そしてようやく春が来た。
決戦の舞台は観桜の宴。……と美津子は聞かされていたはずだが、いつの間にか観梅の宴にまで一月半ほど前倒しされたらしい。帝が我慢できなかっただろうことが容易に察せられる。良いように捉えると、これも愛の力というやつなのだろう。
それはいいとして、前倒しなんかして証拠の準備はちゃんとできているのだろうか。不安だ。かといって美津子にはどうすることもできないが。
まだ肌寒い季節、雪が残る庭園に紅梅の赤が映える。
席に温かい梅茶や酒が準備され、続々と宮廷の人々が集まる。
皆が揃い、帝、皇太后がお出ましになられた。
いよいよ決戦の幕が開ける。
当然その中には千代も、千代の派閥の側室たちも出席している。千代の父親も兵衛府の長官として席についている。
「皆の者、面を上げよ。例の件について調べがついたそうだな。今ここで真実を発表してもらおうではないか」
帝の宣言と共に、神祇伯が例の呪われた御札をもって前へ出る。
「皆様こちらをご覧ください。この呪われた御札、一見すると血のように見えますが、これは赤い染料です。時間がたっても黒く変色しませんし特有の匂いもありません」
神祇伯はお札の文字を指し示し説明を続ける。
「札の台となっている紙も新しいですし、書いてある文字の綴りも微妙に間違っています。ゆえにこの御札に効力はありません。まずはそのことをご了承ください」
そう言って神祇伯は周囲を圧倒するような笑顔を振りまく。
「しかし、偽物だとしても咲夜という娘が千代様を呪おうと試みたことに変わりはないはず」
皇太后はすかさず指摘するが、それについては帝が反論する。
「お札の紙や字を書くのに使われた染料、人形を縫い留めるのに使われた糸は咲夜には到底入手しようがないほど高価なものでした。ゆえに咲夜が犯人であることは考えられませんよ。母上」
実の息子に言い返され、屈辱のあまり皇太后は顔をゆがめる。
「……それはその女が盗んだだけかもしれないじゃない」
皇太后のそれは想定通りの反論だった。
そう、盗んでいないことは誰にも証明しようがない。
「ええ、そうですね。咲夜がそれらの道具を盗んでいないことは我々にも証明できません。ですが母上、逆に盗んだとも言い切れぬでしょう?それならばこの言い争いは無意味だ。だからもっと有意義な話をしませんか」
「有意義な話って何よ……」
嫌な予感がしたのだろう。皇太后の顔が引きつる。
帝が合図をすると、文官たちが列をなして何やら持ってくる。
その正体は分厚い書類の束だ。
決戦の舞台は観桜の宴。……と美津子は聞かされていたはずだが、いつの間にか観梅の宴にまで一月半ほど前倒しされたらしい。帝が我慢できなかっただろうことが容易に察せられる。良いように捉えると、これも愛の力というやつなのだろう。
それはいいとして、前倒しなんかして証拠の準備はちゃんとできているのだろうか。不安だ。かといって美津子にはどうすることもできないが。
まだ肌寒い季節、雪が残る庭園に紅梅の赤が映える。
席に温かい梅茶や酒が準備され、続々と宮廷の人々が集まる。
皆が揃い、帝、皇太后がお出ましになられた。
いよいよ決戦の幕が開ける。
当然その中には千代も、千代の派閥の側室たちも出席している。千代の父親も兵衛府の長官として席についている。
「皆の者、面を上げよ。例の件について調べがついたそうだな。今ここで真実を発表してもらおうではないか」
帝の宣言と共に、神祇伯が例の呪われた御札をもって前へ出る。
「皆様こちらをご覧ください。この呪われた御札、一見すると血のように見えますが、これは赤い染料です。時間がたっても黒く変色しませんし特有の匂いもありません」
神祇伯はお札の文字を指し示し説明を続ける。
「札の台となっている紙も新しいですし、書いてある文字の綴りも微妙に間違っています。ゆえにこの御札に効力はありません。まずはそのことをご了承ください」
そう言って神祇伯は周囲を圧倒するような笑顔を振りまく。
「しかし、偽物だとしても咲夜という娘が千代様を呪おうと試みたことに変わりはないはず」
皇太后はすかさず指摘するが、それについては帝が反論する。
「お札の紙や字を書くのに使われた染料、人形を縫い留めるのに使われた糸は咲夜には到底入手しようがないほど高価なものでした。ゆえに咲夜が犯人であることは考えられませんよ。母上」
実の息子に言い返され、屈辱のあまり皇太后は顔をゆがめる。
「……それはその女が盗んだだけかもしれないじゃない」
皇太后のそれは想定通りの反論だった。
そう、盗んでいないことは誰にも証明しようがない。
「ええ、そうですね。咲夜がそれらの道具を盗んでいないことは我々にも証明できません。ですが母上、逆に盗んだとも言い切れぬでしょう?それならばこの言い争いは無意味だ。だからもっと有意義な話をしませんか」
「有意義な話って何よ……」
嫌な予感がしたのだろう。皇太后の顔が引きつる。
帝が合図をすると、文官たちが列をなして何やら持ってくる。
その正体は分厚い書類の束だ。
