たとえば私がいないほうが。

 私の声が届いたわけではないと思うけれど、光里の足が病院ではない道へと進んで行った。
 そして交通量の少ない、長い下り坂へとさしかかった。
 登ってきた人への休憩用なのか、ギリギリふたりが座れるくらいの小さなベンチがあり、そこに腰かけた光里は坂を見おろしながら遠い目をしている。

 光里は明るくて可愛くて、笑顔がよく似合う。ムードメーカーで、私が光里たちのグループに入れたのも彼女が先に声をかけてくれたから。
 思い詰めているような浮かない表情なんて、初めて見た。

「……こんなに見通しのいい道で転ぶなんて、鈍くさすぎるでしょ」

 ぽつりと呟いた光里に「私もそう思う」と返事をした。

 私は、ここで事故を起こした。

 そこで意識が途絶え、気付いたら不思議な声に導かれ、今ここにいる。
 いるけどいない。いないけどいる。
 生きていても、今も、自分がひどく不確かな存在だということには変わりない気がした。