「あー、全部言わされちゃったなー」
そう言いながらも、俺はなんだか清々しい気持ちになっていた。
絶対言わないつもりだったこと。一生心に仕舞っておいて、取り出すことなどないはずだったこと。
でも今では、こうなることが始めから決まっていたようにさえ思える。このまま彼といたら、これからも不思議なことがどんどん起こりそうだ、なんて。
そして逆に三崎くんのほうはというと。
「な、なんかその、言わせておいてなんだけど、いざ言われると、照れるな」
なぜか俺よりも挙動不審になっているから、ちょっと笑いそうになる。
ここにきてこんな穏やかな時間が流れ始めたのもなんだか可笑しくて、結局くすくすと笑ってしまう。
「ふふふ」
「かわいい」
「え? もうまたそうやって〜」
軽く流そうとしたら、――三崎くんは真剣な顔でじっと俺を見ていた。
「こんなにかわいいのに、なんで妥協だと思うの?」
「――……」
なんでって……なんでも何も……。
妥協以外ありえないから、当たり前だって思ってたんだけど……。
「だって……女の子じゃないから……」
「女の子じゃないから?」
だって、ずっと見てきたから……。
「俺は、ずっと三崎くんのこと見てたから。だから知ってた」
「……」
「三崎くんの周りには、いつも一軍の――1番かわいい女子たちがいて、中学の間は常に彼女だっていたのに、それでも女の子たちに囲まれてて……だから、ほんとは女の子が好きなんだって、それぐらいわかるよ!」
まっすぐ見つめられながら、こちらは目を伏せて言い募る。
これは、ずっと思い続けていたこと。
当たり前だと思っていた本音……。
男子校では、一定の男子がシンデレラになる。
卒業したら解ける魔法。女子のいない特別な世界でだけ見ることができる、限られた期間の夢。
好きだって思ってくれるのは、魔法にかけられているから。
きみが俺を好きなのは、ここが男子校だからなんでしょって……――。
「……最後の彼女なんて」
「……え?」
「すごい美人で……二人、本当によくお似合いで…………俺なんかが、あの子みたいになんてなれるわけない」
「え、ちょ、ちょっと待って、それって」
「わかってるよ。もう別れたんでしょ。そうじゃなきゃ俺に告白なんてしてこないって、さすがにそれくらいはちゃんとわかってるから。でもごめん……この前、たまたま一緒に歩いてるの見ちゃったからさ」
「えぇっ!?」
「それがあんまりお似合いすぎて、なんか二人の周りだけ別の世界みたいで、それ見ちゃったら、わかっててもなんかさ……」
「待って! 一旦ストップ!」
なんだか妙に慌てた様子で、三崎くんは訥々と喋り続ける俺を全力で止めた。
「それもしかして、果乃花のことか!?」
「え? いや、名前まではよく覚えてないけどさ……」
突然出てきた女子の名前に若干の戸惑いを覚えながらも、あてにならない記憶を一応手繰り寄せてみる。言われてみると、確かにそんな名前だったような気もするが、カノカだったら何だっていうのか。
……すると三崎くんは、なんだか呆れているような脱力しているような顔になって、わざわざ立ち上がると、大声で言い放った――。
「アホか! アイツこそが本物の女好きだ!!」
……
……
……へ?
「……果乃花は確かに、中学の後半戦を1番そばで支えてくれていたかもしれない。幼なじみだから、俺がほんとは進学校なんか目指せるほど成績も頭もよくないってことよく知ってたし、……なんでそこまでしてこの学校に入りたがってるのかもアイツは知ってたから、全力で応援してくれてたんだよ。……でも、アイツが俺に貼り付いてたのは、俺の近くにいれば可愛い女の子たちが集まってくるから、それが目当てだったんだよぉ!!」
…………はい?
え? 何? どういうこと?
「ちなみに今は女子校に入学して毎日ヨダレ垂らして高校生活謳歌してるぞ。カフェGrimの近くにあるお嬢様校知ってる? あそこの生徒たちがよく俺目当てで店に来るから、校内でカリスマになってる果乃花に牽制してもらったりとかもしてる」
「…………えぇ〜……」
「……あぁ、俺果乃花と付き合ってると思われてたのか……。アイツだけはマジで勘弁して……」
いや良い奴なんだけどさと呟きながら、三崎くんはすっかり気が抜けた様子で再び俺の横に座り直した。
……えーと、つまり?
俺が三崎くんの中学時代のラスト彼女だと思っていた、今でも仲良く並んで歩くような関係の、1番美人だった女の子は、三崎くんの周りにいる女の子たちが目的だった女好きの女の子だった。
……そういうことですか?
「女の子が好きな、女の子?」
「そう」
ぽかんと口をあけていたら、どこか遠くで黒猫が俺をバカにするように笑った気がした。
それにつられるように、俺と三崎くんも、――いつの間にか顔を見合せて笑っていた。
「姫ちゃんはさ、俺を信用してないんじゃなくて、自分が1番だってことをわかってないんだよな」
ひとしきり笑った後、ふと何かに気づいたように三崎くんが言う。
「え?」
「よし、まだ時間大丈夫?」
「時間? 大丈夫だけど……」
「じゃあ、来て!」
そう言うと先に立ち上がって、手を取って俺のことも立ち上がらせる。触れられることが、だんだん自然になってゆく。慣れは飽きじゃなくて、幸せのひとつなのかもしれない。
「どこに?」
「カフェ。閉店後だから貸し切り」
「えっ、で、でも、いいの?」
「心配?」
俺は無言でコクコクと何度も頷いた。流れ止めちゃってごめん……。でも俺こういうの気にしちゃうから。バイトの一存で決めて大丈夫なのかとか考えちゃうから。「じゃあ行きまっかー」とは言えないんだ……。
「わかった! じゃあ今から店長の許可取るから見てて!」
「え! 今から!?」
いやいやいやご迷惑でしょ!
しかし俺の制止も何処吹く風で、三崎くんはおもむろにスマホを取り出して、何回か画面をタップするとイヤホンを探し、見つかる前に電話が繋がってしまったようで、諦めて本体を耳に当てて通話に応じた。電話かける前にイヤホン用意しとけばいいのに、と思ったけど言わなかった。
「あ、父さん?」
……
え、父さん?
「店閉めたんだけどさ、今からちょっと私用で店内使っていい? うん、ちゃんと片付けて帰る。おっけー? 助かる〜。じゃ、それだけ〜。ナイター邪魔しちゃってごめんねー」
「……」
「許可取ったぞ」
「え、店長……?」
「そう。店長うちの父さんなんだよ。あいじんのシフトなんかも、俺が頼んで融通してもらってたんだぞ?」
そうだったのか……なんかやけに融通の利く職場だなぁと思ってたんだけど。
「ねえ、もしかして黒猫飼ってたりする?」
「黒猫?」
あ、それは違うのか。
「とにかくそういうことだから、問題なくなっただろ? 姫ちゃん俺がいる時絶対来てくれないんだから、今日は接客させてよ」
「え? あ……」
そう言うと今度は有無を言わさず、また俺の手を取って、店に向かって歩き出す。これじゃ、手を繋いで歩いてるみたいだけど……。
あれ? やっぱりまだ、慣れてなかったみたいだ。
そう言いながらも、俺はなんだか清々しい気持ちになっていた。
絶対言わないつもりだったこと。一生心に仕舞っておいて、取り出すことなどないはずだったこと。
でも今では、こうなることが始めから決まっていたようにさえ思える。このまま彼といたら、これからも不思議なことがどんどん起こりそうだ、なんて。
そして逆に三崎くんのほうはというと。
「な、なんかその、言わせておいてなんだけど、いざ言われると、照れるな」
なぜか俺よりも挙動不審になっているから、ちょっと笑いそうになる。
ここにきてこんな穏やかな時間が流れ始めたのもなんだか可笑しくて、結局くすくすと笑ってしまう。
「ふふふ」
「かわいい」
「え? もうまたそうやって〜」
軽く流そうとしたら、――三崎くんは真剣な顔でじっと俺を見ていた。
「こんなにかわいいのに、なんで妥協だと思うの?」
「――……」
なんでって……なんでも何も……。
妥協以外ありえないから、当たり前だって思ってたんだけど……。
「だって……女の子じゃないから……」
「女の子じゃないから?」
だって、ずっと見てきたから……。
「俺は、ずっと三崎くんのこと見てたから。だから知ってた」
「……」
「三崎くんの周りには、いつも一軍の――1番かわいい女子たちがいて、中学の間は常に彼女だっていたのに、それでも女の子たちに囲まれてて……だから、ほんとは女の子が好きなんだって、それぐらいわかるよ!」
まっすぐ見つめられながら、こちらは目を伏せて言い募る。
これは、ずっと思い続けていたこと。
当たり前だと思っていた本音……。
男子校では、一定の男子がシンデレラになる。
卒業したら解ける魔法。女子のいない特別な世界でだけ見ることができる、限られた期間の夢。
好きだって思ってくれるのは、魔法にかけられているから。
きみが俺を好きなのは、ここが男子校だからなんでしょって……――。
「……最後の彼女なんて」
「……え?」
「すごい美人で……二人、本当によくお似合いで…………俺なんかが、あの子みたいになんてなれるわけない」
「え、ちょ、ちょっと待って、それって」
「わかってるよ。もう別れたんでしょ。そうじゃなきゃ俺に告白なんてしてこないって、さすがにそれくらいはちゃんとわかってるから。でもごめん……この前、たまたま一緒に歩いてるの見ちゃったからさ」
「えぇっ!?」
「それがあんまりお似合いすぎて、なんか二人の周りだけ別の世界みたいで、それ見ちゃったら、わかっててもなんかさ……」
「待って! 一旦ストップ!」
なんだか妙に慌てた様子で、三崎くんは訥々と喋り続ける俺を全力で止めた。
「それもしかして、果乃花のことか!?」
「え? いや、名前まではよく覚えてないけどさ……」
突然出てきた女子の名前に若干の戸惑いを覚えながらも、あてにならない記憶を一応手繰り寄せてみる。言われてみると、確かにそんな名前だったような気もするが、カノカだったら何だっていうのか。
……すると三崎くんは、なんだか呆れているような脱力しているような顔になって、わざわざ立ち上がると、大声で言い放った――。
「アホか! アイツこそが本物の女好きだ!!」
……
……
……へ?
「……果乃花は確かに、中学の後半戦を1番そばで支えてくれていたかもしれない。幼なじみだから、俺がほんとは進学校なんか目指せるほど成績も頭もよくないってことよく知ってたし、……なんでそこまでしてこの学校に入りたがってるのかもアイツは知ってたから、全力で応援してくれてたんだよ。……でも、アイツが俺に貼り付いてたのは、俺の近くにいれば可愛い女の子たちが集まってくるから、それが目当てだったんだよぉ!!」
…………はい?
え? 何? どういうこと?
「ちなみに今は女子校に入学して毎日ヨダレ垂らして高校生活謳歌してるぞ。カフェGrimの近くにあるお嬢様校知ってる? あそこの生徒たちがよく俺目当てで店に来るから、校内でカリスマになってる果乃花に牽制してもらったりとかもしてる」
「…………えぇ〜……」
「……あぁ、俺果乃花と付き合ってると思われてたのか……。アイツだけはマジで勘弁して……」
いや良い奴なんだけどさと呟きながら、三崎くんはすっかり気が抜けた様子で再び俺の横に座り直した。
……えーと、つまり?
俺が三崎くんの中学時代のラスト彼女だと思っていた、今でも仲良く並んで歩くような関係の、1番美人だった女の子は、三崎くんの周りにいる女の子たちが目的だった女好きの女の子だった。
……そういうことですか?
「女の子が好きな、女の子?」
「そう」
ぽかんと口をあけていたら、どこか遠くで黒猫が俺をバカにするように笑った気がした。
それにつられるように、俺と三崎くんも、――いつの間にか顔を見合せて笑っていた。
「姫ちゃんはさ、俺を信用してないんじゃなくて、自分が1番だってことをわかってないんだよな」
ひとしきり笑った後、ふと何かに気づいたように三崎くんが言う。
「え?」
「よし、まだ時間大丈夫?」
「時間? 大丈夫だけど……」
「じゃあ、来て!」
そう言うと先に立ち上がって、手を取って俺のことも立ち上がらせる。触れられることが、だんだん自然になってゆく。慣れは飽きじゃなくて、幸せのひとつなのかもしれない。
「どこに?」
「カフェ。閉店後だから貸し切り」
「えっ、で、でも、いいの?」
「心配?」
俺は無言でコクコクと何度も頷いた。流れ止めちゃってごめん……。でも俺こういうの気にしちゃうから。バイトの一存で決めて大丈夫なのかとか考えちゃうから。「じゃあ行きまっかー」とは言えないんだ……。
「わかった! じゃあ今から店長の許可取るから見てて!」
「え! 今から!?」
いやいやいやご迷惑でしょ!
しかし俺の制止も何処吹く風で、三崎くんはおもむろにスマホを取り出して、何回か画面をタップするとイヤホンを探し、見つかる前に電話が繋がってしまったようで、諦めて本体を耳に当てて通話に応じた。電話かける前にイヤホン用意しとけばいいのに、と思ったけど言わなかった。
「あ、父さん?」
……
え、父さん?
「店閉めたんだけどさ、今からちょっと私用で店内使っていい? うん、ちゃんと片付けて帰る。おっけー? 助かる〜。じゃ、それだけ〜。ナイター邪魔しちゃってごめんねー」
「……」
「許可取ったぞ」
「え、店長……?」
「そう。店長うちの父さんなんだよ。あいじんのシフトなんかも、俺が頼んで融通してもらってたんだぞ?」
そうだったのか……なんかやけに融通の利く職場だなぁと思ってたんだけど。
「ねえ、もしかして黒猫飼ってたりする?」
「黒猫?」
あ、それは違うのか。
「とにかくそういうことだから、問題なくなっただろ? 姫ちゃん俺がいる時絶対来てくれないんだから、今日は接客させてよ」
「え? あ……」
そう言うと今度は有無を言わさず、また俺の手を取って、店に向かって歩き出す。これじゃ、手を繋いで歩いてるみたいだけど……。
あれ? やっぱりまだ、慣れてなかったみたいだ。


