拝啓、最愛の君へ。

その日は告知もなく突然やってきた。

恋人が死んだ。
そう報告を受けたのは午前10時のことだった。

連絡を受けてスマホも持たずに急いで翔が"いる"という病院に向かった。

10分ほど走ってついたそこには泣き崩れているおばさんと冷たくなった翔がいた。

心臓発作だったそうだ。
おばさんがいつもどおり起こしにいったら眠るように亡くなっていたらしい。

(起きろよ。いつもどおりおはようって言えよ。)

もう目覚めないという現実を否定したくて手を握ったけどいつもの温もりは存在しなかった。
冷たくなった翔を目の当たりにした瞬間、2人で過ごしてきた時間が蘇ってきた。

よく2人で遊んだ公園。2人で放課後過ごした教室。
毎日2人で歩いた通学路。
翔に告白されて返事をした近所の自販機。
雨の中遊んで母さんとおばさんに怒られた事。
怪我で大会に出られなくなった俺を励ましてくれたベンチ。
いつも、半分こしてたアイス。
愛叶ちゃんが死んだのが悲しくて2人で泣いた翔の部屋。

2人で過ごした17年間の思い出の一つ一つが鮮明に思い浮かぶ。

俺の隣にはいつも翔が居た。
辛い時も悲しい時も嬉しい時も、どんな時も俺には翔がいた。だから乗り越えられたことは沢山ある。

「お前が居なかったらアイス半分どーするんだよ。
 いまさら1人で全部食べるとかごめんだからな。」

涙が溢れる。

「今更、俺だけで乗り越えろとか無理なんだよ。いつもどおり隣に居ろよ。じゃないと俺は生きていけない。立ち直れないんだ。」

なぁ。翔。いつも事あるごとに『支えてくれてありがとう』って言ってたよな。

いつも『おう。』って返してたけど、本当に支えてもらってたのは俺なんだよ。

愛叶ちゃんが死んで悲しかった時も、怪我で陸上の大会に出られない事が決まった時も、今の学力のままじゃ志望校に通うのは難しいって言われた時も全部、全部支えてくれてたのは翔だった。

こんな俺にいつもお前はふにゃって笑いながら『大好き。』って笑いかけてくれたよな。

その一言で、俺がどれだけ救われたか。勇気づけられたか。元気付けられたか。知らないだろ。

『なぁ、翔。まだ俺はお前にありがとうも大好きも言えてないんだよ。俺がもらった分だけ返せてないんだよ。お願いだから目を覚まして。』

死んだ人は蘇らない。
それはどんなに願っても覆らない。

そう分かっていても諦められない。あいつの死を認めたくない。受け入れたくない。

翔はもう"いない"その事実を受け入れられないまま俺は帰路についた。