クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った

「はぁ……」

 高校生活終盤3年の秋。

 俺こと斎藤隆史(さいとう たかし)は悩んでいた。

 大学に進むか、それとも実家を継ぐべきか。

「はぁ……」

 ため息は尽きない。

 自分の将来を考えるなら大学に行くべきとは思うが、俺には2つ歳下に優秀な弟が居る。

 実家の家計的に大学に通えるのは俺か弟のどちらか。

 となれば弟が大学に行って色々勉強し、家業の現場は俺が仕切る……っていうのが多分一番丸く収まる。

 そうなれば高校が最後の学生生活となるわけだが……。

「実家の手伝いであんまり友達できなかったな……」

 普通に話をする友達は居る。

 少ないお小遣いで買ったライトノベルを回し読みしたりするオタク仲間は居るには居るのだが、3年に上がる時のクラス分けで別クラスになってしまったし、家業が牛や鶏などの家畜、米や野菜などを育てる農家の長男なので、部活に参加することができず、朝起きて牛舎の掃除をしてから学校に通い、授業が終われば寄り道せずに家の手伝い。

 家族経営の農家はどこもこんなもんなのだが、ちょっと頭が良かったから、農業高校ではなくそこそこの偏差値の公立高校に進学したのが間違いだった。

 気をつけているとはいえ、牛舎の匂いが体に染み付いてしまい、慣れてない人は眉をひそめる。

 農業やって恰幅が良かったのでいじめの標的にはなってないが、今のクラスに仲が良い奴も少なく、一番話すのはクラスのリーダーでラグビーをやってる園田くらいだろうか。

「そんな園田はクラスの男女に囲まれて相変わらず人気そうなこと」

 俺がボソッと呟く。

 窓から廊下を見ると、自販機の前でうちのクラスのいじめられっ子の松田がいじめっ子集団にジュースを買わされていた。

 松田は何というか……幼い。

 いや、高校生にもなっていじめなんかすんなよと思うが、いじめっ子達も受験勉強のストレスとか鬱憤が色々溜まっているのだろう。

 で、松田は実家が金持ちで受験しなくても良い暮らしができるんだって前に金持ちアピールしていたが為に、いじめの標的にされてパシリやらされている。

 まぁ暴力や暴言みたいなことまではいってないし、買わされるとしても購買のパンや今回みたいなジュースとかなので、いじめてる側も内申を気にしてやることがみみっちい。

「はぁ……彼女作ればよかったなぁ……でもデートとかする余裕もないし……農家に嫁ぎたいって覚悟決まった女子はこの学校には居ないもんなぁ……」

 早起きして牛舎掃除をしてから登校したので、めっちゃ眠い。

「ん? なんかおかしくね?」

 よく見ると周りのクラスメイト達も机に突っ伏して眠ってしまっている。

 さっきまで賑やかだったクラスが静寂に包まれている。

 女子達に囲まれていたら園田は壁にもたれかかる形で眠っているし、女子達も床に転がって眠っていたりする。

(やべぇ……絶対普通じゃないのに、俺も体が動かねぇ……そして無性に眠たい)

 必死に眠るのを堪えるが、遂に堪えきれずに意識を手放してしまった。





 目が覚めると、俺は豪華な内装の大広間に居た。

 床には魔法陣が描かれており、周囲にはローブを着たいかにも魔術士っぽい人達が俺……いや、俺達を取り囲んでいる。

 他のクラスメイト達も起き始め、周囲をキョロキョロと見渡す。

「成功だ! 勇者の召喚に成功したぞ!」

「「「「おお!」」」」

 ローブの人達が喝采を上げている。

 俺を含めクラスメイト達は混乱していたが、恐る恐る園田がローブの1人に話しかける。

「すみません、ここは何処でしょうか? 僕達はさっきまで学校に居たはずですが……」

 すると、大きな水晶の付いた杖を手に持っている初老の男性が園田の問いに答えてくれた。

「ここはゲルマ王国……古くよりこの世界に災いが訪れる時、勇者を召喚している」

「勇者……召喚」

「うむ、文献には十数人から数十人程度の異世界の青年の男女が召喚されるとされている大いなる力を持った者達がな」

「す、すっげぇ! 勇者召喚の儀だ! ラノベみたいだ!」

 クラスメイト達の多くが困惑する中、空気を読まない松田が興奮していた。

 俺は頭痛くなる。

 こいつは幼いと思っていたが、頭が中学生から進歩してない。

 しかもラノベ読んでたらわかるだろ……こういう時って大抵ヤバい状況だぞ……。

「王様が居たりお姫様が居たりするんだよね! ここには居ないの?」

 松田の暴走は続く。

 というかラノベでは確かに王様やお姫様の前で召喚されてっていうのがテンプレだが、普通に考えて目の前によくわからない異世界人呼ぶんだぞ……要人警護の観点で居るわけ無いと思うのは俺だけだろうか? 

「王や姫は確かに居るが、生憎席を外しておる」

「いやいや、勇者が召喚されるんだから普通出迎えるでしょ」

「松田ちょっと黙れ」

 いじめっ子のリーダー格の後藤が松田を黙らせる。

 松田が喋っていたら話が進まないのでナイスだ。

「コホン、まず先に言っておきますが、勇者はこの中の1人で、他の者は勇者に及ばすとも力を持つ。その力を使って魔王を討伐してくだされ」

 初老の爺さんの話によると、彼はこの国の宮廷魔道士の筆頭で、俺達を召喚したのもこの爺さんの魔法によるもの。

 魔王を倒してくれればこちらから渡せる報酬を渡した上で、元の世界に帰してくれる……とのことだが、今一信用ならない。

 そして勇者かどうか見極めるにはステータスオープンと叫び、ステータスを表示すれば職業が勇者になっている者がいるとのこと。

 とりあえずやらなければ始まらないので、皆口々にステータスオープンと叫び、ステータスが表示されていく。

「ステータスオープン」

 俺も周りに合わせてステータスオープンと叫ぶと、薄い水色の画面が現れてこう書かれていた。

 名前 サイトウ・タカシ
 年齢 17
 性別 男
 職業 農家/ファーマー
 レベル 1
 体力 F
 気力 G
 知力 G
 器用 G
 筋力 E

 技
 ・捕まえる
 ・合成する
 ・鍛える
 ・道具を作る

「うん?」

 俺はちょっと周りを見渡してみる。

 隣に居た女子のステータスが見えたが俺と書かれていることが全然違った。

 名前から職業のところまでは一緒なのだが、レベルって表記は無いし、ステータスの値も、

 HP
 MP
 パワー
 ガード
 マジック
 スピード
 ラック

 と、表記されている。

 他の人達を見渡しても俺と同じ表記の奴は誰も居らず、さっき見た女子と同じ表記となっていた。

 俺はコソコソっと近くのローブの人に近づき、

「あのー」

「は、はい! どうしましたか?」

 声の感じ的に女性っぽい。

「周りと表記が違うっぽいんですけど」

「ええ? 見せてもらっても良いですか?」

「はい、ステータスオープン」

 再びステータスを表示すると、ローブの女性も困惑しており、

「こんな表記……初めて見ました……レベルって何でしょう……ちょ、ちょっとお待ちを」

 先ほどの初老の魔道士様は案の定というか勇者に選ばれていた園田の前に跪いて、どうかこの国を救ってくだされ……と俺に構うどころではないし、勇者に選ばれなかった松田はキレているし、それを煩わしく思った後藤が松田をヘッドロックしているし、直ぐに帰してって泣き出す女子も居て現場は大混乱。

「ちょ、ちょっとこっちに……」

 俺はローブの女性とその上司っぽい兵士に連れ出されて、広間を後にするのだった。






 小部屋に通された俺は席に座るように促され、座っていると、ローブをしていた女性がフードを取って顔を見せてくれた。

「すみません、個室に連れ出してしまって……」

「いえ、あれだけ混乱していると、同じ空間に居づらかったので、別室に連れられてありがたいくらいです……あ、名前ですが自分サイトウって言います」

「サイトウさんですね。私は見習い宮廷魔道士のミンナと申します。こっちのお兄さんが」

「タジマだ。お兄さんって年でもねぇ。中年になっても下っ端衛兵やってる出世できなかったおじさんだ」

「ミンナさんにタジマさんですか……俺を連れ出してよかったのですか?」

「よくは無いが、悪くも無い。この国の上層部は勇者以外の異世界人に関しては良くて勇者の露払いができれば良いと思ってる。それに大抵の異世界人の場合浮かれるか、困惑か、泣くかのどれかだ。早々に近くの人物に質問するってのは中々勇気がいることだ」

 タジマさん曰く、魔王と呼ばれる存在が出現して5年、自分達でも独力で解決に向けて動いていたらしいが、各国の歩調が合わず、各個撃破されている状態であるらしい。

 この国は前線というわけではないが、前線に兵や物資を送り続けており、国庫が圧迫されている。

 それを少しでも良くするために勇者を召喚し、戦闘訓練を施した後に他国に支援と称して勇者を送りつけて恩を売る。

 それで魔王が倒せれば御の字、倒せなくても人類が結束するまでの時間稼ぎができれば上々……というくらいであるのだとか。

「それを俺に言っても良かったのですか?」

「よくはねぇが、どの道お前は勇者じゃないんだ。国から支援を受けられるが、なるべく自立を求められる。勇者の仲間として鉄砲玉をやりたいってなんなら止めねーが」

「うーん、仲が良いってわけでもないんで……ちなみに勇者が魔王を倒せば返してくれるって本当なのですか?」

「さぁ、そこまでは知らねぇ。でも召喚には莫大な魔力が必要だ。それこそ今回の召喚に国内の錬金術師達が総出で作った魔石を1年分投入してようやくだったからな。それに見合う功績を残したならまだしも、勇者とその仲間以外の連中まで願いを叶えるとは思わないほうが良いかもな」

「よくそこまで喋ってくれますねタジマさん」

「俺の先祖も勇者召喚で巻き込まれて帰れなくて土着した人物だからな。生憎、強力な力までは遺伝しなかったが」

 タジマさん曰く、今後の動きとしては、勇者と勇者に付いていく仲間数名には国が総力を上げて戦闘訓練等を行い、そうで無い人物は監視役と支援金を渡して放流って感じになるらしい。

「放流って」

「あそこに居たローブを着た連中は召喚された異世界人が悪さしないように抑えつける役目と勇者以外の監視役候補ってわけだ。サイトウは既にミンナが広間から連れ出したから、必然的にミンナが今後面倒を見るってことになるがな」

「私そこまで優秀ってわけじゃないのと数合わせ的な側面が強かったので、戦闘をガンガンやる人物とは組みたくなかったので、農家ってなってるサイトウさんの目付役なら楽かなーって思いまして」

「まぁこいつも打算で動いたわけだ」

 まぁ農家なんて戦闘できなさそうな職業になっているわけだし、俺もいきなり命の危険がある場所に行けって言われて行けるほど覚悟は決まってない。

 元の世界に戻りたい気持ちはあるが、それで園田のお世話になっても早々にお荷物になるのが目に見えている。

 ここは独自路線で行くのが吉……か? 

「えっと……現在地がゲルマ王国……でしたっけ? 俺はそれ以外情報が無いので色々お二人に質問することになりますが良いですか?」

「おう、答えられる範囲なら答えるぞ」

「わ、私も答えます」

「それじゃあ」

 いきなりこの世界で支援金持たされて放り出されても生きていくことは難しい。

 目付役のミンナが居てもだ。

 お金とかはあるのかどうか、それを稼ぐ手段、物価、食文化、生活の質……聞けることは何でも聞いた。

 それに二人は答えられる範囲で答えてくれた。

(お金はシンクって単位で、だいたい1シンク10円で、貨幣は硬貨が基本、食文化は過去の転移者が整えてくれたからか、和洋中ある程度はある。何ならマヨネーズや醤油、味噌とかも流通しているらしいな。生活水準は現代に比べれば低いけど、江戸時代とか中世ヨーロッパくらい低いわけじゃない……か)

 トイレと風呂の文化があるって聞いて安心した。

 そして金を稼ぐ手段としては、身分を保証するために冒険者ギルドに登録し、日雇いの仕事をするか、郊外に出没する魔物を倒して素材を確保し、それを売却するか……町の住民から信用を得れれば正規雇用の様に働ける可能性もあるとのこと。

(結局序盤は肉体労働か。俺にはレベルって概念があるから戦闘すれば能力が上がるかもしれないし……)

「ちなみにこんなステータスは本当に居ないんですか?」

「ああ、そのステータスは異質だ。技なんてのは表示されることは無いし、普通ステータスは数字で表示される」

 タジマさんがステータスを開くと確かにHPとかMPとかに100とか80とかの数字が表記されていた。

 俺のアルファベット表記は明らかに異質である。

「普通とは違う……この一点に私は賭けました! 国からは異世界人の監視役は1年間って言われていますが、普通ではない人なら楽しそうですし、何より農民って職業なら私でも何か起こした時に鎮圧できそうなので……」

(鎮圧すること前提かよ……まぁ松田とか見てたら何も言えないわな。とりあえず泣こうが喚こうが異世界に拉致された事実は変わらん。となれば自分の待遇を少しでも良くするしか無いか……はぁ……親父、お袋、そして弟よ。多分そっちには帰れそうにないわ)

 少しでも立場をマシにするために俺は動くのであった。