赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「あの女終わったわね」

「帝のご寵愛を独占するからこうなるのよ」

「身の程知らずが皇太后様に逆らうからからいけないのよ」

後宮のどこに行っても咲夜の悪口が聞こえてくる。

帝と咲夜は、後宮の悪意から逃れるため、美津子の部屋へ来ていた。

人形の件のせいで咲夜の部屋は監視対象になっており落ち着かないのだろう。

かといって皇太后の監視がある帝の私室に咲夜を招くこともできなくて。

そうういうわけで美津子の部屋が選ばれたことが容易に察せられる。

「あの人形は没収されたままなの?」

「ええ。今調査中だそうで、証拠として返すわけにはいかないそうです」

「そうなのね。早く疑いが晴れて、返してもらえるといいわね」

帝は訝し気な目で美津子を見ている。

「美津子、まさかお前が仕組んだことじゃないだろうな」

「陛下、なんてことを言うのです。美津子様はお優しい方です。そのようなことをなさる方ではありません」

咲夜のその声を聞いてなぜか神祇伯まで美津子の御殿に勝手に入ってくる。

「そうですよ咲夜様の言うとおりだ。美津子様はそのようのことをするお方ではありません」

咲夜に続いて美津子を擁護する神祇伯。

「例え陛下が美津子様の元へ一切通わず、冷遇し、咲夜様だけを愛する様を見せつけ、美津子様の嫉妬を煽ろうとも。例え陛下が美津子様に一切、一片も愛情を注がなくとも。例え陛下が一切渡りをせず美津子様を全く不当に扱っていたとしても……」

「もうやめてくれるか?神祇伯殿。余に責任の一端があることはよく分かったから」

神祇伯の言葉を遮る帝。身に覚えでもあったのだろうか。苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「それはともかく、今は咲夜の濡れ衣を晴らすことだけ考えねば」

自分に分が悪いと見るや否や、話題を変えようとする帝。

「そうですね。咲夜様の私物の人形に誰がお札を混入したのか特定できれば良いのですが。それは結局水掛け論にしかならないでしょう」

神祇伯は帝を見ながら自分の考えを述べた。

「物的証拠があれば確かですよね、例えば、人形に違和感があったとか、お札に特徴があったとかありませんでした?」

美津子は咲夜に尋ねる。すると咲夜は何か思いついたようだ。

「そういえば、あの人形。いつの間にか糸が綺麗になっているなと思っていました。お札の紙と墨も、ちらっと見ただけですが、かなり上等だったように思います」

「本当か?ならばそれは身分の高い者の仕業だという証拠に」

解決の糸口が見えたと、喜ぶ帝。

「身分の高い者、と一口に仰いますが、この宮廷に身分の高い者がどれだけいると思っているのです?それに咲夜様が身分の高い者から道具を盗んだと言いがかりを付けられたら、どうするのです」

神祇伯はその喜びに、冷静に水を差した。