赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

美津子が二人の背中を見送った後、美津子の部屋に神祇伯が訪ねてきた。

彼はいつも通りの正装をしている。

「寒くないんですか?よろしければ生姜湯でもいかがです?」

彼の衣があまりに薄く寒そうに見えたので、美津子は思わず尋ねた。

「ええ、別に寒くはありませんよ。でも、せっかくだから生姜湯はいただこうかな」

神祇伯は手慣れた様子で静江から生姜湯を受け取る。

「そういえば、帝と咲夜様、随分うまく行っているようですね。先ほども仲睦まじく歩く彼らとすれ違いましたよ」

「ええ。そのようですね」

美津子は最近咲夜と話していない。これも所詮、側室として帝を奪い合うライバル同士なのだから仕方のないことなのだろうか。美津子は少し寂しい気持ちになった。

「ですが、美津子様。気を落とさないでください。きっと美津子様にも近いうちに春がやってきますよ。私が保証いたします」

美津子を安心させるように神祇伯は笑顔を見せる。

「保証までしていただけるの?頼もしいわね」

思わず故郷の大好きな牛飼童の顔が脳裏に浮かんで、美津子は笑みを取り戻す。

「元気になっていただけて良かった。私がここに来たかいがあったというものです」

それから生姜湯を飲み干して、神祇伯は部屋を去っていった。

その三日後のこと。

「すみません。ちょっとお部屋を調べさせていただくことは可能でしょうか?」

突然、一人の武官が付き添いの女官を伴って美津子の御殿へやってくる。

「突然何です?何があってお部屋を調べないといけないのか、言っていただけないと困りますね」

「ひっ……それはですね」

静江の低い声に驚いた武官は委縮した様子だ。新入りなのだろうか。どこか頼りない感じがする。

代わりに彼の付き添いの女官が説明を始める。

「実はですね。千代様が体調不良ということで、お医者様が誰かに呪われているのではないか?とおっしゃられて。今呪物を捜索しているのです」

それを聞いて美津子は、千代がひどく取り乱していたあの夜のことを思い出す。千代は大丈夫だろうか。美津子は心配になった。

「そういうことでしたら、私共の監視のもと調べていただくことは可能です。美津子様。この方々が、お部屋の方をお調べになるようですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

美津子は部屋を調べられて困ることが特に無かったため、二つ返事で了承した。

「では少々調べさせていただきますね」

そのようにして美津子の部屋の調査が始まった。

美津子は非日常の出来事に不安な気持ちを抱えながら、不謹慎ではあるが、少しだけドキドキしていた。