その日の放課後、私は一人でタケダ屋に来た。ねりあめを一つ買って、外のベンチに座る。
袋を開けようとして、やっぱりやめた。
ボーっと夕方の空を眺める。
すると隣に、突然現れたかのように希月が座った。久しぶりに顔を合わせる気がする。
「昼休み、中庭にいたよね?」
「気づいてたんだ」
「私のこと心配できてくれたの?」
「意味なかったけどね」
グダグダ考えて、行動が遅くなる。声もかけられなかったし、結局行っていないのと同じだ。
気づかれていることにも気づいていなかった。
どうせなら、何もできなかった私に気づいてほしくなかった。
「私、流羽が好きだよ」
突拍子のない言葉に驚いて、思わずねりあめを落としそうになった。好きだなんて言われるような会話の流れではなかったから。
ここ最近の関係で、そんなことを言われると思わなかった。
驚いたけど、純粋に嬉しかった。
私はまだ希月の親友でいられているのだろうか。
「私も……希月のこと好きだけど」
同じ言葉を返すも、希月は首を横に振る。
「たぶん、そういう好きじゃない」
そういう好き? って、どういう好きだろう。
私はこんなにも希月が好きで、彼氏に嫉妬して、一番が私じゃなくなったことの苛立ちをを必死に隠している。
頑張って他の子と仲良くしてみたりなんかして、依存してないって言い聞かせている。
別に、山中さんを一番にしようとか、そんなんじゃない。ただ寂しくて、一人になるのがこわかっった。
山中さんのことは友だちとして好きだ。
でもやっぱり、私は希月の一番の親友でありたい。
他に、どんな好きがある?
私とは違うって親友と思っていないってこと……?
考えを巡らせて、一つの可能性が浮かんだ。
「希月は……女の子が好きってこと?」
「それも、なんか違う。流羽が女の子だから好きだってわけじゃない」
その返答にホッとした。でも、なんだか残念な気持ちもある。私も希月が恋愛対象として好きというわけではないのに。
自分の感情がわからなくて黙っていると、希月が続ける。
「私は、流羽が好きだし、誰にも取られたくないし、私を一番に考えてほしいと思ってる。でも、別にキスがしたいわけじゃないの」
「キ、キス?!」
「恋愛としての好きとは違うってこと。ねえ、付き合うってなんだと思う? 私にはわからなかった」
彼氏と何があったのだろうか。いや、何もないのかもしれない。
正直、私にもわからなかった。唯一の元彼とは、一緒に勉強をしただけだった。私は一般的なカップル像を思い浮かべる。
「放課後一緒に帰ったり、連絡取り合ったり、デートしたり、部屋でまったりしたり、とか?」
「それって、カップルみたいだけど、流羽とも同じことをしてる。じゃあ恋人となにが違うのって」
たしかに。どれも希月としてきたことだ。でも、私たちは恋人じゃない。
恋人じゃないけど、ここまで仲が良い関係は特別だ。山中さんと部屋でまったりしている場面は想像できない。これから先、もしかすると彼女ともそういうことをする仲になるのかもしれけど、何か違う。その何かが感覚的なもの過ぎて言葉にできない。
「流羽が、山中さんとパンケーキ食べに行ったり、タケダ屋に来たりするのすごく嫌」
はっきりと嫌だと言う希月はすごい。私は嫌だと思ってもはっきり言えないから。
「前に、私が誰かの一番に依存してるって言ったけど、違うよ。誰かの一番じゃなくて、希月の一番でありたいと思ってる」
私の言葉に希月は目を見開く。
そして、少し困ったように笑った。
「もし私たちが恋人なら、他の子と仲良くしないでー、なんて言えたりするのかな」
冗談っぽくも聞こえるし、本心のようにも聞こえた。
その気持ちは私にもわかる。口にはできないだけで、いつも思っている。
私には希月が一番だし、希月にもそうであってほしい。
でも、他の子とも仲良くしたい。なんか私、すごく自分勝手だ。
「他の子と仲良くしないのって難しいよね」
男友だちならともかく、女の子と仲良くしないなんて不可能だ。クラスで浮いた存在にはなりたくないし、変な子だと思われたくない。
「私ね、先輩と別れたんだ」
「え……? どうして?」
「付き合ってても、意味ないなと思って。もともと少しだけって条件で付き合ってたし」
「そうだったんだ」
好きになれるかもしれないと言っていた。でも好きになれなかったのかな。
私が知らないところで、今日みたいなことがあったのかもしれない。
気にしていないように振る舞っていても、疲れてしまうのかもしれない。
嫌いになってわけではないだろう。好きになれなかっただけ。だから別れた。
それでも、希月は私のことを真っ直ぐに好きだと言ってくれる。
彼氏だった先輩よりもどこか優位になった気がして嬉しくて、でもこんなことを思う自分が浅ましい気もする。
「友情の、その先ってなんなんだろうね」
希月が赤く染まった空を見上げてながら呟く。
友情とは、友だちとか親友とか関係性のではなく気持ちのことだろうか。
「その先か……親愛、とか?」
「親しみと、愛か……私たちの間に、愛はあると思う?」
「あるよ。もしかすると、私と希月の愛の形は少し違うのかもしれないけど、愛はあるよ。だって、こんなに大切なんだもん」
幼馴染。友達。親友。
どれも当てはまるけど、どれもしっくりこない。
お互いの気持ちをぶつけ合った今、きっと私たちは友情のその先にいる。
希月は私の手を握り立ち上がる。
「帰ろうか」
「そうだね」
私たちはそのまま手を繋いで歩き出した。
「中庭、流羽が来てくれると思わなかった」
「何もしてないけどね」
「来てくれたことが嬉しかったんだよ」
「私は、今希月が隣にいることが嬉しいよ」
友情と呼ぶにはあまりにも醜く、恋と呼ぶにはあまりにも冷淡。
それでも、たしかに愛はある。
この愛と愛の関係に、名前はないのかもしれない。
袋を開けようとして、やっぱりやめた。
ボーっと夕方の空を眺める。
すると隣に、突然現れたかのように希月が座った。久しぶりに顔を合わせる気がする。
「昼休み、中庭にいたよね?」
「気づいてたんだ」
「私のこと心配できてくれたの?」
「意味なかったけどね」
グダグダ考えて、行動が遅くなる。声もかけられなかったし、結局行っていないのと同じだ。
気づかれていることにも気づいていなかった。
どうせなら、何もできなかった私に気づいてほしくなかった。
「私、流羽が好きだよ」
突拍子のない言葉に驚いて、思わずねりあめを落としそうになった。好きだなんて言われるような会話の流れではなかったから。
ここ最近の関係で、そんなことを言われると思わなかった。
驚いたけど、純粋に嬉しかった。
私はまだ希月の親友でいられているのだろうか。
「私も……希月のこと好きだけど」
同じ言葉を返すも、希月は首を横に振る。
「たぶん、そういう好きじゃない」
そういう好き? って、どういう好きだろう。
私はこんなにも希月が好きで、彼氏に嫉妬して、一番が私じゃなくなったことの苛立ちをを必死に隠している。
頑張って他の子と仲良くしてみたりなんかして、依存してないって言い聞かせている。
別に、山中さんを一番にしようとか、そんなんじゃない。ただ寂しくて、一人になるのがこわかっった。
山中さんのことは友だちとして好きだ。
でもやっぱり、私は希月の一番の親友でありたい。
他に、どんな好きがある?
私とは違うって親友と思っていないってこと……?
考えを巡らせて、一つの可能性が浮かんだ。
「希月は……女の子が好きってこと?」
「それも、なんか違う。流羽が女の子だから好きだってわけじゃない」
その返答にホッとした。でも、なんだか残念な気持ちもある。私も希月が恋愛対象として好きというわけではないのに。
自分の感情がわからなくて黙っていると、希月が続ける。
「私は、流羽が好きだし、誰にも取られたくないし、私を一番に考えてほしいと思ってる。でも、別にキスがしたいわけじゃないの」
「キ、キス?!」
「恋愛としての好きとは違うってこと。ねえ、付き合うってなんだと思う? 私にはわからなかった」
彼氏と何があったのだろうか。いや、何もないのかもしれない。
正直、私にもわからなかった。唯一の元彼とは、一緒に勉強をしただけだった。私は一般的なカップル像を思い浮かべる。
「放課後一緒に帰ったり、連絡取り合ったり、デートしたり、部屋でまったりしたり、とか?」
「それって、カップルみたいだけど、流羽とも同じことをしてる。じゃあ恋人となにが違うのって」
たしかに。どれも希月としてきたことだ。でも、私たちは恋人じゃない。
恋人じゃないけど、ここまで仲が良い関係は特別だ。山中さんと部屋でまったりしている場面は想像できない。これから先、もしかすると彼女ともそういうことをする仲になるのかもしれけど、何か違う。その何かが感覚的なもの過ぎて言葉にできない。
「流羽が、山中さんとパンケーキ食べに行ったり、タケダ屋に来たりするのすごく嫌」
はっきりと嫌だと言う希月はすごい。私は嫌だと思ってもはっきり言えないから。
「前に、私が誰かの一番に依存してるって言ったけど、違うよ。誰かの一番じゃなくて、希月の一番でありたいと思ってる」
私の言葉に希月は目を見開く。
そして、少し困ったように笑った。
「もし私たちが恋人なら、他の子と仲良くしないでー、なんて言えたりするのかな」
冗談っぽくも聞こえるし、本心のようにも聞こえた。
その気持ちは私にもわかる。口にはできないだけで、いつも思っている。
私には希月が一番だし、希月にもそうであってほしい。
でも、他の子とも仲良くしたい。なんか私、すごく自分勝手だ。
「他の子と仲良くしないのって難しいよね」
男友だちならともかく、女の子と仲良くしないなんて不可能だ。クラスで浮いた存在にはなりたくないし、変な子だと思われたくない。
「私ね、先輩と別れたんだ」
「え……? どうして?」
「付き合ってても、意味ないなと思って。もともと少しだけって条件で付き合ってたし」
「そうだったんだ」
好きになれるかもしれないと言っていた。でも好きになれなかったのかな。
私が知らないところで、今日みたいなことがあったのかもしれない。
気にしていないように振る舞っていても、疲れてしまうのかもしれない。
嫌いになってわけではないだろう。好きになれなかっただけ。だから別れた。
それでも、希月は私のことを真っ直ぐに好きだと言ってくれる。
彼氏だった先輩よりもどこか優位になった気がして嬉しくて、でもこんなことを思う自分が浅ましい気もする。
「友情の、その先ってなんなんだろうね」
希月が赤く染まった空を見上げてながら呟く。
友情とは、友だちとか親友とか関係性のではなく気持ちのことだろうか。
「その先か……親愛、とか?」
「親しみと、愛か……私たちの間に、愛はあると思う?」
「あるよ。もしかすると、私と希月の愛の形は少し違うのかもしれないけど、愛はあるよ。だって、こんなに大切なんだもん」
幼馴染。友達。親友。
どれも当てはまるけど、どれもしっくりこない。
お互いの気持ちをぶつけ合った今、きっと私たちは友情のその先にいる。
希月は私の手を握り立ち上がる。
「帰ろうか」
「そうだね」
私たちはそのまま手を繋いで歩き出した。
「中庭、流羽が来てくれると思わなかった」
「何もしてないけどね」
「来てくれたことが嬉しかったんだよ」
「私は、今希月が隣にいることが嬉しいよ」
友情と呼ぶにはあまりにも醜く、恋と呼ぶにはあまりにも冷淡。
それでも、たしかに愛はある。
この愛と愛の関係に、名前はないのかもしれない。

