赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「その人形は何です?そこの彼女の私物ですよね?返して差し上げては?」

美津子はその女官に静かに問いかける。

「これは……呪詛かもしれなくて」

「その人形が呪物である証拠はあるのですか?証拠も無しに彼女の大切なものを奪おうと?」

「いえ……それは」

言いよどむ女官。周囲の女官たちも固唾をのんで見守る。

「もし必要なら、彼女に確認を取って、一時的にお預かりになって調べられては?」

「それは……そうですが」

女官は何も言えず俯く。言い返したくても、美津子の家格がその言葉を封じる。

「美津子様、お待たせいたしました。今しがたお荷物の確認が終わりまして……おや、いかがなさいました?」

その時、膠着を打ち破るように女官長の声。

「女官長……咲夜様がこのようなものを」

女官は女官長に人形を見せつけ、女性を指す。

「それは、人形……ですか」

女官長は無表情で人形を見る。その人形は質素な布袋に穀物を詰めて、不器用な刺繍で目や口をつけたような見た目をしている。

「美津子様が、返せとおっしゃるのですが」

「美津子様が?」

女官長は美津子の顔色を窺う。

「ええ、私が言いました。その人形は彼女の大切なものに思えましたので、呪詛の類でないならば、返すべきかと」

美津子の言葉を聞いて、女官長は怯える女官から人形を受け取る。

「事情は分かりました。この人形はお預かりして検査し、問題がなければ私から咲夜様にお返ししましょう。よろしいですね。咲夜様」

女官長は咲夜と呼ばれた女性に視線を送る。その女性は静かに頷く。

「では、この件は以上です。美津子様、咲夜様。お二方はこれから湯あみのお時間となりますので、ご移動の方をお願いいたします」

それから女官長は美津子を案内すべく歩き出す。

人形が無事に返されるかは分からないが、それは最早美津子にはどうしようもない。美津子は気持ちを切り替えることにした。

荷物検査が行われた部屋を後にして、庭園の小路を歩くとその先には立派な御殿が見える。

「あちらが一棟全て、美津子様の御殿になります」

御殿の玄関辺りでは、美津子が家から連れてきた顔なじみの女官たちが美津子の荷物を運び入れていた。