それから毎日、髪を綺麗にとかして、制服もゴミがついていないか、よくチェックして登校するようになった。いつでも光岡くんに話しかけられてもいいように、いつでも勇気が出たら光岡くんに話しかけられるように。
だけど、光岡くんはすぐ近くの席のいつでも話しかけられるわたしよりも、まだ一緒に写真を撮っていない子たちを捕まえることに苦心している。
探されている子たちも、光岡くんの噂を聞きつけているようで逃げ回っているようだ。しかも、光岡くんは遠慮知らずで、ドアの前で名前を呼んで探すからさらに避けられている。
わたしはその様子を見て、やっぱり話しかけられずにいた。いつでも準備が出来ているはずなのに、終わってしまえば楽になるはずなのに。
そして、光岡くんは一人、また一人と攻略していく。
「光岡。あの隣のクラスの宇津木とも写真撮ったんだって。よく撮らせてくれたな」
放課後。ホームルームが終わると、光岡くんの元に男子がやって来る。
「ああ。頼み込んで、お菓子まで付けてなんとか」
「写真撮るだけなのに、それでなんとかかよ! 光岡もよくやるよな!」
「あと佐伯と米原さんだけだ。佐伯は別のクラスだし、部活が忙しくて中々タイミングが合わないんだよな」
佐伯さんは陸上部のショートカットの似合うさっぱりした女の子だ。最後にわたしと佐伯さんが残っていることは意外に感じた。
「そうだ。米原さん」
「な、なに?」
わたしは会話を聞いていないふりをして振り返る。
「例の写真、このあといいかな? まだ撮っていないの米原さんともう一人だけなんだよね」
「そうなんだ。……うん。いいよ」
「良かった。俺、先生に用事あるからさ。下駄箱ででも待っていてよ」
光岡くんは鞄を持って教室を出ていく。
残されたわたしは、のろのろと机の中のノートや教科書を取り出して、グルグルと考えを巡らせた。
一番不思議なのは佐伯さんだ。
わたしは自分から避けているから残るのは当たり前だけれど、佐伯さんが光岡くんを避ける必要があるのだろうか。二年生に進級して、わたしが光岡くんのことが気になり出したときに、よく二人が話していた記憶がある。きっと一年生のときに同じクラスだったのだろうと、そのときは思った。
仲が良かった佐伯さんと、どうしてまだツーショット写真を撮れていないのだろう。タイミングが合わないと言っても限度がある。
「……あ」
ひとつだけ心当たりが見つかった。
光岡くんを避ける理由は、わたしと一緒かもしれない。光岡くんが廊下でツーショット写真を撮っている様子を遠巻きに佐伯さんが見ていたことを思い出した。
転校することを知っているかは分からないけれど、光岡くんがいつもと違うことは感じ取っていてもおかしくない。本当のことを知りたくないから逃げているのかもしれない。
それとも、この機会に光岡くんに告白しようとしているのかも。
そう思うと胸の奥がざわめきだす。
佐伯さんが告白するかもしれないのに、わたしの気持ちは胸の奥に閉じ込めたままでいいのだろうか。
ホルンを吹いたとき。光岡くんがどこにいても音を届けられる気がした。それだけ強い気持ちがある。もうチャンスはきっと今しかない。
「……言おう」
小さくつぶやいて、わたしは席を立った。


