赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「まあ、美津子様はともかくとして、咲夜様。あなたのお召し物、地味過ぎない?宮廷を馬鹿にしているのかしら?宮廷行事は田舎のお祭りではなくてよ?ねぇ、美津子様もそう思わない?」

千代の後ろにいる千代の派閥の側室たちは咲夜を見て笑っている。その他の側室たちも、巻き込まれてはたまらないと我関せず。

「そうですか。私は咲夜様のお召し物は、場にふさわしいと思いますがね」

美津子が咲夜を庇う発言をすると、千代はあからさまに嫌な顔をした。

「確かに地味……いえ、素朴で咲夜様のお家格にふさわしいかもしれませんわね」

千代は笑うような仕草をしている。けれどその目は笑っていない。

「私はそのような意味で言ったのではありません」

「けれど品格はお着物や仕草で決まると昔から言いますよね。そういう意味では、どうなんでしょうね」

理由はわからないが、千代は咲夜をやたらと敵視しているように見える。

先ほどから公然と侮辱されている咲夜は何も言い返さず、千代を見つめている。少しも目をそらさずじっと。

「何?私に文句でもあるのかしら、田舎者の卑しい娘が」

千代の派閥の側室たちも、千代と同じように咲夜を睨みつける。まさに多勢に無勢だ。

「いえ、何でも?」

どれだけ千代に睨まれようとも、咲夜は少しも目をそらさない。

「お二人とも、何をしているのですか」

それは女官長が止めに入るまで続いた。

「咲夜様、千代様に対して挑発なさるのはおやめください」

千代が去った後に咲夜に注意をする女官長。

「違うのです、咲夜様は何も」

「美津子様、良いのです。私もにらみ返してしまったのは悪いと思っておりました」

美津子は咲夜を庇うが、咲夜は気にしてもいないようだ。このような事態には慣れているのだろう。

美津子は咲夜が置かれている境遇に心が痛くなった。

「反省しているなら良いのです。私も少し言いすぎました」

女官長はそれだけ言って去ってゆく。

昼前には帝がお出ましになる。迎え入れのために二人は自分の席に移動しなければならない。

「では私たちも行きましょうか」

美津子と咲夜は別れてそれぞれ、席へと向かう。

そして帝のお出ましの時間がやってきた。

一同は平伏する。

席次は位階(いかい)や家格によって厳格に定められている。上座には帝が、下座は公卿(こうけい)、側室たち、官女たちが並ぶ。

宴は帝の宣下によって、本格的に始まる。

「桜花爛漫の候、こうして皆が一堂に介し、春の宴を催せることを嬉しく思う」

帝の合図とともに皆が両手で盃を掲げ、帝への祝いの言葉を捧げる。

帝が酒を口にすれば、続けて皆も口にする。

美津子も、袖で口元を隠しながらそっとお酒をいただいた。