恋にはならない愛の行方

 翌日の日曜日。朝から部屋でゴロゴロしていると、スマホが鳴った。希月からの電話だ。

「ねえ流羽、今何してるの?」
「部屋でゴロゴロしてるよ」
「じゃあさ、お昼からパンケーキ食べに行こうよ。この前見てたやつ」
「パンケーキ、昨日食べに行ったんだよね」
「え!? だれと?」
「山中さんだけど……」

 少しの沈黙が流れる。
 別に悪いことをしているわけじゃないのに、いたたまれない気分になるのはどうしてだろう。

「……山中さんって流羽と同じクラスの子だよね?」
「うん。写真みてたら一緒に行こうって誘われて」
「なんで言ってくれなかったの」
「タイミングなくて、今度でいいかなって。希月昨日デートだったし」
「私が教えたのに……」
「でも、行こうとは言ってなかったから……」
「行きたいなら私を誘ってくれたらよかったじゃん」

 なんだか、会話が不穏な調子になってきた。
 このまま会話を続けてもよくない方にいくばかりだと直感する。

「あのさ、今から家、行っていい?」
「いいけど……」

 私は、Tシャツにショートパンツという格好のままスマホだけ持って家を出た。
 二軒隣の希月の家。インターホンを鳴らすとすぐに玄関のドアが開いた。

「いらっしゃい」
「おじゃまします」

 ぎこちない雰囲気の中、希月の部屋に入った。
 おじさんとおばさんはでかけていて、いないらしい。

 希月はベッドにもたれるようにクッションの上に座る。私も隣に座った。
 いつもならどちらからともなく自然と会話をしているのに、今は黙ったまま空気が重い。
 だけど、こういうときは無理やりにでも何かを話していればそのうち元に戻っていくのがいつもの私たちだ。

「昨日のデート、どうだった?」
「んー、普通?」
「どこに行ったの?」
「お昼ご飯食べて、先輩の家行った」

 家、行ったんだ。
 初デートで家に行くのは普通なのかな?
 付き合ってるんだから、普通か。
 家に行って何をしたのかは聞けなかった。

 というか、話題を間違えたかもしれない。
 間違えたかもしれないけど、一番聞きたいことでもあった。

「なんか、寂しいね。私の知らない希月がどんどん増えてく感じ」
「流羽だって、彼氏いたじゃん」
「そうだけど……」

 中学三年の夏休み前。同じクラスの男の子に告白されて付き合った。受験生だということもあって、デートはほとんど勉強会だった。図書館だったり、放課後の教室だったり、彼の家だったり。ただ、手を繋ぐ以上のことはしなかったし、受験が終わり春休みに入って、別々の高校に入学して自然と別れた。
 それ以降は恋愛からは程遠い日々を送っている。

「寂しかったよ。受験勉強、流羽としたかった」
「ごめん……気づかなかった」
「謝らなくていいよ。たぶんそのおかげで合格したから」

 高校に入ってからは、クラスは違うけどやっぱりずっと希月と一緒にいた。
 私に彼氏ができたって、希月との関係は変わらないと信じて疑わなかった。
 それが当たり前だと思っていた。全然、当たり前じゃないのに。
 自分のことは棚に上げて、希月の変化ばかり気にしていた。

「お互いに彼氏ができると、私たちの関係って変わるのかな?」

 今が彼女から卒業するきっかけなのかもしれない。
 そうすれば、この醜い感情も消えてなくなってくれるかもしれない。

 いつまでも幼いころのままというわけにはいかないのだから。

 希月は少し黙ったあと、私の肩に頭を乗せた。
 彼女は何かに悩んでいるとき、こうして私に寄りかかってくる。私はいつものように、ポンポンと頭を撫でた。

「変わってくことと、変わらないことがあるんじゃない?」
「それもそうだよね」
「最近私、恋愛に向いてないんじゃないかって思うんだよね」
 
 ため息をつく彼女は、なんだか私に甘えているみたいだ。いつもと立場が違う状況が嬉しい。
 彼氏ができてから何かあったのだろうか。

「上手くいかないことの方が多いよ」
「なんか流羽、かなり達観してない?」
「え? そうかな? すごく共感したんだけど」

 希月は、私の肩の上でくすりとわらい、つられて私も笑った。
 電話では気まずい雰囲気が流れていた。
 今はこうして肩を寄せ合っている。
 やっぱり、彼女の隣が私の居場所なんだと実感する。
 少しずつそばにいる時間や距離感は変わっていっているのかもしれない。
 でも、この関係が消えることはないと思う。

「もう少し、やってみようかな」
「なにを?」
「秘密だよ」

 いたずらげに笑う彼女は、やっぱり大人びて見えた。