たとえば私がいないほうが。

 真っ白なもやが身体中に充満しているように、意識が薄ぼんやりとしている。
 遠くから、とても遠くから名前を呼ばれた気がして、まぶたをゆっくりと持ち上げた。

 目が覚めた時、私は立っていた。制服のまま、自分の部屋で。

 いくら寝るのが好きだからといって、立ったまま眠る特技を身につけた覚えはない。

 状況を理解できない頭で、ゆっくりとあたりを見回した。

 教科書や参考書が詰め込んであるカラーボックス。
 梯子付きのスチール製のロフトベッド。
 狭いベッド下の学習デスク。
 部屋のドアの内側にはポスターを貼っていて、まばゆい笑顔のアイドルと目が合った。

 雑誌の付録だったそれは「あたしの推しじゃないからあげる」という言葉付きで、クラスメイトからもらった物だ。
 折角だからと貼ってみたものの、ドアを開け閉めするたびに目が合うのが恥ずかしくて剥がそうと思っていたことを思い出した。

 6畳間の小さな私の世界は、ものの数秒で見渡せてしまう。