ハッピーエンドバター

 美鈴は、わたしが学校を飛び出したことを知り心配して電話をしてくれたらしかった。更には電話だけでは気持ちが伝わらないかもだからと、美鈴の学校終わりに直接会って話そうという事になった。場所は学校から徒歩十五分程の場所にある公園で。

 待ち合わせ時間にいくと、美鈴は既に待っていた。「こっち」と指を差し、わたしはその後をとぼとぼと追いかけた。顔を見れなかった。美鈴の投稿した写真を、場所も構図もメイクや服装まで丸っきり模した写真を投稿しているわたしのアカウントを自ら送ったのだ。いくら同性でも気持ち悪いに決まってる。ストーカーとか、イタズラ半分でわたしに近付いてきたの、と罵られても仕方がないと思っていた。けれど、美鈴はベンチに座るなり「莉子ってさ、私のファン過ぎない?」と砕けたような笑みを浮かべ背中を擦ってくれたのだ。

「ご、めんね」

 もう随分前から泣いていた。悪ふざけが過ぎたのだ。誰かの真似をして、誰かに成り切り、そこから人間関係を構築することが出来るとわたしは過信していた。相手の気持ちなんてこれっぽっちも考えていなかった。

「気持ち悪いよね」

 再度頭を下げる。すると、美鈴が「ねえ、ちょっと」と肩に手を添えてきた。

「謝って欲しくて来たんじゃないんだけど。っていうか、私怒ってるようにみえる?」
「え」
「莉子はさ、真似るのが好きなんでしょ? しかもあそこまで完璧に真似られるのってさ特技の域じゃん」
「え、あ」

 顔をあげると、美鈴が笑っていた。春の陽だまりみたいな暖かい笑みだった。

「っていうかさ、真似してなにが悪いの? そんなこと言い始めたら皆そうでしょ。私だってそうだよ」

 それから美鈴は自身の過去を話してくれた。小学校から中学の終わりまで丸々とした体形だった為に美鈴は女子からも男子からもいじめられていたらしく、もう二度とあんな目に会いたくないと高校に入学するまでの期間は必死にダイエットに勤しんだらしかった。更には、もう二度といじめられたくないとこれまでドラマや映画でみてきた強い女性像を身に纏い葉山美鈴というキャラクターを作り上げたらしかった。

「なんかさ、私ももう疲れてたんだよね。男子からは遠目にみられるし女子には気を使われるし、でも今更キャラ変出来ないでしょ? だから友達といる時とか学校にいる時は常に気を張ってたね。少しでも弱みをみせたらまたいじめられるかもって。やられるくらいならこっちから仕掛けてやろうって入学してからずっと虚勢を張った。私は、強い私でいなきゃって」
「そう、だったんだ」
「だからかな、莉子がより痛々しくみえた。本当の自分は違うのに少しでも周りからよく見てもらおうって頑張ってる感じ? まるで自分をみているみたいで」

 美鈴の言う通りだった。わたしは葉山美鈴で、葉山美鈴でいなければならないと思っていた。そうしなければ友達なんて出来ないって。

「真似をするのはいいと思う。誰かの良いところを自分に取り入れるみたいな。さっきも言ったけどそんなの皆やってるしね。でも、他人に成り切るのは辞めた方がいいんじゃない? ってか、それやる意味ある?って思う私は。どれだけ頑張ったって人は根っこの部分は変わらないし、莉子には莉子の良さがあるじゃん。現に私はけっこう好きだよ。莉子のこと。ちょっと行き過ぎてるとかもあるかもだけど真っすぐなとことか、明るいとことか?」

 また涙が出そうだった。溢れてしまわないように思わず顔をあげた。「私はさ」と声が降ってくる。

「自分なりに努力したんだよ。デブとかブスとか高校に入ったらもう絶対に言われたくなくて、ダイエットとか垢抜ける方法をいろいろ試した。結果、別の高校だけど一つ上の彼氏も出来た。インスタにDM貰ったの。付き合って一年? とかなんだけど、二ヶ月前くらい前からどうやら浮気されてるってぽくてさ、それを誰にも相談出来無かった。今まであんな強気な感じで私モテますみたいな雰囲気漂わせてた女がさ、浮気されてるとか絶対馬鹿にされるじゃん? だからずっとイライラしてた。でも、莉子と話すようになって、明らかに私を意識してるのは目に見えて分かったけど、この子はこの子なりに頑張ってるんだって思ったら頑張ってた自分を思い出してちょっと癒されてたんだよね」

 手を取られた。

「だから変に気にしすぎるのはやめてよ」
「許してくれるの」

 問いかけると、美鈴が大きく頷き、私の目からはより涙が溢れた。

「許すも何も初めから怒ってないって。今回のことで何も変わらないし、私たちこれからも友達でしょ?」

 私は泣きながら何度も頷いた。美鈴はそんな私をそっと肩に寄せてくれた。