馬車から降り、後宮を閉ざす威圧感ある門の前まで行く。玉蘭が門の前に立つとゆっくり門が開いてゆく。門の奥には大きな堂があり、妃や女官、侍女が集まっている。まあ臨時貴妃が入内してくるのだから当たり前と言えるのだろうか。敷石が引いてあり、堂々と歩く。
「あの人が臨時貴妃?」
「確かに中華一綺麗ね…。まあ下賎の生まれよ」
「先の貴妃様の謎を解く為に来たのでしょう?ただの女官でもいいのにねぇ」
「花街のお人なのでしょう」
「お綺麗だわ」
この国の後宮は中華一大きいとも聞いている。殆どの人がここぞと言うばかりに、見に来ている所を歩いているのだから沢山の視線が突き刺さる。まあ下賎の生まれを馬鹿にしてくるのは負け惜しみだろう。澄み渡った青空をふっと見つめる。
(また後宮に…。天の意地悪かしら)
人々に見られている貴妃そのものは、高く遠く意地らしい目をしていた。その悲しく美しい玉蘭の水で薄めた赤色の果実の様な瞳から目を逸せるものはいなかった。
敷石が引かれるその先に繋がる堂の前には、宦官が立っている。玉蘭は多くに視線に見られながらも動じずゆっくりとそれに向かって歩いて行く。
堂の前に着いた時には、大勢が玉蘭の美しさに目を奪われて心此処に在らずと言った状態だった。後ろを歩く景蓮でさえも後ろ姿から見惚れるしか無かった。
「此処 に貴妃の位を授ける」
玉蘭は豪華な礼服を靡かせながら、片膝だけ地につけ頭を下げる。花の簪をつけた髪に少し重みがまた加わる。中央に真紅の宝石が乗った鳳凰を模った金の装飾に小さな真珠を垂らした簪が頭につけられる。貴妃の象徴は鳳凰と牡丹、紅玉と翡翠、玉蘭自身の意匠は薔薇らしい。
(今までは薔薇を想わす赤の着物だったから服の感じは変わらないわね)
立ち上がると、景蓮がついて来いと言わんばかりに早歩きをしていってしまう。こんなに重い簪を2個も付けているのにそんなに速く歩けるかとも思ったが、見失わない程度にゆっくりとついて行く。
しばらく行くとかなりの大きさ、いや薔薇楼の二分の一ほどある宮に着く。流石は貴妃の宮、紅玉宮。豪華な構えの宮に牡丹に限られず、沢山の花々。
(花⁉︎牡丹だけじゃない!)
殆ど叫びそうな勢いで、いや叫んでいたのだろう景蓮がドン引きしているで庭園の方に一目散に行く。いつも余裕のある雰囲気を出そうとしている玉蘭だが、点心や花になると視線を感じず没頭してしまう。というか花を愛でるのが趣味なのだ。
「薔薇!牡丹!鈴蘭!可愛らしいわ!あそこには藤まであるわ!」
赤や薄い赤、白、紫を美しく統一してある紅玉宮の庭園は中華一とも言われているらしい。薔薇と牡丹の美しい対比を見ていた玉蘭は藤を見つけて走り出し、とても傾国の華と言われたあの気取った貴妃には見えなかった。
「おいお前。侍女たちを待たせているぞ」
ただ景蓮をすっかり忘れてしまって、花を愛でていた玉蘭は呼ばれてやっと気づく。
「あら。人前でしたわ」
「あぁ人前だ」
景蓮の眉間に皺がよる、さほど怒る事ではないと思うのだが。景蓮と玉蘭がああだこうだ言い合っていると、小走りで誰かが近づいてくる気がする。
「娘娘、お待ちしておりました!」
侍女らしき人が数人駆けつけてくる。
(娘娘?普通、玉蘭様と呼ばれると思っていたのだけれど…)
娘娘と呼ぶ若い娘の後ろから三十路手前の女性が出てくる。他の侍女とは違う衣なので、侍女頭なのかも知れない。
「玉蘭様。わたくし侍女頭の菊瑛です」
明るい髪色の無駄のない美人で、明るい髪は茶髪とも少し違う赤髪の様な感じだ。
玉蘭の事を娘娘と呼ぶ風変わりな娘が菊瑛の後ろから出てくる。この娘は玲瓏の様な明るい感じの娘だった。短めの黒髪にそばかす顔だが、愛嬌のある可愛らしさだ。
「娘娘!私侍女の秋春です‼︎」
(秋春…。芸者の様な名前ね)
これ以上詮索する必要性もない。それに花街の出なら苦しい過去を抱えていた可能性が高い。彼女にとっても詮索しないでほしいだろう…。
「私、花街で奴隷だったんです!そこの景蓮様が救ってくださったのですよ!」
意外とあっさり話すタイプの人間だった。しかも無愛想男が優しい一面もあるのだなと感心する。花街の事を「かがい」と呼ぶのは貴族などだ。この子もそれなりの教養を叩き込まれたのだろう。
「そうだったのね」
優しくそう言い、秋春の髪にそっと触れる。秋春は予想外だったのか、顔が徐々に赤くなって行く。
「あら可愛らしい子♡」
「玉蘭様。あまり秋春を揶揄わないで下さいませ」
この侍女頭出来るタイプの人間かも知れない。柳姐並に玉蘭の事を理解している気がする。
「あら残念♡」
自覚しているが仲の良い姐ちゃん達以外と接する時は比較的白蓮姐ちゃんと喋り方が似ている気がする。
「この子はあまりこう言うのには慣れてないので、前の貴妃様は静かなお方でしたので」
前の貴妃の名を玉蘭の前で出すのはなかなか面白い。この菊瑛に挑発されているのかも知れない。
「汝霖様でしたっけ」
「名前ぐらいは覚えていて欲しかったものです」
「お慕いしてらしたの?」
こんな事を聞く玉蘭もなかなかだとは思うが、わざと挑発気味にしてしまう。
「ほどほどでございます」
目を伏せながら喋る菊瑛を見て心苦しくなってしまう。けれど…
「可愛いらしい嘘──」
「あの人が臨時貴妃?」
「確かに中華一綺麗ね…。まあ下賎の生まれよ」
「先の貴妃様の謎を解く為に来たのでしょう?ただの女官でもいいのにねぇ」
「花街のお人なのでしょう」
「お綺麗だわ」
この国の後宮は中華一大きいとも聞いている。殆どの人がここぞと言うばかりに、見に来ている所を歩いているのだから沢山の視線が突き刺さる。まあ下賎の生まれを馬鹿にしてくるのは負け惜しみだろう。澄み渡った青空をふっと見つめる。
(また後宮に…。天の意地悪かしら)
人々に見られている貴妃そのものは、高く遠く意地らしい目をしていた。その悲しく美しい玉蘭の水で薄めた赤色の果実の様な瞳から目を逸せるものはいなかった。
敷石が引かれるその先に繋がる堂の前には、宦官が立っている。玉蘭は多くに視線に見られながらも動じずゆっくりとそれに向かって歩いて行く。
堂の前に着いた時には、大勢が玉蘭の美しさに目を奪われて心此処に在らずと言った状態だった。後ろを歩く景蓮でさえも後ろ姿から見惚れるしか無かった。
「此処 に貴妃の位を授ける」
玉蘭は豪華な礼服を靡かせながら、片膝だけ地につけ頭を下げる。花の簪をつけた髪に少し重みがまた加わる。中央に真紅の宝石が乗った鳳凰を模った金の装飾に小さな真珠を垂らした簪が頭につけられる。貴妃の象徴は鳳凰と牡丹、紅玉と翡翠、玉蘭自身の意匠は薔薇らしい。
(今までは薔薇を想わす赤の着物だったから服の感じは変わらないわね)
立ち上がると、景蓮がついて来いと言わんばかりに早歩きをしていってしまう。こんなに重い簪を2個も付けているのにそんなに速く歩けるかとも思ったが、見失わない程度にゆっくりとついて行く。
しばらく行くとかなりの大きさ、いや薔薇楼の二分の一ほどある宮に着く。流石は貴妃の宮、紅玉宮。豪華な構えの宮に牡丹に限られず、沢山の花々。
(花⁉︎牡丹だけじゃない!)
殆ど叫びそうな勢いで、いや叫んでいたのだろう景蓮がドン引きしているで庭園の方に一目散に行く。いつも余裕のある雰囲気を出そうとしている玉蘭だが、点心や花になると視線を感じず没頭してしまう。というか花を愛でるのが趣味なのだ。
「薔薇!牡丹!鈴蘭!可愛らしいわ!あそこには藤まであるわ!」
赤や薄い赤、白、紫を美しく統一してある紅玉宮の庭園は中華一とも言われているらしい。薔薇と牡丹の美しい対比を見ていた玉蘭は藤を見つけて走り出し、とても傾国の華と言われたあの気取った貴妃には見えなかった。
「おいお前。侍女たちを待たせているぞ」
ただ景蓮をすっかり忘れてしまって、花を愛でていた玉蘭は呼ばれてやっと気づく。
「あら。人前でしたわ」
「あぁ人前だ」
景蓮の眉間に皺がよる、さほど怒る事ではないと思うのだが。景蓮と玉蘭がああだこうだ言い合っていると、小走りで誰かが近づいてくる気がする。
「娘娘、お待ちしておりました!」
侍女らしき人が数人駆けつけてくる。
(娘娘?普通、玉蘭様と呼ばれると思っていたのだけれど…)
娘娘と呼ぶ若い娘の後ろから三十路手前の女性が出てくる。他の侍女とは違う衣なので、侍女頭なのかも知れない。
「玉蘭様。わたくし侍女頭の菊瑛です」
明るい髪色の無駄のない美人で、明るい髪は茶髪とも少し違う赤髪の様な感じだ。
玉蘭の事を娘娘と呼ぶ風変わりな娘が菊瑛の後ろから出てくる。この娘は玲瓏の様な明るい感じの娘だった。短めの黒髪にそばかす顔だが、愛嬌のある可愛らしさだ。
「娘娘!私侍女の秋春です‼︎」
(秋春…。芸者の様な名前ね)
これ以上詮索する必要性もない。それに花街の出なら苦しい過去を抱えていた可能性が高い。彼女にとっても詮索しないでほしいだろう…。
「私、花街で奴隷だったんです!そこの景蓮様が救ってくださったのですよ!」
意外とあっさり話すタイプの人間だった。しかも無愛想男が優しい一面もあるのだなと感心する。花街の事を「かがい」と呼ぶのは貴族などだ。この子もそれなりの教養を叩き込まれたのだろう。
「そうだったのね」
優しくそう言い、秋春の髪にそっと触れる。秋春は予想外だったのか、顔が徐々に赤くなって行く。
「あら可愛らしい子♡」
「玉蘭様。あまり秋春を揶揄わないで下さいませ」
この侍女頭出来るタイプの人間かも知れない。柳姐並に玉蘭の事を理解している気がする。
「あら残念♡」
自覚しているが仲の良い姐ちゃん達以外と接する時は比較的白蓮姐ちゃんと喋り方が似ている気がする。
「この子はあまりこう言うのには慣れてないので、前の貴妃様は静かなお方でしたので」
前の貴妃の名を玉蘭の前で出すのはなかなか面白い。この菊瑛に挑発されているのかも知れない。
「汝霖様でしたっけ」
「名前ぐらいは覚えていて欲しかったものです」
「お慕いしてらしたの?」
こんな事を聞く玉蘭もなかなかだとは思うが、わざと挑発気味にしてしまう。
「ほどほどでございます」
目を伏せながら喋る菊瑛を見て心苦しくなってしまう。けれど…
「可愛いらしい嘘──」


