赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

光の中で、神祇伯は舞う。それは神に奉納するための舞である。

日の光で白い砂が反射し、白い服を身にまとう神祇伯をよりいっそう美しく映えさせる。

遠くの回廊から、後宮の側室たちや帝が見物している。

しかし神祇伯は彼らのことを見ていない。

無機質に真っすぐ正面の一点を見つめ、神祇伯が見ているのはそこにおはす神ただ御一人。

採り物に榊の枝を両手で胸の高さにまで掲げ、捧げ持ちながら左右に振りかざす。

龍笛、笙の音の響きが張り詰めた空気を一層引き立てる。

重厚的で直線的、ゆったりとした舞である。

舞の最中に神祇伯が動きを静止すれば、緊張が走る。

その場の空気が一瞬にして張り詰める。

深く息を吸い、静止した状態から、笛の音と共に滑るように動き出す。

神祇伯の人並外れた美貌は、さながら太陽の神を思わせる。

美津子もその他の観客たちも神祇伯の舞を茫然と見ていた。

時間が過ぎるのを忘れるように。

そうして秋は過ぎてゆく。

屋根瓦の上にはうっすら雪が積もる。

松の木は雪をかぶり、葉を落とした木には、新しく雪の葉ができたようにみえる。

後宮の建物の隙間を冷たい風が吹き抜け、忍び寄る底冷えが冬の厳しさを肌で感じさせる。

側室たちや女官たちの装いも白を基調とした冬にふさわしいものとなり、防寒用に綿が入った羽織も出されている。

外の世界は驚くほど静かだ。無音の世界のなか、雪だけがただ降り積もってゆく。

部屋の中央に置かれた陶器の火鉢は温かい炭火の音をパチパチと響かせ、上品な沈香や白檀の香りが部屋に満ちる。

美津子はかじかんだ手を火鉢の傍で温めながら、静江に作ってもらった生姜湯を飲んでいる。

「寒いわね」

「ええ。そうですね」

静江はこんな寒い中でも動きを鈍らせることなく淡々と自分の仕事をこなしている。

しんしんと降り積もる雪。今日はあとどれくらい積もるだろう。こんなに雪が降っていては到底外に出る気分にもなれない。

美津子はただ外の景色を眺めていた。

そういえば故郷の父や母は今頃どうしているだろうか。美津子は故郷の景色に思いをはせる。幸い悪い知らせは届いていない。

おそらく皆、無事ではあるのだろうが、美津子はなんとなく家に帰りたい気持ちになった。

その時一組の男女が美津子の御殿の外を通る。

それは帝、そして咲夜の二人だ。

二人は仲睦まじく寄り添いながら、廊下を通ってどこかへ歩いて行った。

美津子は去ってゆく二人を思わず目で追ってしまう。けれど歩く二人は一度たりとも美津子のいる御殿の方を見ることはなかった。二人はお互いに相手だけを視界に捉えて、それ以外の全てをのけ者にしている。

美津子には二人がそんな風に見えていた。