恋にはならない愛の行方

 それから私たちは目に見えてぎくしゃくしていた。
 登下校も一緒にしなくなり、家を行き来したりもしない。

 言い合いをするわけでもなく、ただ距離があった。

 昼休み、山中さんとお弁当を食べながらふと窓から中庭を覗く。
 するとお弁当を抱えた希月がやってきて、ベンチに座った。いつも中庭で先輩とお弁当を食べているのだろうか。こっそり見ていると、現れたのは三人組の女の先輩だった。
 座った希月を見下ろすように先輩たちは立って何かを言っている。何を話しているか気になるが、さすがに聞こえない。
 大丈夫だろうか。おかしなことになっていないだろうか。心配だけど、飛び出していく勇気が私にはなかった。
 知り合いの先輩でただ話をしてるだけだかもしれない。ちょっと何かを聞かれているだけかもしれない。
 行ったほうがいい。そう思うのに、行かなくていい理由を探しては動けないでいる。
 変に関わることは避けたい。
 ああ私……自分が巻き込まれたくないだけじゃない。
 考えが行き着くさきは、やはり希月はあまりいい状況じゃないということ。
 
 その時、先輩の一人が希月の座っているベンチを蹴った。
 これは、理由なんて探しても意味がないほど悪い状況だ。

 じっと中庭を見ていた私に気づいた山中さんが、つられて窓の外を見る。

「え、あれ宇川さんじゃない? なんかヤバくない?」

 ヤバい、と言われて初めて体が動いた。

「私、ちょっと行ってくる」
 
 お弁当を置いて、中庭へ走った。
 希月は今どんな気持ちでいるだろう。先輩に囲まれて怖い思いをしているかもしれない。そんな彼女を見て見ぬふりをしようとしていた自分が恥ずかしい。

 中庭に着き、ベンチのところへ向かって走る。先輩たちはやはり希月を責め立てているようだった。

「っ希月……」

「なにやってるの!」

 私の声をかき消すように声をあげながらやってきたのは、男子の先輩だった。目元が山中さんに似ている。あれが、彼氏だ。
 中性的で、綺麗な顔立ちをしている。山中さんはかっこよくない、普通だ、なんて言っていたけどそんなことない。かっこいいし、背も高い。
 何より、希月を守るように立つ姿がたくましい。
 私は少し離れたところで足を止め様子をうかがっていた。
 
「山中先輩。みなさん、先輩のことが好きみたいですよ」

 その言葉でさっきまで何を言われていたかを察した。
 けれどひょうひょうとした態度の希月に、女子の先輩たちはさらにイラついているようだ。

「とにかく、こういうことはやめて。言いたいことがあるなら僕に言えばいい」

 山中先輩の強い口調に、三人組は去っていった。
 希月はベンチに座ったまま先輩を見上げ、くしゃりと笑う。

「いつかこういうのあると思ってたんですよ」
「笑いごとじゃないよ」

 並んだ二人はすごくお似合いだった。希月のあんな顔見たことない。
 遠くから眺める私は、本当に希月の中からいなくなったのだと感じた。