しあわせになる方法

 喫茶店の扉の鍵は開いていたので、店内の指定された席で浅黄を待っていると、待ち合わせ時間の五分後に彼女は現れ「ここ、父親の店で、今、営業時間外なんで、大したものは出せませんけど」と、おれの前にコーヒーの入ったカップを置く。
「ミルクと砂糖は右側に有るんで、好きなだけどうぞ」
「……ブラックの方が好きだから……」
 おれから見て、テーブルの右側に有る数本の瓶を見た後、正直に話すと「奇遇ですね」と浅黄が自分の分のコーヒーを飲む。
「私も甘いコーヒー、苦手なんです」
「……ごめん。おれ、自分勝手で、浅黄の気持ち、何も分かってなくて……」
 浅黄を見れないまま、下を向いているおれに、浅黄が「そんな事ですか」と、手にしたカップをテーブルの上に置いた。
「鴇さんのおかげで店長と知り合えたから、もういいです」
 顔を上げたおれの視界に映ったのは、浅黄の笑顔。
「家族以外で、私を女の子だと言ってくれる男の人に出会えたのは、鴇さんがビリヤード店のチケットをくれたおかげ。お礼に一つ、教えさせてください」
 椅子から立ち上がった浅黄が手招きするので着いて行くと、無言で浅黄が喫茶店の出入り口のドアを開けた。
 内開きのドアの向こう側に砂子が居る事を知って、驚いたおれを見て、彼女は気まずそうに口を開く。
「鴇は、ああ言ってたけど、またケンカするんじゃないかって心配で……」
 言葉を無くしたおれに、浅黄が「さっき、店の前で砂子さんから事情は聞きました」と目線を向ける。
 顔を見合わせる砂子とおれに向けて、浅黄は「彼女さんの分のコーヒーも入れますね」と笑って、店の中に入って行く。
 おれが「今は彼女じゃない……」と訂正しようとすると、おれの服の袖を砂子が掴んだ。
「彼女でいいよ」
 こちらと視線を合わせた砂子が綺麗な事を改めて認識して、動揺したけれど、彼女の言葉が意味する所を理解した時、実感した。
 おれが探していた人はすぐ近くに居て、自分が気づいていないだけだった事を。