赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

皇太后の通り道では誰もが皆が平伏する。

千代たちの行列はあらゆる側室の局を自慢げに歩いて回っているようだ。

廊下で千代の行列と咲夜がすれ違う時、千代の御付きの女官がわざと足をかけて咲夜を転ばせる。

「ああ、無様なものね」

千代の御付きの女官たちは、転んだ咲夜を見て笑う。

咲夜は転んだまま、千代を睨みつける。

「何をするのです?」

咲夜が怒っても千代は動じない。謝りもせず、ただ虫けらを見るように咲夜を見下す。

「私が正室になったら、あなたのような下賤の女はすぐにでも追い出してあげますとも。楽しみにしていてくださいね」

咲夜への嘲笑が辺りを覆う。皇太后はそれを見て穏やかに微笑んでいる。

それはまるで祖母がやんちゃ盛りの孫を見守るような穏やかな笑顔であった。

「……千代様。ご妊娠なさったというのは本当なのですか?」

咲夜の発言に、千代は気色ばむ。

「それ、どういう意味かしら」

千代の怒りを皮切りに、女官たちは咲夜を取り囲んで睨みつける。

「どうもこうも、千代様が今お召しのお香。その甘い匂い、少し嗅いだだけで分かります。それは妊婦には禁忌のはずですよね」

「……っ。それは」

言葉に詰まる千代。皇太后も二人のやり取りに眉を顰める。

「それは気が付かなかっただけで、今後は控えれば良いことです」

焦って言い返す千代。

「では、ご懐妊なさってから何月ほどなのです?」

「……は?何月って……」

千代ははっきり答えられないようだ。

「千代さん、二月ほどでは?」

すかさず皇太后が助け舟を出す。

皇太后は鋭い目つきで咲夜を睨みつける。しかし、咲夜は動じない。

「二月にしては、服の上から見てわかるほどお腹が大きいようですが」

それを聞いた女官たちは思わず千代の腹部を見た。

「お前たちまで私を疑うのか」

千代は怒りのままに周囲の女官たちまで怒鳴りつける。

その時、騒ぎを聞きつけた帝が千代たちの方へやってくる。

「何の騒ぎだ?」

冷たい声色で問いかける帝。そこにいる者どもは平伏せざるを得ない。

「千代様がご懐妊だと伺いました」

咲夜が答えた。

すると帝は千代に向かい合う。

「……なぜ、そのようなすぐわかる嘘をつくのだ」

千代は平伏したまま固まる。

「私は、今まで一回たりとてお前の元に渡ったことはない。愚かな嘘をつくようなお前を余が愛することは、これまでも、そしてこれからも決してない」

それだけ言い捨てて帝は去っていった。

俯く千代の顔は、怒りのあまり真っ赤になっている。

「お待ちください、陛下。今の発言は許されるものではありませんよ」

皇太后は帝を追いかけて去ってゆく。咲夜も千代を呆れた目で見て、足早に去った。

囲んでいた女官たちも用事を装って離れてゆく。

誰かが言った。

「惨めね」

と。言葉はやがて宙に消える。

そうして廊下には千代だけが残された。