たとえば私がいないほうが。

 さっきから、小さな違和感が胸を突く。
 乱雑にテキストを広げていた学習デスクは、きれいに片付けられている。
 床に脱ぎ捨てていたルームウェアが見当たらない。

 お母さんが勝手に片付けた? いつの間に?

 カーテンの隙間から外を覗くと、木枯らしが舞っていて、マフラーを巻いたサラリーマンが首を竦めて歩いていた。
 外、すごく寒いんだろうな。

 まだぼんやりとした頭でそう思うと同時に、今度こそ大きな違和感に気が付いてしまった。

 私、寒くない。

 寒くもなく、暑くもない。
 エアコンを見ると、風向口はぴたりと閉じている。

 壁に掛けてある時計を確認すると、もうすぐ朝の8時になるところだった。
 部屋の雰囲気に合わない高級感のある壁掛け時計は、十六歳の誕生日に、お母さんがくれた物。

 本当は最新のスマートフォンが欲しくてお母さんにお願いしたのに「スマホなんてどれでも一緒でしょう」と、取り合ってもらえなかった。

 学校での休み時間にクラスメイトと愚痴を言い合ったのは、いつだっただろう。
『なんで大人って、子どもが欲しがるものにケチ付けるんだろう……』
 何気なく私が呟くと、ぽんぽんと言葉が返ってくる。

『ほんとそれ』
『クリスマスに電子辞書もらったときに感じた失望は、私一生忘れないと思う』
『わかるー。いっそ現金にしてくれって思うわ』

 そして、私以外の3人で会話が盛り上がっていった。

 
 あれ? 今日って何月何日だっけ。

 完成間近のジグソーパズルがそこにあるのに、ひとつだけ欠けているような感覚が込み上げる。