赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

美津子が通された先は綺麗な個室だった。

個室は風通しも良く、庭には芍薬が風に揺れているのが見える。

美津子は案内された席に座る。

女官は美津子にお茶を出す。

「わあ、良い香りね」

ふわり、上質な香りが広がる。そのお茶が上等なものであることは明らかだった。

「お荷物をお触りさせていただきますね」

女官長は美津子に断り、恭しく白い布を広げた上に美津子が実家から持ち込んだ荷物を広げていく。

お気に入りの文房具、良い香りのお香、鮮やかな色の綺麗な衣装。豪華な髪飾り。豪華な輿入れ道具たち。

「今、身に着けている物も見せたほうがよろしいですか?」

「ええ、そうしていただけると助かります」

美津子は自分から女官長に声をかけ、着物の襟元から鮮やかな赤い石が目を引く首飾りを手繰り寄せ、外して女官に手渡す。

「こちらは?」

「幼馴染から餞別に貰ったものです。こちらは持ち込んでもよろしいですか?」

「ええ、もちろん大丈夫です」

女官長はその首飾りについて、それ以上美津子に問うことはなかった。首飾りはあっさりと美津子に返される。

荷物検査を待つ間、美津子が出されたお茶を飲んでいると、隣の大部屋から何やら声が聞こえてくる。

何かを床にぶちまけたような大きな音もする。

「こちらの裁縫道具も、凶器の可能性がありますし、安全が確認されるまでは没収です。こちらの薬草も。毒草の可能性がありますわ。恐ろしい」

「それは薬草です。毒なんかじゃありません」

悲痛な声と、冷たい女官たちの声。

「何事かしら。騒がしいわね」

美津子は気になって聞き耳を立てる。

「あら、何かしらこの人形は」

「それは、やめてください。その人形は大切なものなんです」

「ダメよ。呪詛に使う人形かもしれない。外の男から貰ったものかもしれないし、こんなもの、処分すべきよ」

「お願いです。他は構いません。その人形だけはどうかお許しを」

その声があまりに悲痛で、いたたまれなくなった美津子が襖を開けると、女官によって今まさに人形が床に叩きつけられようとしている。

傍らには彼女に許しを請う、一人の女性。

宮廷に似つかわしくない地味な衣装を身にまとうその女性は、飾り気のない黒髪、顔立ちは清楚で素朴、意志の強そうな目をしている。

「変なもの、持ち込まないでよね」

「そうよ。汚らしいわ」

一人の女性を女官たちが囲んでいる。彼女らは口々にあらぬ噂をまくしたて、二人のやり取りをまるで見世物のように眺めている。

美津子は思わず眉をひそめた。

「あなたたち、何をしているの?」

美津子が見ていることに気付いたその女官は、人形を振りかざした姿勢のまま固まる。

「……大山様、これは、違うのです」

その女官は人形を慌てて背中に隠し、ごまかしの笑みを浮かべた。