赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「美津子様、お湯加減はいかがですか?」

尋ねたのは、美津子のことを昔から世話する、気心の知れた女官、静江。

「ええ、とっても気持ちがいいわ」

檜の浴槽にお湯がなみなみと。沈香が香り花びらが浮かぶ贅沢な湯だ。美津子は静江や気心の知れた女官たちにてきぱきと髪を洗われ、肌を磨かれた。

湯殿の空気は終始和やかで、女官たちは皆にこにこと美津子を見守る。

「美津子様がお好きな花と香り。私が気を利かせて実家から持ってきたのですよ。感謝してくださいね」

静江はそう言って笑う。美津子は手のひらにお湯を掬って香りを楽しむ。

「そうね。私は好きだけど陛下は、どうかしらね」

「私は美津子様がお好きな香りなら、それが一番良いと思いますよ」

静江は屈託のない笑顔でそう言った。曇りなど一点も無いその表情こそが、美津子と静江の確かな信頼を物語っている。

そして湯あみが終わったなら、今度は着替え。

最高級の絹、美しい刺繍が施された後宮の正装を侍女たちが手際よく美津子に着せてゆく。彼女たちは最早、手慣れたものだ。

あっという間に着付けが終わり、髪が結われ、髪飾りまでつけ終わる。

「ほら、終わりましたよ。美津子様。今日も完璧ですね」

「褒めても何も出ないわよ」

美津子は滑らかな絹の着物の胸元を、少し撫でる。

「美津子様、陛下との謁見のお時間でございます」

御殿の外から女官長が呼んでいる。

次はいよいよこの国の頂点、帝との謁見。

たいていのことを平常心でこなす美津子も、この時ばかりは緊張していた。

帝とはどのようなお人なのだろう。怖い人だったら嫌だな。

そのようなことを思いながら美津子は正殿へと続く道を歩く。

緊張する心が、実際よりも道を長く感じさせる。

「美津子様、謁見までの間、こちらでお待ちください」

まず美津子が通されたのは、控えの間。

そこには先ほどの人形の女性、咲夜が先に待っていた。

「それでは、私共は準備がありますので、失礼いたします」

美津子と咲夜を置いて女官長は隣の部屋へ退出する。美津子と咲夜は控えの間にて二人きりになった。