「で、計画は順調なの?」
昼休み、食堂でうどんを啜りながら櫂がぽつりと言った。わたしはその時、目の前のうどんに七味をふりかけていた。櫂が頼んだきつねうどんがあまりにも美味しそうだったのでいつもは体型維持の為に昼を抜いているわたしも、今日は自分の食欲に従うことにしたのだ。
「第一段階。接触は達成!」
咀嚼しながら口元を左手で隠し、右手で親指を突き立ててみせる。櫂はわたしの計画を唯一知っている人間だ。子供の頃から一緒だったからかもしれない。櫂には全てを話せた。
去年、わたしは高校初日の入学式でクラスメイト達との交友関係に躓き、人生に絶望する程に気持ちが追い込まれてしまったが、それでもなんとか学校に行けたのは櫂が気にかけてくれたからだ。当時、櫂は隣の隣のクラスで何なら夏頃にはテニス部の彼女までいたのに放課後一人で帰ろうとするわたしをみつけると、「おっ莉子じゃん」と声をかけ家まで送ってくれたりした。わたしは、その優しさに救われた。
「なれるといいな。友達」
「とりあえずわたしっていう存在は知って貰えた。あとは葉山美鈴の周りの子たちとも仲良くしたいからそれはどうするか考え中」
「そっか」
陽だまりみたいな笑みを浮かべ、それから麺を啜ってる。みながら思う。櫂とわたしは本当に不思議な関係だって。櫂の全部をわたしは知っているし、櫂のことが心から好きだけれど、異性として好きかと聞かれたら違う気がする。
現にわたしは櫂に彼女が出来た時はいつも心の底から喜び、応援してあげている。去年もそうだった。櫂から「いや、なんかさ最近気になってる子いるんだよな」と聞かされた時は隣で一人で騒いでしまった。告白しておっけーして貰ったと聞かされた時は涙が出そうになった。結局、そのテニス部の子とは別れてしまったけれど、いつかまた櫂に好きな子が出来たらわたしはきっと心から応援するだろう。
この感情の、この関係の名前が分からなかった。人としては好き。一緒にいると落ち着く。櫂といる時だけは、わたしは三澄莉子になる。この数日間、葉山美鈴という皮を被っていたはずなのに、わたしはいつの間にかわたしに戻ってしまう。それが嬉しいか嬉しくないかは分からないけれど、楽ではあると思う。そう、楽なのだ。自然体でいられる。
よく男女の友情は成立するのかって議論が巻き起こるけど、わたしは心底成立すると思う。一緒にいると楽で、気兼ねなく話せる。それがたまたま男の子で、櫂だったというだけだのだ。性別なんて関係ない。そんなことを考えながら櫂の顔をみつめていると、すっと視線が流れていった。食堂の、受け取り口の辺りに目をやっている。
「噂をすればなんとかだ」
咄嗟にえっと顔を向ける。そこには葉山美鈴がいた。周りにはいつもの女子たち。ちょうど受け取り口のところでお昼ご飯を受け取るところだった。話したい。素直にそう思った。すると、わたしのなかがみえてるみたいに「ほら、いってこいよ」と声がした。櫂がにっと笑っていた。
「いいの? 一緒に食べてたのに」
「いいよいいよ。俺もう食べ終わるから」
櫂が器を両手で持ちあげみせてくれる。麺はもうほとんど残ってなかった。ちいさく頷き、席を立つ。手ぐしで髪を直し、葉山美鈴の元へと向かった。歩みを進めていく度にわたしはわたしでは無くなっていく。ばいばい。無属性。葉山美鈴として、葉山美鈴に「あっ葉山さん」と声をかけた。
昼休み、食堂でうどんを啜りながら櫂がぽつりと言った。わたしはその時、目の前のうどんに七味をふりかけていた。櫂が頼んだきつねうどんがあまりにも美味しそうだったのでいつもは体型維持の為に昼を抜いているわたしも、今日は自分の食欲に従うことにしたのだ。
「第一段階。接触は達成!」
咀嚼しながら口元を左手で隠し、右手で親指を突き立ててみせる。櫂はわたしの計画を唯一知っている人間だ。子供の頃から一緒だったからかもしれない。櫂には全てを話せた。
去年、わたしは高校初日の入学式でクラスメイト達との交友関係に躓き、人生に絶望する程に気持ちが追い込まれてしまったが、それでもなんとか学校に行けたのは櫂が気にかけてくれたからだ。当時、櫂は隣の隣のクラスで何なら夏頃にはテニス部の彼女までいたのに放課後一人で帰ろうとするわたしをみつけると、「おっ莉子じゃん」と声をかけ家まで送ってくれたりした。わたしは、その優しさに救われた。
「なれるといいな。友達」
「とりあえずわたしっていう存在は知って貰えた。あとは葉山美鈴の周りの子たちとも仲良くしたいからそれはどうするか考え中」
「そっか」
陽だまりみたいな笑みを浮かべ、それから麺を啜ってる。みながら思う。櫂とわたしは本当に不思議な関係だって。櫂の全部をわたしは知っているし、櫂のことが心から好きだけれど、異性として好きかと聞かれたら違う気がする。
現にわたしは櫂に彼女が出来た時はいつも心の底から喜び、応援してあげている。去年もそうだった。櫂から「いや、なんかさ最近気になってる子いるんだよな」と聞かされた時は隣で一人で騒いでしまった。告白しておっけーして貰ったと聞かされた時は涙が出そうになった。結局、そのテニス部の子とは別れてしまったけれど、いつかまた櫂に好きな子が出来たらわたしはきっと心から応援するだろう。
この感情の、この関係の名前が分からなかった。人としては好き。一緒にいると落ち着く。櫂といる時だけは、わたしは三澄莉子になる。この数日間、葉山美鈴という皮を被っていたはずなのに、わたしはいつの間にかわたしに戻ってしまう。それが嬉しいか嬉しくないかは分からないけれど、楽ではあると思う。そう、楽なのだ。自然体でいられる。
よく男女の友情は成立するのかって議論が巻き起こるけど、わたしは心底成立すると思う。一緒にいると楽で、気兼ねなく話せる。それがたまたま男の子で、櫂だったというだけだのだ。性別なんて関係ない。そんなことを考えながら櫂の顔をみつめていると、すっと視線が流れていった。食堂の、受け取り口の辺りに目をやっている。
「噂をすればなんとかだ」
咄嗟にえっと顔を向ける。そこには葉山美鈴がいた。周りにはいつもの女子たち。ちょうど受け取り口のところでお昼ご飯を受け取るところだった。話したい。素直にそう思った。すると、わたしのなかがみえてるみたいに「ほら、いってこいよ」と声がした。櫂がにっと笑っていた。
「いいの? 一緒に食べてたのに」
「いいよいいよ。俺もう食べ終わるから」
櫂が器を両手で持ちあげみせてくれる。麺はもうほとんど残ってなかった。ちいさく頷き、席を立つ。手ぐしで髪を直し、葉山美鈴の元へと向かった。歩みを進めていく度にわたしはわたしでは無くなっていく。ばいばい。無属性。葉山美鈴として、葉山美鈴に「あっ葉山さん」と声をかけた。

