赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

「単刀直入に申すが、貴殿の持っている赤い石を余に見せてはもらえぬか?」

「赤い宝石ですか?」

美津子は身に着けていた首飾りを外して、帝に手渡した。

帝は手渡されたそれを訝し気に見つめる。

「陛下、その宝石を調べるためにここに来たんですか?ご側室たちと仲良くなるためではなく?……まさか、私が言った赤い翡翠なんて冗談を真に受けているわけじゃありませんよね」

「……確証がないなら疑わざるを得んだろう。もし本物だったりしたら一大事だ」

疑われている。美津子は固唾を飲んで見守る。

美津子にとってその首飾りは単なる幼馴染からの餞別。大事になるような秘密は何も無い。

赤い宝石は透明で、くすみも無く、どこまでも鮮やかに輝く。

「隣国の正式な婚約道具なら、王家の紋章があるのでは?陛下。うちの国の翡翠にも紋章がありますよね?ないということは普通の首飾りでは?」

「黙れ。神祇伯殿は隣国の婚約道具を見たことがあるのか?本当にそうと言えるのか?」

「確かにそれはそうですが」

参ったなと呆れる神祇伯。

真剣に石を見つめる帝。

「神祇伯殿……これはどのように翡翠と見分ける?」

「一般的には透明度や重さなどで見分けますね」

帝は石を手に持ち、重さを調べようとする。

「どうです?うちの翡翠と比べて重いですか?軽いですか?」

「そうだな。かなり……軽く感じる」

「そうですか。ならば翡翠ではない可能性が高いですね」

ほっとしたような顔をする帝。

「ちなみに透明度は?明かりにかざしてみて、何か見えますか?」

帝は石を太陽の光に翳す。

「明らかに透き通っているな。何も見えない」

しばらく眺めてから帝は首飾りを美津子に返した。どうやら納得して貰えたようだ。

「すまないな。この首飾りは返す」

ばつの悪そうな表情をする帝。

「どうです?翡翠でしたか?」

それを煽る神祇伯。

「翡翠ではないようだな。紋章もなどもないようだし。しかし……そもそもこうなったのは、お前が要らぬ冗談を言うからだぞ」

「でも、赤い宝石を見たら誰だって赤い翡翠を一度は思い浮かべますよね」

「それは、そうだが……」

帝は言葉に詰まる。

隣国の皇族が婚約道具に赤い翡翠を用いるらしい。というのはこの国の誰もが知るほど有名な話だった。