翡翠の万華鏡

ある春の朝、牛車の車列が後宮の朱塗りの立派な正門をくぐる。

屋形を引く牛は、毛並みが良く、手入れの行き届いた立派な牛。檳榔毛(びろうげ)の上品で白っぽい車体。屋根の上にかかる紫の車幕は錦で金糸が繊細に織り込まれている。

「お方様、お屋敷につきましたよ」

従者の一人が屋形に声をかける。車を引いていた牛が外され、従者が轅の間に踏み台を置く。

すると牛車の中から一人の女性が現れる。車を支え、視線を遮るように彼女を取り囲む従者たち。

彼女は使用人に囲まれながら前板を踏みしめ、地面に降り立つ。

彼女の名は、美津子。

美津子は西の果ての辺境貴族、大山の娘。今日から美津子は側室として、この後宮で過ごすことになる。

美津子は、思いっきり新鮮な空気を吸い、伸びをする。何日も何日も牛車に揺られ、ようやくたどり着いた。すがすがしい気持ちとともに、新鮮な気持ちであたりを見回す。

ここが都。お国の政治の中心、宮廷なのかと。

自然たっぷりの田舎でのびのびと育った美津子にとって都の建物や風景は珍しいものばかりだ。

女官長率いる女官たちは整列して美津子を出迎える。

「ようこそ大山様、心より歓迎いたします」

恭しい挨拶。そして美津子は出迎えた女官長に部屋に通されようとしていた。その時だった。

美津子たちとは別の一台の牛車が後宮の正門をくぐってこちらにやってくる。

「困ります、お方様、只今取り込み中ですのでどうか少々お待ちください」

その牛車は数人の従者を連れ、小ぶりな牛が引いている。竹を編んで作ったような簡素な屋形。車幕も地味な薄い浅葱色。御簾も簡素な竹のようだ。

そのたった一台の牛車は門を入って少ししたところで下っ端の女官に止められている。

「お方様、どうか裏手へおいでください」

「すみません、裏門がどこかわからなくて、間違えてしまいました」

焦り、謝罪する数人の従者たち。彼らを裏口へ誘導する女官たち。その牛車は誘導に従い、あっという間にどこかへ移動させられていった。

「何だったのかしら、もしかして私がお邪魔でしたか?」

「いえいえ、とんでもございません。この度は私共の手違いでご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

牛車が去っていた方を興味深そうに眺める美津子と、対照的に一瞥もくれない女官長。

けれど気にはなっても調べるすべはなく、美津子は女官長の案内に従うことにした。