見た目(仮)が好きです。

「佐伯優恵(さえきゆえ)好きです!付き合ってください」
 放課後に校舎裏に呼び出されたかと思いきや、高校入学して何十回目かの告白。
 正直、めんどくさい。
 最初は丁寧に断っていたが、だんだんとそれがめんどくさくなってき、今ではーーー
「ごめんなさい。見た目が好きではないです」
 と、言い放ちその場を離れるだけ。
 相手がどんな顔をしているかは正直わからない。
 前までは振り返ったりしていたけど、悲しんでる顔を見る趣味は私にはない。
 さて、ここまでの私の話を聞くと「性悪」などと思う人も多くはないと思う。
 実際私もそう思う。でも、こうなったのにはでっきとしたわけがあったりする。

 一年前、私はクラスの人気者の染谷くんという男子に告白された。
 高身長、イケメン、運動神経抜群、リーダーシップもあると三拍子どころか四拍子揃っているという、超ハイスペック男子。
 密かに恋心を抱いてた女生徒は少なくないと思う。
 けど私は染谷くんからの告白を断った。
 最初は丁寧に断った。「好きな人がいるから」と適当なことを言って逃れようとした。
 が、生まれてこのかたおそらく告白をしたこともなければ、振られた時のことなんて予想すらしていなかったのだろう染谷くんは私に「誰が好きなの?」「何組?」「同じ学年?」とやつ気早に質問をしてきた。
 実際、その時好きな人がいなかった私は適当にあしらうも段々と腹が立って来、「見た目が好きじゃない!」とはっきり言ってしまった。
 その翌日から私はクラスの仲間外れで除け者扱いにされ、「孤独」になった。
 当時はひどく落ち込んだが、今では良かったと思っている。
 私のことをわかってくれる人だけは残る。そう思っていたから。
 でもそれは夢物語で、実際は誰も私のそばにはいなかった。
 
 
 私はその足で部室に向かった。
 ガラガラ
「お疲れー」
「佐伯さんお疲れ様!」
 気怠げな私と違って元気よく挨拶してくれる彼は、伊藤悠真《いとうゆうま》。この文芸部の部長をしている。
 そして、私の好きな人。
『悠真君の好きなところは?』と聞かれると私は真っ先にこう答える。
 顔と。
 性格も普通に良いが、やっぱり顔。
 めちゃくちゃイケメン!というよりはどこか女の子みを感じる、可愛い系の顔。
 私が大好きな顔。
 そんな私が好きな人と文芸部の部室では二人きりになれる。
 なぜなら、部員が二人だけだから。
 私はデートと捉えている。
 それに、文芸部と言っても本は書かず、ただただ本を読み漁る部活。
 悠真君はいつも難しそうな本を読んでいる。
 私はというとーーー
「あ、佐伯さん、新しい巻出たんだ。何巻目だっけそれ?」
「50巻。もう長すぎて誰が誰のことが好きなのかよくわからないけど、ここまで来たら読み切りたいじゃん。もうすぐ付き合いそうだし……」
 少女漫画を読んでいる。
 別に少女漫画が好きかと言われるとそういうわけでもない。が文芸部に属している限り、いや、悠真君の邪魔にならないためにせめて本だけは読もうと思った結果がこれ。
「もうそんなにいってるんだ。完結したら読んでみようかな」
「そうしなーいつ終わるかわからないけど」
 にこやかに笑い静かな時間が過ぎていった。
 ーーー
「ところで佐伯さん今日誰かに告白されてたよね」
「ん、あーうん。されたよー」
「へー、そうなんだ」
 漫画を読むに飽きてきうとうとしていたが、悠真君の不自然な間は見逃さなかった。
 これは……チャーンス
 私の見立てだと、悠真君は私のことが好きだ。でも、告白してくる気配が一向にない。
 なんとしてでも、告白展開に持ち込まなくては。
「え、悠真君気になるの?私が付き合ったか」
「い、いやそういうわけじゃないけど、クラスの人たちが話してたから……」
「ふーん、でも気になるってことはちょっとは気があるんじゃないの?」
「お、同じ文芸部員だし。それに……」
「それに?」
 段々と焦っていく悠真君の表情いいなー。
「佐伯さんが誰かと付き合ったら文芸部こなくなるじゃないですか」
 焦っていた悠真君の顔が、とてつもなく悲しい顔に変わった。
 その変わりように私は驚きと同時に申し訳なさを感じた。
「付き合わないよ。誰とも」
「え、」
「私、こんな性格だからさ見た目目的でしか誰も告白してこないんだ。言われたわけじゃないけどなんとなくわかるんだ。全然話したこともなかったり、目線がやけに顔や胸とか足に多かったり、誰も私のことを知らない。だからこそ私は正直でいるんだ。本当に好きになってもらうために」
 だから悠真君は本当に特別な人。
 見た目じゃなく私を見てくれる、唯一の人。
 たまに視線が怪しい時もあるけど、それすらも嬉しく感じる。
 そんな彼にだから、こんなしょうもない話もできる。し、真剣に聞いてくれる。
「良かったって言っていいのかな?なんだか複雑な……。」
「でも、私には悠真君がいるよ。そんな中身を見てくれる悠真君のことが……好きだよ」
「え、え?」
「友達としてね」
 キーンコーンカーンコーン
 キーンコーンカーンコーン
 タイミングよく文化部の活動を終了するチャイムがなった。
「お、鳴った鳴った。じゃーねー悠真君また明日」
 中身が軽すぎるスクールバッグに単行本を詰めて私はそそくさと部室を後にした。
 その後の悠真君の反応を知りたくなかったからーーー
 
  
 佐伯さんが出ていった後、僕はしばらく考え事をしていた。
 考えることはもちろん『友達として』その言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
 僕が佐伯さんのことをどう思ってるのか自分でもよくわからない。
 美人でスタイル良くて、人当たりが良い反面そのせいでとても苦労してるから、自分の信念を持っている彼女のことを憧れなのか、友達と思ってるのか、はたまた好意なのか自分でもわからない。
 でも、あの言葉は僕の心に深く刺さり、おそらくしばらくは消えない傷跡を残した。
 明日ちゃんと佐伯さんと話せるかな。
 そんなことを考えながら僕も部室を出たーーー