赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

先ほどから武官が何度も同じ棚の一段目を開けたり閉めたりしている。

「あの……さっきから同じところばかり開けてますよね」

「……ああ、すみません」

美津子に指摘された武官は二段目の棚を開けた、と思いきや中身をろくに確認せず、すぐに閉じ、また一段目を開けている。そしてまた閉める。

女官の方も衣類の入った棚を開けて一秒もしないうちにすぐ閉めている。

どうやら彼らはまともに調べる気がないらしい。

彼らはしばらく探しているふりだけを続け、「見つかったぞ」と外から声が聞こえたら、そそくさと美津子の御殿から出ていく。

「何だったの?」

美津子はあっけに取られていた。調べると言いながらまともに調べる気もないし、さっさと出て行くなんて訳が分からない。

気になった美津子は、彼らの後をついていくようにして部屋を出た。静江も美津子に続く。

たどり着いたのは咲夜の部屋だ。

「この女の人形からこんなものが」

千代の御付きの女官は女官長に訴えている。

「それはお札ですか」

その女官が手に持っているのは明らかに呪われた御札だった。

血で書かれた悍ましい文字を見れば、それが呪われたものであることは誰の目にも明らかである。

「このお札のせいで千代様は体調を崩されたのです。この女が千代様を呪ったのです」

女官は咲夜を指して喚き散らす。

「そんな……私は、そのようなものは知りません。私の大切な人形にそのようの不吉な札など」

咲夜は動揺して、必死に釈明をしようとするが女官たちの冷たい目線は容赦なく咲夜に突き刺さる。

「あの女、調子に乗って千代様を蹴落とそうとしたのね」

「前から気に入らなかったのよ、あの女。ざまあみろって話」

通りがかった女官や千代の派閥の側室たちは咲夜を囲んでひそひそと噂話をする。

そこへ皇太后がやってくる。

途端に皆平伏せざるを得ない。千代の女官たちも、女官長も、咲夜も、そして野次馬中の美津子と静江も例外なく。

「呪いですって。この女が千代様を呪った犯人なの?」

皇太后は咲夜を犯人だと確信しているように咲夜を睨みつけた。

「いえ、まだ咲夜様がやったという証拠があるわけでは……」

女官長は慌てて皇太后を止めようとする。

「この女の部屋にこの札があって、この女がやってない理由は何だというの?」

「いえ、それは……」

しかし女官長の権力では到底、皇太后のそれに叶うはずもなく。

「この女の人形は証拠として没収なさい。詳しく調べるのです。その女の罪を」

そうして咲夜の人形は女官長によって再び没収されることとなった。

「そんな……」

冤罪をかけられ、人形まで没収され、失意に暮れる咲夜。

「……ごめんなさいね」

女官長は皇太后に聞こえないように咲夜の耳元で小さく囁いた。