唯一の救いだった。
そんな嵐の日々を乗り越え、今、私は「お坊ちゃま」を眺めるくらいには暇を持て余せるようになったのである。
「お坊ちゃまはまたそんなところで雲を見つめてるだけの人生ですか?」
皮肉を込めて「おぼっちゃま」と揶揄してみたのだけれど、そこは華麗にスルーされた。
「なんだ、君か」
「僕はね、あの青空のようになりたいんだ」
そう言って天高く、空を指さす。
私は何を言っているのかイマイチ分からなかった。
「空っていいじゃん?自由で」
あぁ…そういうことか
彼は束縛された『今』が窮屈で堪らないんだな…と感じ取る。
生まれたときから「綿貫家」を背負わされた彼にとって自由なんて最初からなかった。
きっと私以上に礼儀作法を叩き込まれ、身だしなみにちょっかいを出され、テーブルマナーを徹底的に教え込まれてきたのだから…
そんな風に考えると少し、同情してしまう。
彼にとっての自由って何なんだろう?
束の間の旅行で羽を伸ばすこと?
この「綿貫家」から絶縁すること?
それとも…
もしかしたら彼にとっての本当の「自由」は死ぬまで訪れないのかもしれない
そう思うと、私まで少し悲しくなってしまった。
だから…
「そうですね」
「おぼっちゃまが空なら私は鳥になりますので道しるべになってくださいね?」
少しだけ、手を差し伸べてみることにした。
ぱっと見は優男で特別イケメンというわけでもなければ、それほど悪い顔でもない。
いわゆる「フツー」が似合う男の子。
上下はかま姿で少しはだけた感じが少しだらしない。
いつも軒下で足を延ばしながらボーっと日がな一日、空を眺めてる。
とても暇そう。
いつも何を見ているんだろう?
そんな空を見つめる彼を横目に観察する私もきっと暇人なんだろうなとつくづく思う。
表向きには「綿貫財閥」という大きな企業を切り盛りする日本有数の大貴族の一団だ。
その実、綿貫家は代々怪しげな「術」を使う暗部でもある。
「財閥」を隠れ蓑に、はるか昔から裏から日本を支えてきた名門家。
目の前でボーっとしている優はその綿貫家の跡取り息子なのだ。
なんでそんな裏事情を知っているのかって?
私は決して怪しい者じゃないし、もちろん「綿貫家」でもない。
私の名前は「笹川 沙羅」
少し込み入った事情があって綿貫家で掃除や炊事、洗濯などを担当するいわゆる「メイド」をさせてもらっている。
綿貫家はこういった表裏の実態があることから、一般人はまず内部に入れないし、働くこともできない。
ならばどうして私がここで働けているのか?
答えは簡単。
私の母がここでメイドをしていたから。
しかもメイド長。
こういう事情があるから、母からは何も聞かされていなかったけれど、
メイドを束ねる存在だったということはここで働くことになった頃に言伝で聞いた。
その母は去年亡くなった。
あんなにピンピンとしていて、ナイフで刺されたって死ななそうだった母はある日突然病に倒れた。
お葬式をして、後片付けをして、バタバタとした毎日を終えたころ、綿貫家から一報が入り、
ウチで働かないか?と。
元々、母と二人暮らしだった私は他に行く宛てもなかったので、こちらでお世話になることにしたのだ。
最初の半年は目まぐるしく過ぎていった。
覚えることが多すぎたからだ。
礼儀作法から始まり、テーブルマナーや言葉遣い、それが終わるとメイドとしての仕事の手ほどき…と、大変だった。
慣れてしまえば楽だけれど、入りたての頃はそれこそ地獄のような日々だった。
母が築き上げた地位のおかげで一目置かれる存在になっていたのが唯一の救いだった。
そんな嵐の日々を乗り越え、今、私は「お坊ちゃま」を眺めるくらいには暇を持て余せるようになったのである。
「お坊ちゃまはまたそんなところで雲を見つめてるだけの人生ですか?」
皮肉を込めて「おぼっちゃま」と揶揄してみたのだけれど、そこは華麗にスルーされた。
「なんだ、君か」
「僕はね、あの青空のようになりたいんだ」
そう言って天高く、空を指さす。
私は何を言っているのかイマイチ分からなかった。
「空っていいじゃん?自由で」
あぁ…そういうことか
彼は束縛された『今』が窮屈で堪らないんだな…と感じ取る。
生まれたときから「綿貫家」を背負わされた彼にとって自由なんて最初からなかった。
きっと私以上に礼儀作法を叩き込まれ、身だしなみにちょっかいを出され、テーブルマナーを徹底的に教え込まれてきたのだから…
そんな風に考えると少し、同情してしまう。
彼にとっての自由って何なんだろう?
束の間の旅行で羽を伸ばすこと?
この「綿貫家」から絶縁すること?
それとも…
もしかしたら彼にとっての本当の「自由」は死ぬまで訪れないのかもしれない
そう思うと、私まで少し悲しくなってしまった。
だから…
「そうですね」
「おぼっちゃまが空なら私は鳥になりますので道しるべになってくださいね?」
少しだけ、手を差し伸べてみることにした。



