恋にはならない愛の行方

 少し肌寒い風が吹き始めた二学期の半ば。
 学校からの帰り道、半歩前を歩く幼馴染の希月(きづき)が振り返り、私の名前を呼んだ。

「そうだ、流羽(るう)」
「ん? なに?」
「私ね、彼氏できたんだ」

 まるでなにかのついで話のような、嬉しそうでも、恥ずかしそうでもない様子で告げてくる。
 私はといえば「え……」と声が漏れるだけで、その言葉に理解が追いついていない。
 希月は淡々と続ける。

「三年の先輩で、なんかずっと私のこと気になってたんだって」
「そう、なんだ……」

 やっと出た返事は、なんの変哲もない相づちだった。
 胸元まで伸びたサラサラの黒髪に、お人形のようなまん丸の可愛らしい瞳の希月は、それはもう幼稚園のころから男女問わずモテていた。
 告白だって数え切れないほどされている。
 それでも、今まではだれとも付き合うつもりはないと、一回も告白を受けたことはなかった。

「いつから、付き合ってるの?」
「ちょうど一週間前」
 
 ちょうど一週間前。私が熱を出して学校を休んだ日。
 そんな日に先輩に告白されて、彼女はそれを受け入れたんだ。
 知らなかった。この一週間、まったく気づかなかった。
 
「先輩のこと、好きなの?」

 一度だって告白を受けてこなかったあの希月が了承したのだから、少なからず好意はあるのだろう。そう思って聞いたけれど、返事は予想外のものだった。

「ううん。別に?」

 首をかしげる仕草は惚れ惚れするほど可愛いのに、どこかいたずらっぽさを秘めている。
 いつものように前とも隣とも言えない距離感で歩く彼女は、たしかに恋する乙女とは言い難い表情をしていた。

「じゃあ、どうして付き合ったの?」
「なんとなく、好きになれるかもしれないなと思って」
「なんとなく?」
「うん。それに、そろそろ変わらないといけないから」
 
 何を変えるのかはわからないけれど『彼氏ができたんだ』と言ったときの表情よりも明らかに楽しそうだった。
 微笑む彼女とは裏腹に、私の心には黒い感情が渦巻いていた。
 
 希月は美人で大人っぽい。その見た目に違わず、どこか飄々として落ち着いているし、気取らない彼女を周りの人も慕っていた。
 そんな彼女の幼馴染であり、親友という立場が私の存在価値になっていることを自覚している。
 地味でなんの取り柄もない私が唯一自慢できること。それは、希月の一番は私だということだった。

 誰にも、希月を取られたくない。

 でも、彼氏という立場にはかなわない。

 喉元がぎゅっとなって何も言えないでいると、突然希月が私の手を握った。

「ねえ、久しぶりにタケダ屋行こうよ!」