翌日の学校は、前日と同じメイクで登校した。そう、今の私は葉山美鈴だ。三澄莉子じゃない。上から下まで同じ制服を着た生徒たちが、まるで小魚みたいに群れをなし校門に吸い込まれていく。バカ笑いをしながら歩く男子たち。甲高い声で推しの話をする女子達。私は彼らに囲まれながらも群れの一部として歩みを進めていく。でも、そのなかで私は特別。私は一番目立ってる。空から降り注ぐ、五月の太陽のひかりだって皆に平等にあたっているようにみえるが実際は違う。輝くべき人のところにだけ光量が多く降り注いでいる。そう、私みたいな。だって、私は学年一うつくしい葉山美鈴だから。
「おい、君」
振り返ると、校門の傍に立っていた男性教諭がじっと私をみつめていた。上下共に青のジャージに身を包み怪訝な表情をしている。すぐに駆け寄った。
「なに?」
いつものわたしならば、ですかと付けるがわたしはわたしじゃないからここはタメ口で。
「なんだよその格好は。ちょっと派手すぎないか? 爪もなんだそれ、化粧までしてるじゃないか」
「いぇーい」
両腕を持ち上げ、仕上げたばかりのネイルをみせつけてやる。男性教諭は何故か顔をしかめた。
「いいでしょこれ」
顔の前に腕を突き出すと男性教諭がついには眉間に皺を寄せ「君、学年とクラスは?」と低い声が渇いた唇から漏れた。おっと、と私は踵を返し校舎のなかへと一目散に駆け出した。待ちなさい!と背中に声が突き刺さったが振り返らなかった。急いで靴を履き替え階段を昇っていた時だった。「おい、三澄」と背中を叩かれ振り返ると、三人の男子が笑いに満ちた表情で私をみつめていた。だが、目が合ってから「え」と目を丸くする。
「なんか今日違うくない? いつもと」
「そう。わたしじゃないよ。葉山美鈴」
「……葉山って」
「うん、隣のクラスのかわいい子」
男子たちは絶句した。階段の踊り場のとこで静寂が降りる。けれど、ワックスで短い髪を固めている男の子がその間を埋めるように「いや、そんなことより」と顔の前で手を振った。
「さっきの、なんだよあれ」
「さっきの?」
問いかけると、隣の男子がぷっと吹き出すようにして笑った。
「お前さっき校門のところで須藤に喧嘩売ってたろ」
あー、と頷く。あの男性教諭はどうやら須藤という名前らしい。わたしは喧嘩を売ったつもりはないけれど。
「ネイルが可愛く出来たからみせてあげたの」
「お前まじでいかれてんな。須藤って一年の柔道の教師だぞ? 皆あいつが怖くて授業の前から腹痛くなってるくらいなのに喧嘩売るのはやばすぎるわ」
「売ってないけど」
「いやいや、いぇーいって言ってたじゃん」
「だからあれは可愛く出来たからみせてあげただけ」
センター分けの男の子が「お前まじでどうした?」と問いかけてくる。
「一年の時、そんな感じじゃなかったじゃん」
横の二人が「えっそうなの」と訴えかけるると、ご丁寧に私の一年の時の生態を簡潔にまとめてくれた。陰キャラで学校に来ない日も多々あり、不登校寸前。
「なのにこいつさ、二年になる少し前からまるで人が変わったみたいに」
「やめて」
「えっ」
「それ、わたしでしょ? さっきも言ったけど今のわたしはわたしじゃないから。葉山美鈴なの」
ついに三人の顔から完全に笑みがひいた。「……あ、葉山」と消え入りそうな声で呟く三人の傍を「じゃあね」と笑顔で手を振って通り過ぎた。
「おい、君」
振り返ると、校門の傍に立っていた男性教諭がじっと私をみつめていた。上下共に青のジャージに身を包み怪訝な表情をしている。すぐに駆け寄った。
「なに?」
いつものわたしならば、ですかと付けるがわたしはわたしじゃないからここはタメ口で。
「なんだよその格好は。ちょっと派手すぎないか? 爪もなんだそれ、化粧までしてるじゃないか」
「いぇーい」
両腕を持ち上げ、仕上げたばかりのネイルをみせつけてやる。男性教諭は何故か顔をしかめた。
「いいでしょこれ」
顔の前に腕を突き出すと男性教諭がついには眉間に皺を寄せ「君、学年とクラスは?」と低い声が渇いた唇から漏れた。おっと、と私は踵を返し校舎のなかへと一目散に駆け出した。待ちなさい!と背中に声が突き刺さったが振り返らなかった。急いで靴を履き替え階段を昇っていた時だった。「おい、三澄」と背中を叩かれ振り返ると、三人の男子が笑いに満ちた表情で私をみつめていた。だが、目が合ってから「え」と目を丸くする。
「なんか今日違うくない? いつもと」
「そう。わたしじゃないよ。葉山美鈴」
「……葉山って」
「うん、隣のクラスのかわいい子」
男子たちは絶句した。階段の踊り場のとこで静寂が降りる。けれど、ワックスで短い髪を固めている男の子がその間を埋めるように「いや、そんなことより」と顔の前で手を振った。
「さっきの、なんだよあれ」
「さっきの?」
問いかけると、隣の男子がぷっと吹き出すようにして笑った。
「お前さっき校門のところで須藤に喧嘩売ってたろ」
あー、と頷く。あの男性教諭はどうやら須藤という名前らしい。わたしは喧嘩を売ったつもりはないけれど。
「ネイルが可愛く出来たからみせてあげたの」
「お前まじでいかれてんな。須藤って一年の柔道の教師だぞ? 皆あいつが怖くて授業の前から腹痛くなってるくらいなのに喧嘩売るのはやばすぎるわ」
「売ってないけど」
「いやいや、いぇーいって言ってたじゃん」
「だからあれは可愛く出来たからみせてあげただけ」
センター分けの男の子が「お前まじでどうした?」と問いかけてくる。
「一年の時、そんな感じじゃなかったじゃん」
横の二人が「えっそうなの」と訴えかけるると、ご丁寧に私の一年の時の生態を簡潔にまとめてくれた。陰キャラで学校に来ない日も多々あり、不登校寸前。
「なのにこいつさ、二年になる少し前からまるで人が変わったみたいに」
「やめて」
「えっ」
「それ、わたしでしょ? さっきも言ったけど今のわたしはわたしじゃないから。葉山美鈴なの」
ついに三人の顔から完全に笑みがひいた。「……あ、葉山」と消え入りそうな声で呟く三人の傍を「じゃあね」と笑顔で手を振って通り過ぎた。

