たとえば私がいないほうが。

 お母さんが仕事に出かけるタイミングで、私も家を出た。
 足は勝手に、通い慣れた学校へと動いた。

 途中で何人かとすれ違ったけれど、誰とも目が合わなかった。
 リードに繋がれた柴犬が、不思議そうに私を見ながらワンとひと声吠えただけ。

 私の教室までは、あっさりと辿り着いた。
 誰かにくっついてドアをくぐることは、案外簡単だった。
 だって、私がくっついていても誰も文句を言ってこないのだから。

 今日の最後の授業が始まる時間だった。
 チャイムが鳴ったのに、誰も自分の席に戻らない。仲のいい友達同士で固まって、おしゃべりをしている。

 先生が教室に入ってきたところで、やっと各々お席に戻っていった。

「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」

 間延びした号令に、気怠い雰囲気。
 窓際の一番前が空席になっている。そこが、私の場所だった。

 誰にも気づかれないのをいいことに、席と席の間を練り歩いて、みんなの手元を覗いた。
 スマホをいじっている子、堂々と居眠りをしている子。

 いつも授業で真面目に先生に意識を向けて、きっちりとノートを取っていたのは私だけだったみたいだ。授業を受けていると見せかけて、落書きをしている子も多い。

 教室を一周練り歩いただけですぐに飽きて、結局普通に授業を聞いて過ごした。
 どうせ見えないのだから、なにかいたずらでもしてみようかと思ったけれど、ユーモアのない私に楽しいいたずらは思いつかなかったので諦めた。