赤い翡翠と緑の硬玉〜ある側室の一年〜

女官たちによって重箱が配られ、昼食が始まる。

重箱には干された魚や肉、木の実や餅菓子などが詰められている。宮中のいつもよりは豪華なご馳走である。とはいえ美津子にとってはそれほど珍しいものでもない。

食事が終わると次は詩を詠む時間だ。

「あたたかな
春の芽吹きを
食む音や
川辺で洗う
牛の黒い背」

何回も考え直して美津子は一生懸命に詠んだが、観桜の宴なのに桜と遠すぎる詩であったため、周囲は失笑する。

周囲は「牛?」「なぜ今牛?」「桜は?」というような顔をしている。帝も疑問を感じたのか首を傾げているようだ。

千代は田舎者が失敗したと嬉しそうに笑っている。ただ、その後に咲夜が優れた桜の詩を詠んだため、すぐ不機嫌に戻ったが。

咲夜は美津子とは違い素晴らしい詩を詠んだため、あの帝にさえお褒めの言葉を貰っていた。

その後、管弦の演奏や舞楽の奉納が行われ、宴は夜になるまで続いた。

そして観桜の宴が終わって三日後のこと。

「このお茶美味しいですね。桜を見ながらだとひときわ美味しく感じます」

「そう。気に入ってもらえて良かったわ」

観桜の宴での約束の通り、美津子の部屋に咲夜が遊びに来ていた。

部屋から見える桜は数本でも、宴の時のように人ごみがないため、圧倒的に楽に桜を鑑賞することができる。

今は桜が満開を過ぎ、少し散りかけた頃合い。今を逃すと来年まで桜を拝むことはできなくなる。

美津子たちが桜を楽しんでいると、御殿の玄関から女官の驚く声が聞こえる。

「へ陛下、陛下と神祇伯様がおなりになられました」

慌てふためく女官たち。帝が御殿に入ってくると、彼女たちは次々と平伏する。

美津子たちもお茶を飲む手を止めて平伏した。

「面を上げよ……余はそなたに用事があって来たのだ」

静江は手早くお茶を淹れ、帝と神祇伯に二杯、お出しした。

「茶は結構。用事が終われば、すぐに帰る」

帝は出されたお茶をはねのける。帝の目元には隈があり、どうやら少し疲れているようだ。焦りも感じられる。

「せっかくだからお飲みになられたらいかがです?美津子様のところのお茶、とっても美味しいですよ」

咲夜は無邪気に帝にお茶を勧めた。帝は咲夜の目を見る。咲夜の澄んだその目には少しの邪気も感じられない。春の陽気のような温かい笑顔だ。

「おやおや、急に出向いたのにお茶までいただけるなんて嬉しいですね」

神祇伯は見つめあう咲夜と帝を眺めながらお茶を楽しむ。