赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「神祇伯殿は、咲夜が盗人だと言いたいのか?」

怒りを露にする帝に対して神祇伯は落ち着いている。

「陛下、落ち着いてください。そのように言いがかりを付けられたら証明ののしようがないと言っているのです。そうなれば待っているのは底なしの水掛け論だけですよ」

「では、どうしろと言うのだ」

ふてくされる帝。美津子も咲夜も困り果て、おろおろするばかりだ。

「この件を解決するには、そもそも敵の土俵に乗らぬことが重要でしょうね」

「どういうことだ」

神祇伯の思わせぶりな話し方に帝の焦燥は募ってゆく。

「陛下、あなたが千代様のご実家、岩永の弱みを掴んでいることは知っています。それを使うのですよ」

「岩永の弱みだと……」

「仮に人形の件が水掛け論で終わっても、千代様のご実家がその場で没落してしまえば、誰も千代様の肩を持つものはいなくなる。そうなれば皆、人形ことなんて忘れてしまうでしょう?」

「……だが、あれはまだ証拠集めが足りていない。急いでも完璧な証拠が揃うのは春ごろになるだろう。その間、咲夜の身の安全はどうなる?」

不安そうな帝、神祇伯は余裕の笑みを絶やさない。

「そこは、ほら、我々の出番ですよね。美津子様」

「へ?私?」

目配せをされ、いきなり話に加えられて、戸惑う美津子。

そこから美津子たちが咲夜に付き添う生活が始まった。

神祇伯が言うには、美津子と帝の二名は当番制でできる限り咲夜の生活に付き添えば良いらしい。

神祇伯自身は、配下の信頼できる神祇官たちを人形の件の調査の名目で臨時に咲夜の警護に送り込むとのこと。

何か神祇伯だけ楽してないか。美津子は思ったが彼は後宮に毎日出入りする身分ではないため、それが限界なのだろう。限界なのだということにしておこう。

「何かいつもすみません。美津子様」

「いえ大丈夫よ。今日は私が当番ですからね。今日は他にやることもないし、暇ですから」

咲夜を連れて出かけたりできればこの生活も少しは楽しいのかもしれないが、それは咲夜の安全を担保できないという理由で禁止されている。

できることと言えば、室内で遊べる双六や、葉子、香合わせなど。

楽しいけれど何回もやれば、いすれ飽きてしまう。

今日は冬には珍しく天気は晴れ。外は温かい日差しに包まれている。こんな日には庭でも散歩したい気分になる。けれど我慢しなければ。美津子は咲夜に目をやる。咲夜は美津子と違い、一日たりとて外へは出られないのだ。

「退屈ね。あなたも外に出られないのは随分と窮屈でしょう?」

「いえ、私はこうやって女友達と双六するの生まれて初めてなのでとっても楽しいです」

「……そう。そうなのね。それは良かったわ」

案外楽しそうな咲夜を横目に、美津子はこの生活は春までの辛抱だと自分に言い聞かせた。