男子校の姫の裏事情

「櫻井ー。これやるよ!!」
隣の席の高橋から渡されたのはカフェオレ。

(甘いもの苦手なんだけどな。まぁ綴が飲むかな。)
「わぁー!!ありがとう。」
嬉しそうな表情をつくって受け取った。

「「まっじで櫻井ほんとに男か??」」
高橋とその隣にいた相原が同時に言った。

「僕は男だよー。ここ男子校でしょ。」
男じゃなかったらなんなのか。ここは男子校だ。女いなさすぎておかしくなったのか。何回目かもわからない言葉に思わずそう返したくなったのをぐっとこらえた。

「櫻井まっじで"可愛い"よな。ほぼ女子だろ。いや、そこらの女子よりも可愛いわ。」

「それなー!!さすがは"お姫様"!!」

高校に入学してから1ヶ月。
俺、櫻井唯は"お姫様"というあだ名に頭を悩ませていた。


***
そもそも、俺はお姫様なんて感じではない。
もともと父親が剣道をやっていたこともあって5歳から剣道をはじめた。
今でも続けており中2の頃全国一位を取った事もある。

だから、中学のやつらにお姫様扱いされる事なんてなかった。皆んな俺が強い事を知っていたしなにより共学だったことも大きいだろう。

だから、入学当初は戸惑った。
男子校に入学した途端、可愛い、お姫様みたいとか自分のこれまでの人生とは無縁の言葉が身の回りで行き交うようになったからだ。

母親ゆずりの女顔に男にしては華奢な体つき。そしてまだまだ成長予定の身長。
なぜそう言われるのかがわからない事もないが、お姫様なんてガラじゃない。

本当の俺は、甘いものは苦手だし、カフェオレよりもブラックが好き。可愛いものよりもシックなものが好き。
休日は、剣道場に入り浸ってずっと稽古をしている。

けど、ここで周りに求められるのは甘いものが好きでか弱くて可愛いものが好きな"お姫様キャラ"だった。
全てが本当の俺と反対だった。

演じるのに罪悪感がないわけでも演じたいわけでもない。
けれど人は自分と違うもの、理想像からかけはなれているものはとことん排除する傾向にある。
これは俺の実体験だ。もうあんな思いしたくはない。

だから俺は演じることにした。
皆んなが求める偶像を。

(素の俺が1番良いなんて言ってくれるの綴ぐらいだし。)

****
「おーい。櫻井。"王子様"が迎えにきたぞ。」

「唯。帰ろ。」

高橋の一言ではっと現実に戻った。
(やば。ぼぉっとしてた。)
「綴!!帰ろ。」

慌てて外に出る。

迎えにきた人の顔を見てうれしくなった。

滝澤綴。彼とは中学校の時からの付き合いで俺の親友でもあり好きな人でもある。

切れ長な目に鼻筋の通った顔。クールビューティという言葉が似合うイケメンだ。

そんな外見と無口なところからか"王子様"というあだ名がつけられている。

(まぁ、綴が無口なのは緊張してるだけなんだけどね。)

俺しか知らないと思うと少し嬉しくなった。

廊下に出て昇降口へ向かう。
「綴。さっきカフェオレもらったんだけど飲む?」

ふと高橋から貰ったカフェオレの存在を思い出した。

「、、もらう。」
落ち着いた口調とは裏腹に嬉しそうな顔をしていた。

(可愛すぎるだろ。周りに人はいないよな。)
俺の前でしか出さない綴を他のやつに見せたくなくて周囲を見渡す。他に人はいなさそうだ。

「唯。どうかした?」
まるで不思議なものを見るような顔で綴が尋ねてきた。

「んーん。なんでもないよ。」

「そっか。」
そう言いながら綴は嬉しそうにカフェオレを飲み始め
た。

実は、綴は甘いものが大好きで休日にはよくスイーツ巡りをしているらしい。

「、、、唯も一口いる??」
あまりに綴の顔を見ていたせいかどうやらカフェオレが飲みたいのだと勘違いしたらしい。
可愛すぎるだろ。
どうかんがえても素の綴の方がよっぽどお姫様だ。
まぁ、素の綴を俺以外に見せるつもりなんてないけど。

「じゃあ、貰おうかな。」
そういって一口もらった。
(嬉しいけどっ!!全く意識されてないじゃん泣)
「あっま。」
あまりの甘さに顔を顰める俺を見て綴が笑った。

「はははっ。カフェオレだから甘いに決まってるじゃん。」

ツボってる綴がおかしくて帰り道は2人で笑いながら帰った。