青い空、白い雲、透き通るような夏風が彼女の金髪を靡かせ、まるで一枚のイラストのようだった。
生きる意味は何か、そう聞かれて即答出来る人は尊敬出来る。立花蒼真の持論だ。
蒼真は幼き頃から生きる意味が分からなかった。なぜ自分は生きているのか、なぜ死なないのか。何も分からない。
遊ぶために生きている、アニメを見るために生きている、死ぬのが怖いから生きている。どんな理由でさえ蒼真の生きる意味にはならなかった。別に遊ぶのも楽しいとは思うし好きなアニメの続きは気になる、だけどそれの為に生きているかと聞かれれば疑問に残る。
ただ蒼真が一つ、圧倒的に他者と違うのは死への恐怖が無いことだ。死だけではない、全てに対して恐怖が一切無かった。別に自信過剰なわけではない。高校受験の時も『もし落ちていたら?』という恐怖は一切無かった。理由としては『落ちたとしても別の高校へ行けばいい』などの楽観した考え。
蒼真という人間はとてつもない楽観主義なのである。
そんな人間が放課後、たまたま残っていた教室でふと思い立ってしまったのだ。
「──────死んでみよう」
決めた事は即実行、蒼真はすぐさま荷物を持っては教室を出た。夕焼けに照らされたオレンジ色の廊下を無心で歩き、普段と変わらぬように階段を上る。ガードバーを跨ぎ、高校入学後一度も入ったことの無い屋上への出入口へとやってきた。
なぜ屋上を選んだのか、それは蒼真にも分からない。学校で死ぬのなら屋上からの飛び降りが鉄則と蒼真の心の中にあったのだろう。だが懸念点もあった。現実の学校というものはそのような対策がしっかりしている。要するに屋上への扉なんて鍵が閉まっている確率の方が断然高い。
蒼真はゆっくりと扉へと手をかける。期待も緊張も無い、ただドアノブを捻った。すると思いのほか簡単に扉は開く。
──────刹那、甲高いトランペットの音が響いた。
思わず驚いてしまうような、だけど耳を塞ぎたくはない音。蒼真は心臓が撃ち抜かれるような気分だった。
金色の長い髪の毛は腰まであり、背筋は正しく伸びている。トランペットを持ち、フェンスの方を向いて吹いているのは吹奏楽部員だ。
別に知り合いなどではないが蒼真は理解する。もし吹奏楽部員じゃないとなれば不審者に違いない。
一度大きな風が吹くと謎の演奏者の綺麗な金髪が靡く。すると演奏が止まった。トランペットを下げて片手で持つと逆の手で靡く髪の毛をまとめる。
まるで幻想的な光景に蒼真は目を奪われていると謎の演奏者と目が合った。
「こんにちは」
挨拶をされ、蒼真は謎の演奏者から目線を逸らし「こんちゃ」と返す。
別に蒼真が女慣れしてないというわけではないし、謎の演奏者がめちゃくちゃ美人だったわけでもない。顔だけで言ったら中の上、噂などはされないがもしかしたら惚れられている人が一人ぐらいいるかもしれないレベル。街中を歩けばそこら辺の石ころと変わらない。
そんな相手に蒼真は視線を泳がせながら口を開く。
「綺麗な音ですね」
本心からの言葉だった。綺麗で・・・・・・力強く、心に響くような音色。だが、謎の演奏者は褒められたというのに笑顔一つ見せない。
「ありがと。そんなことよりあなたはなんでこんな所に来たの?」
「死にに来ました」
「・・・・・・」
謎の演奏者は蒼真を真っ直ぐと見つめる。その顔は驚きはおろか眉一つ動かなかった。冗談を言われたと勘違いしているのかもしれない。
ただ蒼真にはそんなこと些細なこと。それ以上にこの場所に人がいたことの方が問題だ。流石に人がいるのに屋上から飛び降りることなんて出来ない。謎の演奏者は女、蒼真は男だがもししがみつかれたらフェンスを登ることは出来ない。
それに蒼真は死のうと思っただけで誰かを道連れにする気はなかった。
「そこに座って」
「え?」
「ちょっと聞いてよ」
謎の演奏者は背後にある譜面台を自分の正面に移動させて何ページか戻り、一度深呼吸するとトランペットを構えた。
人形のように良い姿勢と綺麗な金髪、顔は普通だが目が奪われてしまう。だが蒼真の目にはとある一点が映っていた。
今は6月下旬、制服は夏仕様で半袖だ。そして今、蒼真は言われた通りに座っている。様々な条件がマッチして見えてしまっていたのだ、蒼真の目にはバッチリと──────袖口の奥にある薄水色で可愛くヒラヒラのレースが付いたものが!
視界に女の下着が映れば見てしまう、男の性であるのだから蒼真にも当てはまってしまうのだ。
蒼真が少しの罪悪感と幸運を噛み締めていると、謎の演奏者の肩が少し上がった。
次の瞬間、先程同様に蒼真の心臓は何かに撃ち抜かれたような感覚に陥った。
音楽に携わっていない人間はもちろん細かい事は分からない。でも目の前の演奏がすごいかすごくないのかぐらいは分かる。
蒼真の目には既に薄水色の下着など映っていない。オレンジ色に輝く沈んでいく太陽をバックにもし黒髪ならばやまとなでしこという言葉が似合う謎の演奏者が視界全体を飾っていた。
綺麗で力強い音色が響いて何分ほど経った時だろう。気づけば屋上は静寂に包まれていた。
「どう? 私の演奏」
「すごかった」
「淡白な感想・・・・・・」
呟く謎の演奏者はどこかホッとしているようにも見える。だがどんどんと夕焼けのせいか赤くなっていった。夕焼けのせいならそれはそれでいいが急遽熱が出たという可能性もある。
「顔、赤いけどどうしたの?」
「──────れそう」
「え?」
「漏れそう」
すらりと伸びた足を内股にし、震わせる謎の演奏者。
蒼真の脳みそは空っぽになっていた。
「お手洗い行きたい」
「なら行きなよ」
「着いてきて!」
「なんでだよ」
「連れションに決まってるでしょ!」
異性で連れションって聞いた事ないんだけど! 突っ込もうとした蒼真だったが、何がなんでも連れていかれると察して提案を受け入れた。
謎の演奏者はトランペットを置き、蒼真の横を通り過ぎてドアノブへと手をかける。
「ほら、早く行くよ」
手招きされた蒼真は本来の目的を忘れて着いていくことしか出来なかった。
十分ほど前に登ってきた階段を降り、十二分ほど前に通った廊下を歩く。
「ねぇ、君名前は?」
「立花蒼真。金髪さんは?」
「金髪さんて──────私は継琉夏穂」
簡易的な自己紹介をする蒼真と夏穂。その後も特に深い会話などはなく適当に本音でも、軽口でもないほどの言葉を口にし続けた。
そこで夏穂は吹奏楽部員で蒼真と同じ一年生、学校には吹奏楽の特待生として入ったことを知る。
蒼真も蒼真で入学理由や帰宅部であることを話すが夏穂の後だと自分のことが怠惰で何の凄みもない人だと再認識した。
そんな意味の無い会話だが蒼真は夏穂が同級生ということで敬語は外れ、夏穂も蒼真へと警戒心が薄れていった。
「金髪。なんで金髪にしてるの?」
蒼真が言葉を放った瞬間、夏穂は足を止める。
地雷を踏んでしまったのだろうか、不安になるが言ってしまったものはもう変わらない。
「私、トランペットが好き。吹奏楽が好き。だから──────金色が好きなの」
蒼真はそれを聞いて理解する。トランペットは金色だったし吹奏楽のコンクールでは銅賞、銀賞、金賞と順位を示していた。だから夏穂は金色が好きなのだ。
「だとしても髪色まで金にするんだね」
「校則違反でもないし、私は小さい頃から金髪にしてた」
「不良少女だ」
「よく言われる」
なんの意味もない会話をしながら蒼真たちは屋上から一番離れた1階南校舎のトイレへとたどり着いた。もちろんなぜ一番遠いトイレにわざわざ来たのか疑問に思うが、蒼真は口にしない。聞いたところで何かが変わる訳でもないと感じていたからだ。
「連れションって俺が女子トイレに入る? 継琉さんが男子トイレ入る?」
「そこまでガチ連れションだと困るんだけど」
「冗談だよ」
蒼真が呟くと夏穂は赤い人形マークが付いた方の入口に「絶対絶対待っててね」とだけ残して入っていった。
どうして初対面の自分が連れションに誘われたのか、どうして一番遠いトイレなのか、どうしてあそこまで念入りに待ってろと言われたのか。様々な疑問が蒼真の脳裏に浮かぶが、女子トイレの中から聞こえる「ジャー」っと勢いよく液体が発射される音に思考がかき消された。
・・・・・・蒼真も男なのだ。
「お待たせ」
「ふぇ!?」
夏穂の言葉に蒼真は驚く反応を示す。理由は言わずもがな、出会ったばっかりの金髪少女が鳴らす聖水の音を脳へインプットしていたからだ。
「屋上、戻る?」
人差し指を上に向けながら聞いてくる夏穂。
普通ならば「うん」と返事する。でも蒼真が屋上へ行ったのは死ぬためだ。屋上には夏穂がいるせいで自殺など出来ない。ならばわざわざ屋上へと戻る必要がないのだ。
「いや、いいや。俺はこのまま帰るよ」
「分かった。それじゃ、またいつか」
「うん、またいつか」
決して「さよなら」とは言わなかった二人。それでも内心では「またいつか」のいつかなんて来るはずがないと思っていた。本来ならば今日、出会うはずもなかった。
たまたま蒼真の気まぐれで、たまたま夏穂が屋上で練習して、たまたま出会えた二人なのだから。
生きる意味は何か、そう聞かれて即答出来る人は尊敬出来る。立花蒼真の持論だ。
蒼真は幼き頃から生きる意味が分からなかった。なぜ自分は生きているのか、なぜ死なないのか。何も分からない。
遊ぶために生きている、アニメを見るために生きている、死ぬのが怖いから生きている。どんな理由でさえ蒼真の生きる意味にはならなかった。別に遊ぶのも楽しいとは思うし好きなアニメの続きは気になる、だけどそれの為に生きているかと聞かれれば疑問に残る。
ただ蒼真が一つ、圧倒的に他者と違うのは死への恐怖が無いことだ。死だけではない、全てに対して恐怖が一切無かった。別に自信過剰なわけではない。高校受験の時も『もし落ちていたら?』という恐怖は一切無かった。理由としては『落ちたとしても別の高校へ行けばいい』などの楽観した考え。
蒼真という人間はとてつもない楽観主義なのである。
そんな人間が放課後、たまたま残っていた教室でふと思い立ってしまったのだ。
「──────死んでみよう」
決めた事は即実行、蒼真はすぐさま荷物を持っては教室を出た。夕焼けに照らされたオレンジ色の廊下を無心で歩き、普段と変わらぬように階段を上る。ガードバーを跨ぎ、高校入学後一度も入ったことの無い屋上への出入口へとやってきた。
なぜ屋上を選んだのか、それは蒼真にも分からない。学校で死ぬのなら屋上からの飛び降りが鉄則と蒼真の心の中にあったのだろう。だが懸念点もあった。現実の学校というものはそのような対策がしっかりしている。要するに屋上への扉なんて鍵が閉まっている確率の方が断然高い。
蒼真はゆっくりと扉へと手をかける。期待も緊張も無い、ただドアノブを捻った。すると思いのほか簡単に扉は開く。
──────刹那、甲高いトランペットの音が響いた。
思わず驚いてしまうような、だけど耳を塞ぎたくはない音。蒼真は心臓が撃ち抜かれるような気分だった。
金色の長い髪の毛は腰まであり、背筋は正しく伸びている。トランペットを持ち、フェンスの方を向いて吹いているのは吹奏楽部員だ。
別に知り合いなどではないが蒼真は理解する。もし吹奏楽部員じゃないとなれば不審者に違いない。
一度大きな風が吹くと謎の演奏者の綺麗な金髪が靡く。すると演奏が止まった。トランペットを下げて片手で持つと逆の手で靡く髪の毛をまとめる。
まるで幻想的な光景に蒼真は目を奪われていると謎の演奏者と目が合った。
「こんにちは」
挨拶をされ、蒼真は謎の演奏者から目線を逸らし「こんちゃ」と返す。
別に蒼真が女慣れしてないというわけではないし、謎の演奏者がめちゃくちゃ美人だったわけでもない。顔だけで言ったら中の上、噂などはされないがもしかしたら惚れられている人が一人ぐらいいるかもしれないレベル。街中を歩けばそこら辺の石ころと変わらない。
そんな相手に蒼真は視線を泳がせながら口を開く。
「綺麗な音ですね」
本心からの言葉だった。綺麗で・・・・・・力強く、心に響くような音色。だが、謎の演奏者は褒められたというのに笑顔一つ見せない。
「ありがと。そんなことよりあなたはなんでこんな所に来たの?」
「死にに来ました」
「・・・・・・」
謎の演奏者は蒼真を真っ直ぐと見つめる。その顔は驚きはおろか眉一つ動かなかった。冗談を言われたと勘違いしているのかもしれない。
ただ蒼真にはそんなこと些細なこと。それ以上にこの場所に人がいたことの方が問題だ。流石に人がいるのに屋上から飛び降りることなんて出来ない。謎の演奏者は女、蒼真は男だがもししがみつかれたらフェンスを登ることは出来ない。
それに蒼真は死のうと思っただけで誰かを道連れにする気はなかった。
「そこに座って」
「え?」
「ちょっと聞いてよ」
謎の演奏者は背後にある譜面台を自分の正面に移動させて何ページか戻り、一度深呼吸するとトランペットを構えた。
人形のように良い姿勢と綺麗な金髪、顔は普通だが目が奪われてしまう。だが蒼真の目にはとある一点が映っていた。
今は6月下旬、制服は夏仕様で半袖だ。そして今、蒼真は言われた通りに座っている。様々な条件がマッチして見えてしまっていたのだ、蒼真の目にはバッチリと──────袖口の奥にある薄水色で可愛くヒラヒラのレースが付いたものが!
視界に女の下着が映れば見てしまう、男の性であるのだから蒼真にも当てはまってしまうのだ。
蒼真が少しの罪悪感と幸運を噛み締めていると、謎の演奏者の肩が少し上がった。
次の瞬間、先程同様に蒼真の心臓は何かに撃ち抜かれたような感覚に陥った。
音楽に携わっていない人間はもちろん細かい事は分からない。でも目の前の演奏がすごいかすごくないのかぐらいは分かる。
蒼真の目には既に薄水色の下着など映っていない。オレンジ色に輝く沈んでいく太陽をバックにもし黒髪ならばやまとなでしこという言葉が似合う謎の演奏者が視界全体を飾っていた。
綺麗で力強い音色が響いて何分ほど経った時だろう。気づけば屋上は静寂に包まれていた。
「どう? 私の演奏」
「すごかった」
「淡白な感想・・・・・・」
呟く謎の演奏者はどこかホッとしているようにも見える。だがどんどんと夕焼けのせいか赤くなっていった。夕焼けのせいならそれはそれでいいが急遽熱が出たという可能性もある。
「顔、赤いけどどうしたの?」
「──────れそう」
「え?」
「漏れそう」
すらりと伸びた足を内股にし、震わせる謎の演奏者。
蒼真の脳みそは空っぽになっていた。
「お手洗い行きたい」
「なら行きなよ」
「着いてきて!」
「なんでだよ」
「連れションに決まってるでしょ!」
異性で連れションって聞いた事ないんだけど! 突っ込もうとした蒼真だったが、何がなんでも連れていかれると察して提案を受け入れた。
謎の演奏者はトランペットを置き、蒼真の横を通り過ぎてドアノブへと手をかける。
「ほら、早く行くよ」
手招きされた蒼真は本来の目的を忘れて着いていくことしか出来なかった。
十分ほど前に登ってきた階段を降り、十二分ほど前に通った廊下を歩く。
「ねぇ、君名前は?」
「立花蒼真。金髪さんは?」
「金髪さんて──────私は継琉夏穂」
簡易的な自己紹介をする蒼真と夏穂。その後も特に深い会話などはなく適当に本音でも、軽口でもないほどの言葉を口にし続けた。
そこで夏穂は吹奏楽部員で蒼真と同じ一年生、学校には吹奏楽の特待生として入ったことを知る。
蒼真も蒼真で入学理由や帰宅部であることを話すが夏穂の後だと自分のことが怠惰で何の凄みもない人だと再認識した。
そんな意味の無い会話だが蒼真は夏穂が同級生ということで敬語は外れ、夏穂も蒼真へと警戒心が薄れていった。
「金髪。なんで金髪にしてるの?」
蒼真が言葉を放った瞬間、夏穂は足を止める。
地雷を踏んでしまったのだろうか、不安になるが言ってしまったものはもう変わらない。
「私、トランペットが好き。吹奏楽が好き。だから──────金色が好きなの」
蒼真はそれを聞いて理解する。トランペットは金色だったし吹奏楽のコンクールでは銅賞、銀賞、金賞と順位を示していた。だから夏穂は金色が好きなのだ。
「だとしても髪色まで金にするんだね」
「校則違反でもないし、私は小さい頃から金髪にしてた」
「不良少女だ」
「よく言われる」
なんの意味もない会話をしながら蒼真たちは屋上から一番離れた1階南校舎のトイレへとたどり着いた。もちろんなぜ一番遠いトイレにわざわざ来たのか疑問に思うが、蒼真は口にしない。聞いたところで何かが変わる訳でもないと感じていたからだ。
「連れションって俺が女子トイレに入る? 継琉さんが男子トイレ入る?」
「そこまでガチ連れションだと困るんだけど」
「冗談だよ」
蒼真が呟くと夏穂は赤い人形マークが付いた方の入口に「絶対絶対待っててね」とだけ残して入っていった。
どうして初対面の自分が連れションに誘われたのか、どうして一番遠いトイレなのか、どうしてあそこまで念入りに待ってろと言われたのか。様々な疑問が蒼真の脳裏に浮かぶが、女子トイレの中から聞こえる「ジャー」っと勢いよく液体が発射される音に思考がかき消された。
・・・・・・蒼真も男なのだ。
「お待たせ」
「ふぇ!?」
夏穂の言葉に蒼真は驚く反応を示す。理由は言わずもがな、出会ったばっかりの金髪少女が鳴らす聖水の音を脳へインプットしていたからだ。
「屋上、戻る?」
人差し指を上に向けながら聞いてくる夏穂。
普通ならば「うん」と返事する。でも蒼真が屋上へ行ったのは死ぬためだ。屋上には夏穂がいるせいで自殺など出来ない。ならばわざわざ屋上へと戻る必要がないのだ。
「いや、いいや。俺はこのまま帰るよ」
「分かった。それじゃ、またいつか」
「うん、またいつか」
決して「さよなら」とは言わなかった二人。それでも内心では「またいつか」のいつかなんて来るはずがないと思っていた。本来ならば今日、出会うはずもなかった。
たまたま蒼真の気まぐれで、たまたま夏穂が屋上で練習して、たまたま出会えた二人なのだから。
