妓女の仕事は夜なので、客ではない。なので、美味しく朝餉をいただいた玉蘭は、薄い襦君と薄い化粧のまま柳姐の仕事部屋?的な場所に来ていた。朝餉を食べた後、色々と柳姐を探すのには苦労したが、ようやく見つけることが出来た。ただ、この広い楼内を駆け回っていたせいでかなり息が切れている。体力には自信のある方だが流石に疲れる。
「で?なんでわたくし一人…」
算盤やキセル、煙草盆が置いてある長机を挟み、柳姐と睨みあっている。ただ予想は外れ、玉蘭一人だけしかいない。違う用事と言うことだ…。
(まだ説教の方が良かったのに…)
柳姐の用事は厄介ごとしかない。説教の方がまだマシと言えるだろう。タッタッと激しめの足音が聞こえてくる。ただ音は小さい…。小妓だろう。
「柳姐さん!例の客が来ました!」
ドタバタと小妓が柳姐の元にやってくる。そんなに走って怒られないのだろうか。けれど予想を裏切ったのは、柳姐だ。ニィと柳姐の口角が上がる。
(見たことあるわ…。この顔──…)
思い浮かんだのは、白蓮姐ちゃんのあの悪〜い顔だ。柳姐の顔と白蓮姐ちゃんの顔が見事に一致するのは変な情景だ。
(と言うか何ですの…。面倒くさい)
「早く連れてくるんだよ!」
柳姐のハキハキとしたけれど、金目のものを見る様な目で瞳がキラキラと輝いている。金目ものだと若返る困った女性だ。
小妓が連れてきたのは武官の格好をした二十歳ぐらいの男性だった。武官にしては高価な布を使った服装に、良いとこの坊ちゃんだと言うことだを隠せなさそうな雰囲気。かなりの顔のいい青年だ。と言うか玉蘭と並んでいても可笑しくはない、それどころか玉蘭も顔負けの美形かもしれない。
「傾国の華──玉蘭か…」
声は低くて落ち着きのある声色だ。
「ふふ。素敵な殿方ですこと。お初お目にかかります。玉蘭です」
こう言う殿方には煽り気味の口調で言うのが一番良い。この調子だとすぐに惚れるだろう。
「で?柳姐、このお方はどう言う?」
答えたのは柳姐では無く、美青年の方だった。
「お前に頼みがある。ほぼ命令だ」
(このお方かなりお偉いさんですのね──…。ふふお可愛らしい…)
「あら。身請けでは無くて?残念ですわ♡」
「あんま煽るんじゃないよ。後はお二人さんで。一応小妓は置いとくから…」
これは柳姐なりの気遣いだろう。命令を伝えにきただけでも、殿方と二人には出来ないのだろう。まぁ商品に手を出されては柳姐にもダメなのかもしれないが…。
柳姐が出ていくと、小妓もソワソワし出す。小妓も乙女だ。大方そこの美青年が気になる落ちだろう。
「貴妃がお亡くなりになったのは知ってるか?」
またもやその話かと呆れてしまう。
「禁軍の将軍さん。名前を言ってもらわないと…」
禁軍の将軍さんと言うのは、玉蘭が考えただけだ。別に聞いていないがまあ将軍だろう。だが、意外にも驚かれた。
「何でお前知ってんだっ!?」
「お可愛らしい反応。で名乗ってくださらない?」
名乗らないと何と呼べばいいのかよく分からないからこちらが苛ついてしまう。
「まずなぜ分かったか教えろ!」
「気が短いですわ。旦那様♡」
「おい!やめろ!」
「旦那様が名乗ってくださらないからでしょう?」
謎に変な会話が綴られて行くのが、変な感じで玉蘭も調子に乗ってしまう。
「景蓮だ…」
「景蓮様?将軍様?旦那様?どれに致しますか」
(流石に煽りすぎてしまったかしら)
「旦那様が禁軍将軍様だと思ったのは、皇族の持つ簪が帯に刺さっていることと、武官並みの筋肉を見ればちょうど将軍様じゃないですか」
これらは、景蓮が入って来てすぐ見抜いたものだ。と言うかこのお方は随分と反応が遅い。これで禁軍の将軍をやっていたら、切られて死んでも気づかないのではないか。
「はぁ。皇太后様が仰った通りだ」
(皇太后様?)
「なぜ、やんなごとないお方の名前が出てくるのですか?あ、貴方もやんなごとないお方でしたわね」
やんなごとないを言うたびに舌がかなり回転し、自然と早口になる。
「皇太后様の遺言にはこうあった、『貴妃に事は傾国の華に任せなさい。あの子はとても鋭い子』と」
(面倒くさいことを…)
こう思いながらいる玉蘭の胸にはまた違う思いがあった。皇太后…後宮…それらには闇と恥が入った玉蘭の欠陥的な部分なのだ。
(なるべく思い返したくない…)
「お前に主上からの命だ。後宮に入内し、臨時の貴妃となれ」
こう来るとは思ったが命令と来ると断れないだろう。この人なら今すぐ玉蘭の首を体と分離させる事は大したことない。
「嫌です。って言ったら?」
「無理やり連れて行くしか無いだろう」
(皇帝の命令は絶対ですものね…。お可哀想にこの人も)
それに素直に「連れて行くしか無い」とは面白い。ただ今素直になったのは玉蘭の方だ。『面白い』コレは男性に興味を持ったと同義だろう。玉蘭にこの事は気づけなかった。
(この人──…)
見たことがある。きっと何処かで…。
(何処かでとか言いながら彼処しか無いのに。ダメだわ、私)
じっと景蓮を見つめる玉蘭の瞳には、遥か昔の古い玉蘭の記憶にいた。奥には豪華な建物、目の前には小さな可愛い男の子。男の子の手には石楠花の花が一房あり、自分に向かって笑いかけている。目の前の無愛想男と可愛い男の子が一瞬、陽炎の見た幻の様に重なり消える。心と心が瞬く間に、繫り途切れたような喪失感を覚える。急に黙ってしまった玉蘭を見つめる彼に一層恋しく感じ、吸う空気が幻をとかした様な香りがする。
(なんか変、私)
「そう言う事だ。六日後迎えに来る…」
「で?なんでわたくし一人…」
算盤やキセル、煙草盆が置いてある長机を挟み、柳姐と睨みあっている。ただ予想は外れ、玉蘭一人だけしかいない。違う用事と言うことだ…。
(まだ説教の方が良かったのに…)
柳姐の用事は厄介ごとしかない。説教の方がまだマシと言えるだろう。タッタッと激しめの足音が聞こえてくる。ただ音は小さい…。小妓だろう。
「柳姐さん!例の客が来ました!」
ドタバタと小妓が柳姐の元にやってくる。そんなに走って怒られないのだろうか。けれど予想を裏切ったのは、柳姐だ。ニィと柳姐の口角が上がる。
(見たことあるわ…。この顔──…)
思い浮かんだのは、白蓮姐ちゃんのあの悪〜い顔だ。柳姐の顔と白蓮姐ちゃんの顔が見事に一致するのは変な情景だ。
(と言うか何ですの…。面倒くさい)
「早く連れてくるんだよ!」
柳姐のハキハキとしたけれど、金目のものを見る様な目で瞳がキラキラと輝いている。金目ものだと若返る困った女性だ。
小妓が連れてきたのは武官の格好をした二十歳ぐらいの男性だった。武官にしては高価な布を使った服装に、良いとこの坊ちゃんだと言うことだを隠せなさそうな雰囲気。かなりの顔のいい青年だ。と言うか玉蘭と並んでいても可笑しくはない、それどころか玉蘭も顔負けの美形かもしれない。
「傾国の華──玉蘭か…」
声は低くて落ち着きのある声色だ。
「ふふ。素敵な殿方ですこと。お初お目にかかります。玉蘭です」
こう言う殿方には煽り気味の口調で言うのが一番良い。この調子だとすぐに惚れるだろう。
「で?柳姐、このお方はどう言う?」
答えたのは柳姐では無く、美青年の方だった。
「お前に頼みがある。ほぼ命令だ」
(このお方かなりお偉いさんですのね──…。ふふお可愛らしい…)
「あら。身請けでは無くて?残念ですわ♡」
「あんま煽るんじゃないよ。後はお二人さんで。一応小妓は置いとくから…」
これは柳姐なりの気遣いだろう。命令を伝えにきただけでも、殿方と二人には出来ないのだろう。まぁ商品に手を出されては柳姐にもダメなのかもしれないが…。
柳姐が出ていくと、小妓もソワソワし出す。小妓も乙女だ。大方そこの美青年が気になる落ちだろう。
「貴妃がお亡くなりになったのは知ってるか?」
またもやその話かと呆れてしまう。
「禁軍の将軍さん。名前を言ってもらわないと…」
禁軍の将軍さんと言うのは、玉蘭が考えただけだ。別に聞いていないがまあ将軍だろう。だが、意外にも驚かれた。
「何でお前知ってんだっ!?」
「お可愛らしい反応。で名乗ってくださらない?」
名乗らないと何と呼べばいいのかよく分からないからこちらが苛ついてしまう。
「まずなぜ分かったか教えろ!」
「気が短いですわ。旦那様♡」
「おい!やめろ!」
「旦那様が名乗ってくださらないからでしょう?」
謎に変な会話が綴られて行くのが、変な感じで玉蘭も調子に乗ってしまう。
「景蓮だ…」
「景蓮様?将軍様?旦那様?どれに致しますか」
(流石に煽りすぎてしまったかしら)
「旦那様が禁軍将軍様だと思ったのは、皇族の持つ簪が帯に刺さっていることと、武官並みの筋肉を見ればちょうど将軍様じゃないですか」
これらは、景蓮が入って来てすぐ見抜いたものだ。と言うかこのお方は随分と反応が遅い。これで禁軍の将軍をやっていたら、切られて死んでも気づかないのではないか。
「はぁ。皇太后様が仰った通りだ」
(皇太后様?)
「なぜ、やんなごとないお方の名前が出てくるのですか?あ、貴方もやんなごとないお方でしたわね」
やんなごとないを言うたびに舌がかなり回転し、自然と早口になる。
「皇太后様の遺言にはこうあった、『貴妃に事は傾国の華に任せなさい。あの子はとても鋭い子』と」
(面倒くさいことを…)
こう思いながらいる玉蘭の胸にはまた違う思いがあった。皇太后…後宮…それらには闇と恥が入った玉蘭の欠陥的な部分なのだ。
(なるべく思い返したくない…)
「お前に主上からの命だ。後宮に入内し、臨時の貴妃となれ」
こう来るとは思ったが命令と来ると断れないだろう。この人なら今すぐ玉蘭の首を体と分離させる事は大したことない。
「嫌です。って言ったら?」
「無理やり連れて行くしか無いだろう」
(皇帝の命令は絶対ですものね…。お可哀想にこの人も)
それに素直に「連れて行くしか無い」とは面白い。ただ今素直になったのは玉蘭の方だ。『面白い』コレは男性に興味を持ったと同義だろう。玉蘭にこの事は気づけなかった。
(この人──…)
見たことがある。きっと何処かで…。
(何処かでとか言いながら彼処しか無いのに。ダメだわ、私)
じっと景蓮を見つめる玉蘭の瞳には、遥か昔の古い玉蘭の記憶にいた。奥には豪華な建物、目の前には小さな可愛い男の子。男の子の手には石楠花の花が一房あり、自分に向かって笑いかけている。目の前の無愛想男と可愛い男の子が一瞬、陽炎の見た幻の様に重なり消える。心と心が瞬く間に、繫り途切れたような喪失感を覚える。急に黙ってしまった玉蘭を見つめる彼に一層恋しく感じ、吸う空気が幻をとかした様な香りがする。
(なんか変、私)
「そう言う事だ。六日後迎えに来る…」


