恋にはならない愛の行方

 その日の放課後、希月は私の家に来ていた。
 宿題をして、お菓子を食べて、スマホでSNSを見ながら話をしたり。

 なんでもない時間が過ぎていく。
 
「これ見て。駅前のパンケーキ屋じゃない?」

 希月から差し出された画面を見ると、イチジクがたくさん載ったパンケーキの写真があった。
 私はベッドにもたれていた背中を伸ばし、画面を食い入るように見る。

「美味しそう! こんなにイチジク載ってるパンケーキなかなかないよ。これは食べなきゃ」
「流羽は絶対に食べたいって言うと思った」
 
 彼女は得意げに笑う。

「ねえ希月、次の休み一緒に——」

 するとその時、パンケーキの写真から着信画面に変わる。
 表示された名前は『先輩』だった。

「電話かかってきたよ」

 私はすぐにスマホを返した。
 希月はためらうこともなく、電話に出る。

「はい……土曜日ですか? 大丈夫ですよ。はい、わかりました。それじゃあ」

 電話を切った彼女は、あっけらかんとした顔でもう一度パンケーキの写真を開いて差し出してくる。
 でも私はもうパンケーキに対する興味は薄れていた。

「土曜日、なにかあるの?」
「うん。先輩がでかけようって」
「デート?」
「まあ、そうなるのかな」

 デート、するんだ。急に希月に彼氏ができたことの実感が湧いてきた。
 これまでなら、土曜日予定があるなら日曜日は私とパンケーキ食べに行こうよ、くらい言えていたはずなのにそれさえ口にできなかった。
 デート、どこに行くんだろう。私は、どうしよう。

 金曜日、二時間目終わりの休み時間。
 教室で駅前のパンケーキ屋のSNSを一人眺めていた。
 すると後ろの席の山中さんがのぞき込むように声をかけてきた。

「え、イチジクのパンケーキ美味しそう!」
「うん、だよね。私、イチジク好きなんだ」
「食べにいくの?」

 どうやらイチジクのパンケーキに興味津々のようだ。

「迷ってるんだよね」
「じゃあ、一緒に行かない?」

 突然のお誘いに私は後ろをバッと振り返る。
 長い髪をポニーテールにした彼女は、ニコニコと私を見ている。
 山中さんも、イチジク好きなんだろうか。クラスでは席が前後ということもありよく話すけれど、今まで学校の外で遊んだりしたことはない。
 そもそも、私は希月以外の友達と二人で遊びに行くことがなかった。
 希月を含めた数人で遊ぶことはあっても、二人きりというのは初めてだ。
 学校ではこうして普通に仲がいいものの、出かけるとなればなんだか緊張する。
 どうしようか返事をためらっていると、山中さんは「どうする?」と首をかしげる。

「うん……行く」
「やった。明日でいい?」
「大丈夫だよ」

 希月は明日デートだし、私も予定があった方が余計なことを考えずにすむかも。なんて邪な思いから了承した。